表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/325

21(272).賢者の石

いつもと変わらない夕暮れ。

少しだけ変化した街の話題は侍女に不安を与える。

仕事を終えて歩く石畳は、ヒールに絡みつく。


「きゃ・・・もぉ~最悪ね。」

「ヒール折れちゃったじゃない・・・」

「・・・アデリアどうしちゃったんだろ。」


侍女アリシアは、背後に佇む城に視線を向ける。

しかし、視線の先の一室は、今も光は灯っていない。

彼女とは、午後から会っていない。

アリシアは、壊れたヒールを後ろ手に持ち、トボトボと歩く。

目の前の自宅からは食欲を誘う香りと温かい光。


「だたいま、母さん聞いてよ~。」

「ヒール折れちゃったんだよ~。」


騒がしい玄関へ、良い年の取り方をした女性が笑顔で迎える。

そして、彼女を確認するとmため息と共に窘めた。


「あらあら、ダメじゃない裸足じゃ。」

「洗ってきなさい、父さんじゃないんだから。」


少しだけ膨れるアリシアを確認すると母は魔手を顰める。

そして言葉を続けた。


「いいの? 同じだなって言われても。」


「それは嫌・・・」

「それより、ヒール!」


「明日は、私のを使えばいいわ。」


他愛も無い会話は、彼女の疲れを和らげる。

母の言葉に従い、アリシアは井戸へと足を運ぶ。

そして、冷たい井戸水で汚れを落とす。

その時、轟音と共に西の空に煙が上がる。


「ブランデス様かしら・・・」

「な~んてないか・・・んっ、冷たっ!」


彼女は、脚の汚れを落とすと、そそくさと家に戻る。

家の中では、母が食事を用意している。

そして、少し古いデザインのヒールが置いてあった。


「コレ、大事なやつじゃん。」


「サイズ同じじゃなかったかしら?」

「素足よりはマシでしょ?」


「そうじゃないわよ。」

「これって、アデリアが贈ってくれたモノじゃん。」

「借りられないよ・・・」


母モーティルは、アリシアの前に夕食を出す。

そして、笑顔で彼女の正面に座った。


「でも、ないんでしょ?」

「アデリアが悲しむわよ。」

「アリシアがーって。」


「フフッ、何よそれ。」

「でも、言うかも・・・・」


アリシアは、スープに口をつけながら、彼女の事を想い出す。

しかし、それを話題にするべき悩む。

その姿にモーティルは苦笑した。


「また、アデリア問題起こしたの?」


「・・・そうよ。」

「帰ってこなかったのよ。」

「明日は、休みだから心配だよ。」


指を使いパンで遊ぶアリシアに、苦笑交じりで笑顔を向ける母。

そして、小さくため息をつく。


「心配ね。アデリアは内向的だから・・・・」


「いつの話よ。」

「もう、昔のあの子じゃないわ。」

「お転婆よ。アデリア何て呼んでみなさいな。」

「きっと、悪戯するわよ。あの子。」


「ならいいじゃない、元気な方が笑顔が増えるでしょ?」

「ほら、遊んでないで食べる。」


「は~い。」


ため息をつくアリシアに母は食事を進めさせる。

その光景は、仕事明けの彼女の日常でもあった。

それでも、彼女の落ち込む表情に母もため息をつく。

すると、扉を静かに叩く音。

モーティルは、時を告げる魔導具に視線を向け目を細める。

そして、警戒しつつ扉へと足を向けた。


「どなた~? アインじゃないわよね?」


その言葉に返る声は弱々しい。

しかし、彼女の表情は明るくなる。


「モーティル、アタシよ・・・アデライードよ。」


モーティルは、鍵を開け彼女を中へ迎え入れる。

そして、アリシアにスープを用意させた。


「どうしたの、こんな時間に?」

「まぁ、ここ怪我してるじゃない・・・アデリア、話してはもらえる?」


彼女は、アデリアードの隣に座り、少し湿った髪を撫でる。

それは、彼女に少しづつ落ち着きを与えた。


「皆、消えちゃった・・・」

「ローエンも・・・」


「何の事?」

「アリシア、わかる?」


モーティルは、アリシアに視線を向ける。

その先では、スープと傷薬を机に置く娘の姿。

彼女は、首を左右に振る。

そして、アリシアはアデライードに声を掛けた。


「アデリア、何があったか教えてくれる?」

「王様と一緒に何処かへ向かったわよね?」


「・・・父もソラスも・・・ただの人殺し・・・」

「私達は、父達の糧にされたんだ・・・」

「もうローエンは、この世にいないわ・・・」


少しずつ、いつもの表情に戻るアデライード。

その姿に胸を撫で降ろすモーティルは、手当を終え彼女に声を掛ける。


「大変だったわね・・・今日は、ここに居なさい。」

「ほら、スープが冷めるわ。 食べちゃいなさい、アデリア。」


そこには、母の様な慈悲深い笑顔がある。

それは、絶望の淵にあったアデライードの心に、ひと時の安らぎを与えた。


「ありがと、モーティル。」

「あたし、モーティルのスープ好きよ。」



一方研究所では、予想外な状況にうろたえる王とヴァン。

彼らは、手に入る予定の物を得る事ができず、さらには設備も破壊された。

苛立ちを隠せない王は、ヴァンにその怒りをぶつける。


「なんだ、このざまは!!」

「王女を差し出せば、神すら超えられるとはなんだ!」


「こ、これは・・・」

「ソラス、どういうことだ!」


ヴァン局長は焦りをソラスにぶつけるも対象はどこ吹く風。

此方に視線すら向けない男は、その背が震えるように動く。

そして、高笑いが廃墟と化した研究所に響き渡る。


「フフフフッ、すばらしい・・・ハッハッハッハッハッ!!」

「貴様ら、見たか?!」

「あの力は素晴らしい!!」

「あの女は、結晶化前のエネルギーを吸収したのだよ。」

「人類の特異点である彼女は、複数のモノから力を吸収した・・・」

「すばらしい・・・成功じゃないか。」


王は、その姿に怒りすら忘れた。

そこには、純粋な狂気があるからだ。

それでも王は、その狂気に状況を説明を求めた。


「ソラスよ・・・成功は判った。」

「貴様を咎める事は止めよう。」

「して、現状は何を意味しておるのだ?」


「そうだぞ、ソラス。」

「私と王に説明をしろ!」


王の言葉尻に続く様に、ヴァン局長は言葉を乗せる。

その雑音に眉を顰めるソラスは、能面のような表情に戻り、王へ視線を向けた。

そして、手に持つ赤黒い宝石を見せた。


「これは、先ほどと同じ手法で生成された物質です。」

「鉱石の様に見えますが、そう見せているだけの物・・・」

「そう存在しているとでもいうべきか・・・本当に素晴らしい。」

「これは・・・そうだな・・・賢者の石とでも名付けますか。」

「持ち主に力を与える・・・薬の原料です。」


ソラスは、王の視線に言葉を濁す。

そして、賢者の石を袋に入れ、王への説明を続ける。


「これを作る為に、才能ある者の魂とその肉体が十人程度必要です。」

「まぁ、凡人でも街単位で使えば作れますがね。」


王は、目を輝かせ袋に視線向ける。

そして口を開くが、それを制止する様にソラスは続けた。


「王よ。このままでは効力はありません。」

「さらに、妙薬に生成する必要があります。」

「今しばらく待ってください。」

「フフフッ、この世界は貴方の物だ。」

「たかが、数日位は待っても損は致しませんよ。」


奇術師の言葉に生唾を飲み頷く王は、ヴァンに指示を飛ばす。

対するヴァンは、作り笑顔で手もみし受ける。


「ヴァンよ、ソラスに支援を惜しむなよ。」

「フハハハッ、儂は城に戻る。」

「良い結果を待っておるぞ。」


気を良くした王に、ソラスは質問を投げる。

それは、彼の行動をさらに過激にする要因だった。


「王よ、石の生成には人が消えます。」

「ほら、見てくださいよ・・・この施設もひどい有様だ・・・」

「誰が責任をとればよろしいでしょうかね・・・」

「私でも構いませんが、それでは生成計画が遅れてしまう。」


王は、視線を向けずその言葉に意を返す。

それは、王とも父とも思えない発言だった。


「生成物を奪った者など我が娘ではない。」

「あれに、罪を持たせよ。」

「・・・あれも材料になるのだろ?」

「儂は忙しい・・ソラス、貴様に任せる。」

「必要な報告は、価値のある成果だけだ・・・」


数日すると、街には第一王女の手配書が出回ることになる。

そこには、開発局の助手ローエンの殺害と一文が加えられていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ