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11(299).猟騎姫

月明かりが闇の彼方に消えて行く。

3つの人影は、彼らの主を追い深淵へと進む。

辺りは変る事の無い鍾乳石が佇む世界。

同じ闇とは言え、世間の闇で生きる彼女にはストレスがたまるばかりだ。

荷物を抱え粛々と進む先方の男にソレをぶつけた。


「あーつまんない・・・」

「馬鹿国王は死んで、私は土竜か・・・」

「ソラス様の指示でも、面白みも無い風景が続くと・・・ハァ。」

「ねぇ、あんた聞いてんの?」

「なんか面白い事言いなさいな・・・ねぇ。」


「・・・うるさい女だ。」

「だが、服従させる楽しみはあるか・・・・」


「・・・」

「はいはい、あんたの頭の中は、それだけよね。」

「死んでも嫌よ!  あんたと寝るなんて考えたくも無い!」

「アー気持ち悪い!!」

「何よその目・・・」

「治まらないなら岩の裂け目にでも突っ込んでればいいのよ・・・このケダモノ!」

「キャ・・・・」


カーミラのヒールは、安定しない足場に取られ、彼女はバランスを奪う。

そこに差し出された腕は、彼女を優しく支えた。


「俺は、そこまで変態じゃない。」

「俺はな、愛があれば、どんな可能性にでもばら撒きたいだけだ。」


「変態!!」


カーミラは、逃げる様にカイナラーヤの腕から離れる。

その姿にカイナラーヤは、表情を変える事なく進む先に視線を戻した。

彼は、肩に担ぐ女性の位置を直し、闇の奥へと進んでいく。

後方からは、複数の魔力と遠吠えの様な叫び声。

3つの影は、静かに闇へと消えた。


先を進む者の匂いを感じとる呀慶とドゥルーガ。

呀慶は眉を顰めた。

ドゥルーガも同様の表情だが、それは呀慶とは違う匂いへの関心だ。

彼女は、後方を走るサラマの意見を仰ぐ。


「聖母だと・・・」

「あの騒動で死んたと思っていたんだが・・・・」

「サラマ・・お前はどう考える?」


サラマは、腕を組み目を瞑る。

そして記憶の海に飛び込んだ。

次の瞬間、ドゥルーガの拳が彼の頭部を揺らす。


(おせ)えよ・・・戦場で考え込むな。」

「お前、本当に死ぬぞ・・・」


「忠告だけは、感謝しますが・・・」

「戦場に行く前に、君に殺されかねないですよ。」


その姿に、ため息をつく彼女達の部下たち。

その一人は、ドゥルーガとサラマの間に入った。


「ドゥルーガ様、余りなぐらないでください。」

「これでも、大切な宮廷魔術師長なんです。」

「サラマ様もしっかり言えばいいんですよ・・・まったく。」


「トリジャータ、お前は私の部下だろ・・・フフッ。」

「まあいいさ、サラマはモヤシだからな。」

「トリジャータ、お前がサラマを守ってやれ。」


「何でそうなるんですか・・・まぁいいですけどぉ・・」

「って事なんで・・・サラマ様、よろしくお願いします。」


サラマは、頭を下げる黒豹のようなケットシーの手を両手で握る。

そして、同じように頭を下げた。


「そうですか、助かります!」

「トリジャータ副兵長、こちらこそ、よろしくお願いしましゅ・・・」

「ハハハッ、緊張のあまり噛んでしましましたね。」


「フフフッ。」


洞窟の中で、宮廷の昼下がりの様な会話をする二人に頭を抱えるドゥルーガ。

彼女は、ため息と共にその表情を鋭くした。


「で、どう考える・・・サラマ。」


「そうですね・・・あの魔力は、聖母に間違いありませんね。」

「しかし・・・どこかおかしい。」


「おかしい・・か。」


歩みを止め、振り向く虎娘。

彼女の視線に映る魔術師の表情は真剣だ。


「どこか・・・水に薄めた様な感じなんですよ。」

「君だって感じているのでしょ?」

「この匂いだって、腐敗臭に似ている・・・」


「お前もそう思うよな・・・アレは人なのか?」


サラマは、もう一度記憶の海に潜ろうとする。

しかし、彼の手を引き、それを阻止するトリジャータ。


「サラマ様、分析はイイですが・・・没頭するのはダメです。」

「また、ドゥルーガ様に殴られますよ。」


「あぁ・・そうですね。助かりましたよトリジャータさん。」


「・・トリジャータで構いません。」


空気は甘味をまし、背景も宮殿にでも変わりそうなほどだ。

ドゥルーガは、大きくため息をつく。


「殴らねえよ・・・あんまり殴ったら、こいつがバカになるだろ。」

「そもそも、私はそこまで野蛮じゃねえっての・・・」

「で、あれは死人か?」


「死人ですか・・・私には、そんな単純な匂いには思えません。」

「ただ、良いモノでは無い事だけは確かです。」


サラマは、言葉を終えると共に魔力を高め術式を発動させる。

それは、一行を包み皆に加護を与えた。


「わってるじゃねえか、お前も、伊達に長じゃねえよな。」

「よし、開戦と行こうか・・・」


ドゥルーガは、後方に控えるファウダの兵士達に声を飛ばす。

その姿は、先刻の戦姫達を彷彿とさせるが、それ以上に凛々しく、そして力強い。


「お前達、先に居るのが人であっても敵でしかない。」

「間違いだろうと、こんな所に迷い込んだ馬鹿が悪い。」

「さっさと叩いて、国に戻るぞ!」


「「「ウゥーー!」」」


静かな洞窟内に響き渡る遠吠え。

それは、一般人でしかない女商人の精神を追い詰めていくのであった。


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