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4(292).百の英雄

初日の攻略は終わり、第一階層を制圧。

僕達は1日の後、呀慶達を中心とした集団が攻略した道を下っていく。

そしてその翌日、僕達は第三層の攻略を始めた。

そこは自然洞窟から地上に出たかと思える空間が広がっている。

それは、リヒターのダンジョンと同じ開放型の空間だ。

洞窟の天井と思われる空間には空が広がり太陽が昇る。

不自然な風が、僕達の頬を掠める可笑しな空間だ。

それでも、その光景を初めて見る者は、外に出たかの様に緊張の糸を緩めた。


「はぁー、外はイイよな。」

「さっきまでの暗闇が噓みてぇだぜ。」

「あんなんが続いたら気が滅入っちまうよな。」


「フフフッ、まったくね。」


笑い合う兵士達。

だが、そこが地上のはずはない。

明らかな斜面を1日以上下り、さらに階段を数百は下ったのだ。

僕達の部隊には、既に王たちの顔触れはない。

その事が彼らに拍車をかけたのか、兵士達の緊張感は皆無。

ため息をつく冒険者達は、その分気を張っている様に思えた。


「エリクさん、ありゃ引っ張られますよ。」


「引っ張られますよじゃねえんだよ、引っ張られだよ・・・」

「あいつら、戻した方が良いな・・死んじまうぞ。」


「デュオ、レマリオんとこ行って来いよ。」

「アイツなら、王家に口利けるだろ。」

「邪魔な兵士に死なれても寝覚が(わり)いだろ・・・」


エリクは、舎弟の一人を、部隊中盤に控える傭兵団へと走らせる。

そこにいるであろう団長は、つまらなそうに魔法の光で遊んでいた。


「団長さん、兵士達をさげたほうが良くないですか?」

「エリックさんが、団長さんからファルネーゼ様に伝えてくれと・・」


「あぁ、俺もファルちゃんトコ行きてえけどさ。」

「今行ったら、全滅しちまいそうなんだけど・・・そこんとこどうなん?」

「この隊列で動けんのって、君んとことウチ、あとは後ろのルシアだけだろ?」


「・・・かもしれませんが。」

「どうにかなりませんか?」


「どうにかなりませんかじゃねえよって、エリクなら言うかもな。」

「君も感じんだろ・・・この魔力。」


デュオは、唇を噛む。

その姿に、副団長はため息を吐く。


「なぁ、アンタは魔導士だろ?」

「ウチの隊長は、精霊使いだからあんまり探知はしねえんだよ。」

「実際、何匹いるんだよ・・・この空間に。」


「俺にわかる範囲じゃ1匹。」

「多分、エリクさんは、少し違うかもしれない・・・」

「ただ、そんなに数がいる訳じゃないと思う。」

「だから、俺を出したんだ・・・」


副団長は眉を顰め、光で遊ぶ団長に視線を飛ばす。

その圧に、遊びを止め上空に光を飛ばすレマリオは声を返した。


「まぁ、そんなとこだろうよ。」

「問題は、そのサイズじゃねえのか?」

「ありゃ、アダンアルヴェス・・ヒューマンで言うコエルロスと変わんねえよ。」

「しかも、だいぶ狡猾なんじゃねえかな・・・距離が縮まんねえもんな。」

「・・・俺についてこれるヤツは、ここに何人いるんだ?」


「ルシアの兄貴なら間違いなく・・・」


デュオは、虚空に少女の様な少年を想い浮かべる。

それは、レマリオも理解している。

しかし、二人でどうにかなるとは思っていない。

想定される相手は、神獣の一角かその眷属。

ただの巨獣ではないのだ。

レマリオは、目を瞑り唸る。

そして、顎を天に向け、ため息を乗せた。


「あぁああああ! めんどくせえ状況だ。」

「ルシアは、後方だったよな。」

「デュオだったよな、お前んとこのエリクに準備させとけ。」


レマリオは、デュオの返答を待たず、視線を戻す。


「おい、俺はルシアんとこ行ってくる。」

「陣形を変えるぞ、後方の馬鹿共を真ん中に移す。」


レマリオは、副団長に団の指揮権を渡し、隊列の後方へ。

彼の背中が小さくなる中、ゴツイ声が指揮を務める。

声に従い傭兵団は、前後に別れていく。

そして中心に兵士達を集め、彼らを守る陣形へと変わった。

後方からは、ルシアを抱えたレマリオが走る。


「おい! レマリオ、降ろしてくれよ。」


「お前が走るより、こっちの方が早えよ。」

「暴れるくらいなら、準備をしておいてくれ。」


「ハァ・・・わかったよ。」


僕はため息をつき、意識を集中させる。

後方に過ぎていく兵士達の不思議そうな表情に、僕は羞恥心を抉られた。

とは言え、レマリオは集団の頭上を駆け、確かに早い。

僕は、あまり見る事の無い風景に、いつの間にか楽しみさえ感じていた。

それから数分も経つと、エリク達の居る最前列に辿り着く。

エリクは、僕を視界にとらえると笑顔を返した。


「ルシアの兄貴じゃあないですか!」

「お久しぶりです。」


「エリクさん、久しぶり。」

「レマリオから聞いたよ。」

「エリクさんも頑張っているんだね。」


僕の言葉にエリクは頭を掻く。

しかし表情を戻し、本題へと入って行った。


「兄貴も分かってると思いますが、どうにかしねえと全滅しちまいますよ。」

「アレは・・・やべえでしょ?」


「なぁルシア、エリクのいう事は間違っちゃいねえと思うんだが、どう見るよ?」


二人の視線は、僕に向けられている。

それは、エリクの舎弟も同様だった。

僕は、頬を撫で首をかしげる。

その姿は、何処か彼らに違和感を与えた。


「なぁルシア、どうなんだ?」

「もしかして、諦めてるとか言うなよ?」


レマリオの真剣な表情は、彼の団員たちに動揺を与えるた。

僕は、鼻から息を吐き笑顔を返す。


「諦めてなんてないよ。」

「確かにデカい魔力だね・・・」

「でも、神獣に比べたら・・・どうにかなる。」

「エリクさん達は、術士を纏めて支援をお願い。」

「レマリオは、僕と行くよ。」

「傭兵団は、エリクさん達を守ってね。」

「・・・こんな感じでどうかな?」

「あんまり群れても、手数が増える訳じゃないから。」


「有効な手数を重視するって事だな。」


「そうなるね・・・出来るでしょ?」


僕の挑戦的な表情に、レマリオとエリクは口元を緩めた。

そして、それぞれに声を返す。


「馬鹿にすんなよ、ルシア。」

「お前は、俺についてこれんのか?」


「兄貴に成果を見せますよ。」

「必ず認めさせますよ・・俺。」


僕は、士気の戻った彼らの言葉に笑顔で頷く。

そして、巨大な魔力に向け走り出す。


「じゃぁ、行くよ!」


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