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28(279).終幕の国

賢者と剣豪の失踪した翌日。

龍陰達は、後宮に監禁されていたアリシア達を解放する。

彼らは、3人の身柄の保証をバルド達にとりつけた。

そして本題へと移った。

龍陰は、バルドへと質問を投げた。


「王は討ったが、原因を作った男は行方知れず・・・」

「おい達は、そん原因を摘み取りたいんじゃ。」

「いけんか探れんか?」


「そうだな・・・ソラス・ソランとか言ったか。」

「探すっつっても、個人じゃ限度があるからなぁ・・・」

「アイツが生きててくれりゃあ・・・・」

「・・俺は、アイツと違ってばかだからよぉ・・・」


バルドの瞳からは一筋の涙がこぼれる。

それは、共に戦った幼馴染への想いだろう。

彼の姿に俯く宇受愛。

その場には、哀愁にも似た空気が漂う。

しかし、全ての者が同じ空気ではない。

1人の商人が声を上げる。


「個人でダメらな集団しかあるまい?」

「バルドさんよぉ、あんたが王になっちまえばいいんじゃあねえか?」

「アンタの声なら聴く奴は多い。」

「国を挙げて探せば、()ええよ。」


その言葉に賛同する商人達だが、その表情には何処か含みがあった。

しかし、事は流れる様に動き数日が過ぎ、広場には人々が集まる。

そこには、反乱軍を代表するヒューマンが声を上げていた。


「俺たちは、勝ち取ったんだ。」

「これで、ヒューマなどと罵られる事も、使役されることも無い。」

「ここは、俺達が自由に生きれる国に変わったんだ!」

「皆で、自由な国を作っていくぞ!!」


彼の言葉に賛同する同胞達、そして同じ様に拍手するも暗躍する同族。

それは、古代ラトゥール王国の悲劇と称される歴史の一つに過ぎない出来事だ。

初代ラトゥール王バルトの治世は1年とあまりにも短い。

それは、この後起こる災厄も関係がないとは言い切れない。

しかし、彼はそんな出来事を知るすべはなかった。

商人達に担ぎ上げられたバルドは、最愛の女性の名を国名とした。

そして、王となり男性一人の行方を探す。

その結果、魔力の淀む古代林に男の行方を発見した。

それは、龍陰達を納得させるだけの結果だ。

報告を聞いた宇受愛は、腕を組み空を見つめ思案を巡らせる。

そして、龍陰に視線を送った。


「どう思いんすか龍陰様?」

「あちきは、あまり時間がありんせんと思いんす。」


「妙な宝玉、ほして戦の後じゃ。」

「おまんの考えで、まちげなかじゃろ。」


二人は視線をカールへ移し、彼の意を確認する。

それは、友人の消失とその家族の状況があるためだ。

カールは、目を瞑り思いを巡らせる。

そして、二人に返答した。


「僕は、アイン様が正気に戻り、家族の元へ返る事を信じます。」

「だから、僕は彼らの帰る場所を守りたい。」

「龍陰様、宇受愛様、御一緒させて頂きます。」


ぺこりと白猫は頭を下げる。

その姿に笑顔を返す宇受愛。

そして、視線はバルトへと向けた。


「主さんは、王になりんした。」

「一緒にとは言いんせんが、戦力の提供は出来んせんか?」


宇受愛の言葉に反応したのは、彼の横に控える名も無き商人の一人だ。

彼は、2人の冒険者を推薦する。

それは、アリシア達の奪還の際にも参加していた者達だ。

しかし、宇受愛の記憶の中にその姿を見つけることは出来なかった。

悩む宇受愛に声を掛ける龍陰。


「人がおりゃ、ゼロ以上にはなっど。」

「邪魔なら切り伏せりゃよか。」


宇受愛は、ため息と共に首をかしげる。

しかし、返された屈託のない笑顔に諦めた。

ソラスの討伐隊は結成され、古代林へと出発。

そして数日後、その場所には、巨大な世界樹が根を張ることになる。

王都に戻った者は、二名と一匹。

二人は調子よく立ち回り、国を奪い王と王妃へ成り上がる。

それと共に、彼らの取り巻きは、本来の顔を見せ始めた。

街では、ソラスに齎された魔道具によりヒューマンが主権を持つ。

そして、自由の名のもとに数が勝るヒューマンは獣人達を迫害。

やがて、頭を挿げ替えただけの世界へと戻っていった。

新たな権力者は、迫害の過去を憂い、互いに傷を舐め合い癒す。

それは、国からエルフ達の住処を奪う切っ掛けとなった。

全てを失ったエルフ達は森へと身を隠す。

それは、反乱軍に加担した者も同じだ。

そして、追う者は狩りを楽しんだ。

悦楽の牙は、全てのエルフを蝕む。

その対象に王族が含まれない訳がない。

多くの黒エルフは、狩り取られ駆逐される。

状況を読み、生きる希望を追う者の中に女性三人の姿はあった。

日が沈み闇が更ける頃、アリシアは、アデライードの手を引き、母と次の宿を探す。


「ほら、アデリア、こっち。」

「母様、噂では一部のドワーフ達が東に抜ける道を掘っているって言ってたわ。」

「もしかしたら、東に抜けられるかもしれないわよね。」


「そうね。こちらよりも安全かもしれないわね。」

「風景が変わればアデリアも良くなるかもしれないし悪くないわ。」

「アリシア、場所は大丈夫?」


モーティルは、アリシアに視線を向ける。

そこには、妹の髪に櫛を入れる姉の姿。

昔と変わらない光景に、モーティルは笑みを溢し涙を浮かべた。


「母様、どうしたの。」


「・・フフフッ、何でもないのよ・・何でもね。」

「さぁ、行きましょう。」

「アリシア、今夜は月が出ているから気を付けないとダメよ。」


「えぇ母様、大丈夫。」


アリシアは、アデライードの手を引き母の前を進む。

時折木陰に覗く月明かりは、彼女達の美しかった髪を映し出す。

林を越え、森の中で広がる湖畔。

モーティルは、アリシアに声を掛ける。


「アリシア、少し休憩にしましょ。」

「月があの位置だから、当分は夜は明けないわ。」


「はーい。」

「アデリア、休憩よ。あっちに湖があるの。」

「足疲れたでしょ。冷やすと楽になるわ。」

「フフッ、きっと冷たいわよ。」


アリシアは、意思の無い妹を連れ湖畔に向かう。

そして靴を脱ぎ、静かに腰かける。


「ほら、アデリアも・・・ね、冷たいでしょ?」


そこには、反応すらしない妹の姿。

以前の様に活発な彼女の笑顔はない。

アリシアは、彼女の脚を水の中でマッサージする。

彼女は、アデライードの症状が良くなる事を想いマッサージを続けた。

気が付くと、静かな月明かりに照らされた水面に、意図せぬ波紋が広がっている。


「あれ、どうしちゃったんだろ私・・・」

「あれ、止まらないや・・・」


アリシアは、涙を拭うも一向に止まることは無い。

その姿を優しく受け止める者は近くにはいない。

アリシアは水面に映る月に感情の矛先を向け小さく呟く。


「父様・・・どうしてこうなってしまったの・・・」


水面に浮かぶ月は、彼女の作る波紋で揺らぎ、その姿を消す。

森からは、虫の声が静かに聞こえた。


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