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31(282).託される想い

東にあった太陽は、既に西の空を焦がし、その姿を隠そうとしていた。

3人は、息を切らせてゆっくりとその歩みを止める。

アリシアは膝を着き息を整える。

その表情を覗き込む小さな騎士は声を掛けた。


「お姉ちゃん、お家には帰らないの?」


「・・・ミディ、ごめんね。」

「もう・・・」


俯き返答できないアリシアに小さな騎士は言葉を続ける。

その姿は、既に家族を失ったことを理解しているかの様だった。

ミディは、左右に小さく首を振る。


「ううん・・お姉ちゃん泣かないで。」

「僕、おばちゃんにお願いされたんだよ。」

「だから、僕がお姉ちゃん達を守るんだ。」

「お父さんに代わってね。」


胸を張り、鼻の下を指で擦る姿は何処か誇らし気だ。

その姿にアリシアは、感情の堰は破綻する。

小さな騎士を抱きしめ、泣き崩れるアリシアは言葉を繰り返す。


「ごめんね・・・ごめんね・・・」


「お姉ちゃん・・・」

「泣かないで・・・僕も悲しくなっちゃうよ。」

「・・・」


二人は声を上げて涙を流す。

闇が満ちる森は、その声を隠す様に滝の音が掻き消した。

どの位経っただろうか、3人は丸くなり近くの巨木の(うろ)で一夜を過ごす。

鳥の囀りと木漏れ日が、アリシアに目覚めを与えた。

アリシアは、二人の寝顔に視線を送り頷く。

そして、両手で自らの頬を強く叩いた。


「・・・よぉし、私が頑張らなくちゃ。」


アリシアは、長かった髪をアデライードと同じ長さに切る。

そして、アデライードの首飾りの一つをそっと借りた。


「アデリア、あなたの為よ。少し借りるわ。」


そして、彼女は二人を起こす。

眠気眼を擦る小さな騎士と意思の無い妹を連れ、アリシアは巨木の洞を後にした。

森には、土の精霊たちが満ち溢れ、彼女に言葉を投げかける。


『アリシア、そっちにはコエルロスがいる・・・行ってはダメ。』


アリシアは、精霊の忠告に従い不思議な森を迂回する。

しかしそれは、最悪の二択とも言えた。

遠くには、彼女達を探す追手の声。

そして後方では、森の木々が軋み倒れる音。

アリシアは唇を噛み眉を顰める。

その表情にミディは、声を掛け走り出す。


「お姉ちゃん、大丈夫だよ。」

「僕も狼の "じゅーじん" だからね。」

「お父さんとお母さんの言いつけ破っちゃうけど・・・」

「僕、おばちゃんとの約束は守る!」

「だって、おばちゃん僕の事、騎士様って言ってくれたもん。」

「ヒューマンなんて僕一人でやっつけちゃうんだから!」


「ミディ、待って!!」


「だから、お姉ちゃん達は逃げて・・・」


「ミディ!!」


制止するアリシアの腕をする抜けミディは声のする方へ走る。

その姿は、徐々に膨れ上がり人の表情を失くす。

そして、上体を落とし4足で大地を駆ける。

少し経つと、森の奥では人の悲鳴と獣の雄たけびが響き渡った。

アリシアは、握りしめた手をを血でにじませる。


「ごめん・・・ミディ・・・」


言葉を残し、アリシアは、アデライードを連れ滝へ向け走る。

後方では爆破音と共に、甲高い獣の叫び。

アリシアは、目を瞑り唇を噛む。


「ごめんなさい・・・」


二人は、川をさかのぼる様に岸を走る。

日が暮れる頃に1件の古ぼけた漁師小屋を見つけた。

そこは人の痕跡などとうに無く、ただの掘立小屋でしかない。

それは彼女達にとっては、むしろ好都合だ。

アリシアは、アデライードと共に屋根裏へと身を隠す。

川のせせらぎだけが聞こえる中の物音に気を立てながら過ごす夜は長い。

アリシアは、アデライードを抱きしめ目を瞑る。

気が付くと、屋根の隙間から差し込む光。

二人は、小屋の中で体を拭き、衣服を取り換えた。

アリシアは、アデライードの顔を見つめ声を掛ける。


「アデリア、聞こえている・・・」

「私は貴方を守るわ。」

「これは、あなたが姫だからじゃないの。」

「私が、あなたの姉だからよ。」

「ねぇ、聞こえてる?」

「アデリア、あなたはもう姫じゃなくていい。」

「アデライードじゃなくていいの・・・ねぇアデリア。」

「辛くなったら、私のこと思い出して・・・」

「私は、あなたのお姉ちゃんよ。」

「ずっとそばにいる。」

「・・・私の名前忘れないでね。」


アリシアは、アデライードに贈られた名前の刻まれた髪留めを彼女の髪につける。

そして、辺りに感じられる魔力を睨む。


「アデリア・・・私が起きていいよって言うまでは起きちゃダメ。」

「この樽から出てきてはダメだからね。」


アリシアは、アデライードを大きな樽に入れ蓋を閉める。

そして、魔力を高め彼女の作った魔導具を発動させた。

遠くからは、いくつかの強い魔力が小屋へと近づく。

アリシアは、息を飲み拳を握る。

汗ばんだ拳からは光が漏れ始めた。

その時、漁師小屋の入口が静かに開く。

日の光を背に、一人の男は笑いに震えていた。


「ようやく見つけましたよ。アデライード様。」

「魔法など・・・その程度の術式は・・ほら、簡単に解除できる。」

「私には無駄です・・・フフフッ、ハハハハッ。」


「ソラン・・・アナタが・・・」


「ソラン・・・?」

「家名で呼ぶとは・・・・この状況で私を馬鹿にするおつもりか?」

「まぁ、この状況では、そうもなりましょうが・・・。」

「では、私についてきてもらいましょうか、亡国の姫君。」


アリシアは、もう一度魔力を込めるも術式はかき消される。

その姿に歪な笑みを浮かべるソラスは、手を伸ばしアリシアの腕を掴む。


「嫌ぁ!」


「しおらしくおなりになったとでもいうべきか?」

「あの姫様なら1発は殴られるかと思ったが・・・」

「まぁいい・・・」


ソラスは、アリシアの顔に手を翳し魔力を込める。

それは、アリシアの意識を奪い、彼女は力なく崩れ落ちた。

笑う男は漁師小屋を後に、古代林を抜け彼の研究所へと消えていく。

その日、天は悲しむ様に嵐を起こし、大雨は漁師小屋を飲み込んだ。

水位を増した川は氾濫しmアデライードの入る樽は川へと消えた。


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