表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
262/325

11(262).戦火の想い

東の地で発展目まぐるしい領地リーア。

この地にも戦争の火は領民の心を暗くした。

先の戦争で功績を上げた領主は、ハーデンベルクにて軍の指揮。

領主に代わり、その妻は彼の穴を埋め、領民の不安を取り除いていた。


「皆、戦争なんてすぐ終わるわ。」

「男どもが返って来た時にデカい顔させない為にも、できる事はしっかりやるわよ!」

「さぁ、今日もがんばっていきましょ。」


「「「は~い!」」」


農地では、武器を持たない者達が農具を振るい土地を耕す。

冬からの下準備が功を奏し、大地は思いのほか優しさを見せる。

掘り返す土地には、ミミズが出ることもしばしば。

いつもなら悲鳴が上がる状況でも、相手が居ないなら不要。

粛々と日々の作業は続く。

領民と共に作業するライザは、汗を拭い太陽に視線を向ける。

そこに映る姿は、我が息子の表情。

その表情を心配そうに見つめる娘。


「お母様、お腹痛いの?」


兎の人形を抱きしめる様に抱える少女は、首を傾げ母の顔を覗く。

視線を捉えた母親は、向けられた視線に笑顔を返した。


「リオ、大丈夫よ。」

「さぁ、続きをやるわよ・・・」


彼女は、目を瞑り空間をイメージする。

そして、魔導具に魔力を乗せた。


「あっ・・・燃えちゃった。」

「まだ、ダメね・・・」


「奥様! 邪魔しないでくださいな。」

「ほら、奥様は、あっちで水撒きです。」


彼女は、ため息交じりの侍女長に如雨露(じょうろ)の魔道具を手渡され背を押される。

その他の侍女たちは、その姿を笑顔で見つめた。

その場には、その背を追って駆けて来る少年の姿はない。

しかし、同じ年の頃に成長した少しおませな愛娘が追い駆ける。

ライザは、時の経つ事に感慨深い想いを擁く。

そして、空に向かい小さく呟いた。


「イオリア、生きて戻ってきてよ・・・」

「あなた、あの子を守ってあげて。」


返る事のない呟きは、太陽の中へと消えていく。



同じ日の光の下、少年は初陣を迎えた。

彼の父は、息子に新しい剣を与える。


「イオリア、出来る事をするんだ。」

「引くのも戦略・・・忘れるなよ。」

「死ななければ、負けることは無いんだ。」

「いいな・・・」


「はい、父上。」


ルーファスは、視線を少し落とし青年の瞳を強く見据える。

その視線に対し、イオリアも同じ様に返す。

父は口元を崩し、彼に声を掛け肩を強く叩く。


「よし。行って来い・・・死ぬんじゃねぇぞ。」


「父上、誰の子供だと思っているのですか?」

「一緒に、母上とリオの元に帰りましょう。」


青年は、父を残し天幕の外へ。

強い日の光は、彼の初陣を強く照らす。

青年は、目を細め太陽を睨む。


「クローディア・・・必ず助けて見せる。」


彼は、目を瞑り、胸に手を当てる。

そして、そこに在る彼女の手紙を感じ彼女に想いを馳せる。

イオリアは、覇気と共に目を見開き、正面に控える彼を慕う兵達へ声を投げた。


「皆の者、若輩の将ですまない。」

「だが、年寄り共に引けを取る気などは無い!」

「皆で国に帰えろう・・・皆、俺に力を貸してくれ!!」


「「「ウォーーー!!」」」


若い将の声に呼応する兵士達。

実直で真面目な視線に対し、はやし立てる者はいない。

指揮の高まりは風に乗り、対面する敵軍に圧をかける。

その姿を遠目で眺めるルーファスは、腕を組み頷く。


「それでいい・・・死ぬなよ。」


父親の呟きは、進軍する足音にかき消されるも青年将の背中を押す。

その姿を確認しルーファスは馬に跨る、

そして後方に佇むザルツガルドの本陣へと踵を返した。



戦場では、螺旋を描く巨大な水弾が集団を薙ぎ払う。

それは射線上の、防壁を破壊し、女王派の兵士たちを切り裂き跳ね飛ばす。

その光景は、先の戦を彷彿とさせた。

動揺する兵士達は、互いの顔に視線を飛ばし、先陣を譲り合う。


「どうすんだよこれ・・・」


「な~に、あの時の火弾に比べりゃ、可愛いもんだ・・」

「・・・いや・・まぁ可愛くはねぇか・・・」


「あの集団術式のせいだろ・・・戦線さがってるの。」

「当たりゃあ、碌なことにならねぇぞ・・あれ。」


「生きて帰れりゃ・・・ライザ様がどうにかしてくれるさ。」

「・・・相手に開発局がいなくてマシってな。」


「確かに・・・」


彼らの会話をしり目に、傭兵達が敵陣に切り込む。

その姿に、自身を奮い立たせる女王派の兵士達。


「あっ・・・オメェら、傭兵達なんかに成果持ってかれたら最悪だ。」

「帰ってから居場所が無くなっちまうぞ!」


「「「オーーーー!!」」」


呼応する女王派の兵士を後方に、砂塵の先頭を行く騎馬兵達。

その先頭には、弓を持つ一人の優男。


「理由が何であれ、勢いが消えない事は良い事だよ・・・」

「でも、一番は俺の部隊が貰うよ。」

「野郎ども、今夜の酒も盛大にいこうぜ!!」


「「「ウォーーー!!」」」


統一感の無い服装の部隊は、一筋の矢の様に敵陣を切り裂く。

分断される国王派の陣は、先頭で士気を保つ白エルフに乱される。

その機動力と精霊魔法は、国王軍の魔法部隊の防衛を崩す。


「レマリオの旦那、この後はどうします?」

「このまま居座るにしても、孤立ですぜ・・・」


「大丈夫だよ・・・だって、ファルちゃん来てるし。」

「ほら、あの砂煙・・・彼女の魔力感じるよ。」


レマリオの視線の先には、一つの砂塵。

そこには、ハーデンベルクの旗。

先頭の騎馬をファラルドにしては小さい将が駆る。

笑顔のレマリオは、その砂塵から視線をはずし、さらに指をさす。


「ほれ、あっちも来てるね。」

「リーアの若様だ。」

「女王派は、ここが落ちるときついからな・・・必死にならざる得ないさ。」

「さぁ、俺達も踏ん張るよ。」


「へい。」

「野郎ども、踏ん張るぞ!!」


「「「ウォーーーー!!」」」


集団術式が止んだ戦場は、旧来の戦闘が繰り広げられた。

騎馬兵は、歩兵たちを蹂躙し戦線を押し上げる。

初陣のイオリアは、制御の利かない心臓を無理に抑え込む。

血しぶきと砂塵が舞い、矢が飛び交う戦場。

彼の視線の先には、小高い丘に主張するほど下品な天幕。

響き渡る第一王子の声は、彼をイラだたせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ