14(265).変化する戦況
国王派が優勢だった頃が嘘の様に、次々と女王派へと鞍替えする貴族達。
各地の戦場では、巨獣に跨る鬼と白狼が風と共に駆け国王派を制圧していく。
それは圧倒的と言えば、まだかわいいと思える程だ。
一方的な蹂躙にしか見えない戦場は、国王派を震撼させ、その士気を下げていった。
ラトゥール王宮の一室では、現王の怒鳴り声が響き渡る。
そこには、声の主とその義理の姉、そして項垂れる王子の姿。
「おい、カーミラ。」
「どういう事だ・・・集団術式も死兵も効果なしたぁよお!」
「挙句、ゴリアスの寝返りだぁ~?」
「私が関与してんの死兵だけよね?」
「残りはアンタん所のでしょ・・・相変わらす性格も発言も糞ね。」
睨みつけるヴァーミルナを他所に、爪の手入れをするカーミラ。
視線すら合わせることができないアルベルトは、師へ謝りを入れる。
「すいませんでした。俺が・・・」
「お前が何だよ・・・お前じゃ、どうにもできねぇよ。」
「馬鹿は馬鹿なりに、でしゃばるんじゃあねえよ!!」
「・・・で、カーミラさんよお、東の国は協力してくれんのか?」
王は、視線を弟子から義姉へと向ける。
その視線に、カーミラは横目に答えた。
「董巌様の事よね?」
「技術に対する触感はイイんだけど、五分五分ね。」
答えを聴く王の表情が変わることは無い。
不貞腐れる世に、椅子に背を預け天を仰ぐ。
その姿にカーミラは、煽る様に言葉を投げた。
「そもそも、私は提供者であって、あんたの国がどうなろうと関係ないし。」
「どっちでもいいのよ、死んでくれればさ。」
「まぁ、あんたが頭取った方が生きやすいのは事実だけど・・・」
王の部屋の明かりは夜が明けても消えることは無かった。
その悩みを増加させるかの様に戦線は、ラトゥール首都目前へと後退。
王城から魔導具を利用し、戦場を見据える王は唇を噛む。
その横でカーミラが、別の魔導具に怒声を飛ばした。
「なんですって・・」
「董巌様・・・話が違うじゃない!」
「で、あるか。 カーミラといったな、西の商人よ。」
「儂はな、新たな技術には興味がある。」
「それは、民の生活を豊かにする故じゃ。」
「其方のもたらす技術に興味があったのは事実。」
「じゃがな、戦は金儲けではない。」
「命のやり取りを軽んじる貴様らとは相容れぬ。」
「よって、繰り返す様じゃが出兵はできん。」
「貴様ら如きの為に、我が兵の命を差し出すはずもあるまいよ。」
「と、董巌様からの伝言です。以上。」
「何が以上よ・・・この男女!!」
「・・・・ちょ、奉蘭! 勝手に閉じるんじゃないわよ!!」
一方的に会話を閉じられたカーミラは、魔導具の先の奉蘭をののしる。
しかし、魔導具は反応しない。
一方的な通信切断に、怒りを増すカーミラ。
彼女は、魔導具を手に取り地面にたたきつける。
それは、跳ね返り、アルベルトを直撃するも、彼は睨むことすらできない。
怒りをばら撒くカーミラは、息荒くバルコニーを後にした。
残る二人は、魔道具を使い戦況を確認する以外にできることは無い。
それは反論ある会議が出来る相手が、彼の周りにはいない為だ。
視線の先では、集団術式が発動し敵兵を薙ぎ払う。
それでも、猛攻の中突進むいくつかの部隊は士気が高い。
一つは、弓使いの白いエルフが先頭を駆ける傭兵部隊。
その姿は、先の戦争で功績を上げたルーファスと重なる。
もう1つは、戦場の貴族としてはあり得ない位置にいるファルネーゼの部隊。
彼女らは、戦の発起を悔み、その見返りとして先陣に立っている。
しかしその姿勢は、ヴァーミルナには滑稽に映った。
残る一つは、彼の見知らぬ少女の率いるリーアの部隊。
元はイオリアが引いていた部隊だ。
王は、王子にその問いを投げる。
「おい無能! アイツは何だ。」
「イオリアの後釜が何故ルーファスじゃねぇんだよ・・・なぁ。」
「はい・・・俺にもわかりません。」
「ただ、イオリアの死が原因かと・・・」
「はぁ? 何言ってんだよ。」
「アイツのオヤジが出てくんのが筋だろ?」
「ファラルドも、ルーファスも出ねえ・・・馬鹿にしてんのか?」
「・・・・」
沈黙の広がるバルコニー。
その一方で、複数の集団術式は、彼らの機動力により突破された。
そして、制圧されていく自陣。
ラトゥールの城門は、幾年月振りかに破壊された。
なだれ込む兵士達の士気が下がる事など無い。
その先頭にはゴリアスの姿。
「無抵抗の者は、放っておけ。」
「彼らも同じ国民だ。」
「無駄な血は流すなよ。」
「「「はっ!」」」
少女は、馬に乗り王城の坂を駆ける。
それに続く数機の騎馬。
少女の背に抱き着く獣人の少女は、城門に向け手を翳す。
「炎鬼、嵐鬼、開けておくんなんし。」
召喚された二人の式神は、返答を返すことなく城門を押し開ける。
それは、ロックする為の機構を強引に粉砕。
城門に控える兵達は、衝撃と共に吹き飛ばされる。
その光景にファルネーゼは、国王派の兵達に向け、笑顔で声を投げかける。
「はーい、抵抗はダメよ。」
そして、眉を顰め死んだ目を向けた。
「歯向かったら、命ないからね。」
その声に従い、ほとんどの兵が武器を捨てる。
それでも、軍中枢にまで上り詰めたゴロツキも多少いる城内。
しかし、その程度の抵抗は、ゴリアスの前ではそよ風と変わらない。
その後ろで粛々と拘束作業をするレマリオ。
僕は、ファラルドの後について王の間へと進んだ。
そこに待つ2人の王族に、ファラルドとルーファスは怒声をぶつけた。
それを見つめる呀慶は、首を小さく振りため息をつく。
「ヒューマンとは・・・変わらぬものよ・・」
東の人間達の瞳には、滑稽な光景が映っていた。




