11(262).戦火の想い
東の地で発展目まぐるしい領地リーア。
この地にも戦争の火は領民の心を暗くした。
先の戦争で功績を上げた領主は、ハーデンベルクにて軍の指揮。
領主に代わり、その妻は彼の穴を埋め、領民の不安を取り除いていた。
「皆、戦争なんてすぐ終わるわ。」
「男どもが返って来た時にデカい顔させない為にも、できる事はしっかりやるわよ!」
「さぁ、今日もがんばっていきましょ。」
「「「は~い!」」」
農地では、武器を持たない者達が農具を振るい土地を耕す。
冬からの下準備が功を奏し、大地は思いのほか優しさを見せる。
掘り返す土地には、ミミズが出ることもしばしば。
いつもなら悲鳴が上がる状況でも、相手が居ないなら不要。
粛々と日々の作業は続く。
領民と共に作業するライザは、汗を拭い太陽に視線を向ける。
そこに映る姿は、我が息子の表情。
その表情を心配そうに見つめる娘。
「お母様、お腹痛いの?」
兎の人形を抱きしめる様に抱える少女は、首を傾げ母の顔を覗く。
視線を捉えた母親は、向けられた視線に笑顔を返した。
「リオ、大丈夫よ。」
「さぁ、続きをやるわよ・・・」
彼女は、目を瞑り空間をイメージする。
そして、魔導具に魔力を乗せた。
「あっ・・・燃えちゃった。」
「まだ、ダメね・・・」
「奥様! 邪魔しないでくださいな。」
「ほら、奥様は、あっちで水撒きです。」
彼女は、ため息交じりの侍女長に如雨露の魔道具を手渡され背を押される。
その他の侍女たちは、その姿を笑顔で見つめた。
その場には、その背を追って駆けて来る少年の姿はない。
しかし、同じ年の頃に成長した少しおませな愛娘が追い駆ける。
ライザは、時の経つ事に感慨深い想いを擁く。
そして、空に向かい小さく呟いた。
「イオリア、生きて戻ってきてよ・・・」
「あなた、あの子を守ってあげて。」
返る事のない呟きは、太陽の中へと消えていく。
同じ日の光の下、少年は初陣を迎えた。
彼の父は、息子に新しい剣を与える。
「イオリア、出来る事をするんだ。」
「引くのも戦略・・・忘れるなよ。」
「死ななければ、負けることは無いんだ。」
「いいな・・・」
「はい、父上。」
ルーファスは、視線を少し落とし青年の瞳を強く見据える。
その視線に対し、イオリアも同じ様に返す。
父は口元を崩し、彼に声を掛け肩を強く叩く。
「よし。行って来い・・・死ぬんじゃねぇぞ。」
「父上、誰の子供だと思っているのですか?」
「一緒に、母上とリオの元に帰りましょう。」
青年は、父を残し天幕の外へ。
強い日の光は、彼の初陣を強く照らす。
青年は、目を細め太陽を睨む。
「クローディア・・・必ず助けて見せる。」
彼は、目を瞑り、胸に手を当てる。
そして、そこに在る彼女の手紙を感じ彼女に想いを馳せる。
イオリアは、覇気と共に目を見開き、正面に控える彼を慕う兵達へ声を投げた。
「皆の者、若輩の将ですまない。」
「だが、年寄り共に引けを取る気などは無い!」
「皆で国に帰えろう・・・皆、俺に力を貸してくれ!!」
「「「ウォーーー!!」」」
若い将の声に呼応する兵士達。
実直で真面目な視線に対し、はやし立てる者はいない。
指揮の高まりは風に乗り、対面する敵軍に圧をかける。
その姿を遠目で眺めるルーファスは、腕を組み頷く。
「それでいい・・・死ぬなよ。」
父親の呟きは、進軍する足音にかき消されるも青年将の背中を押す。
その姿を確認しルーファスは馬に跨る、
そして後方に佇むザルツガルドの本陣へと踵を返した。
戦場では、螺旋を描く巨大な水弾が集団を薙ぎ払う。
それは射線上の、防壁を破壊し、女王派の兵士たちを切り裂き跳ね飛ばす。
その光景は、先の戦を彷彿とさせた。
動揺する兵士達は、互いの顔に視線を飛ばし、先陣を譲り合う。
「どうすんだよこれ・・・」
「な~に、あの時の火弾に比べりゃ、可愛いもんだ・・」
「・・・いや・・まぁ可愛くはねぇか・・・」
「あの集団術式のせいだろ・・・戦線さがってるの。」
「当たりゃあ、碌なことにならねぇぞ・・あれ。」
「生きて帰れりゃ・・・ライザ様がどうにかしてくれるさ。」
「・・・相手に開発局がいなくてマシってな。」
「確かに・・・」
彼らの会話をしり目に、傭兵達が敵陣に切り込む。
その姿に、自身を奮い立たせる女王派の兵士達。
「あっ・・・オメェら、傭兵達なんかに成果持ってかれたら最悪だ。」
「帰ってから居場所が無くなっちまうぞ!」
「「「オーーーー!!」」」
呼応する女王派の兵士を後方に、砂塵の先頭を行く騎馬兵達。
その先頭には、弓を持つ一人の優男。
「理由が何であれ、勢いが消えない事は良い事だよ・・・」
「でも、一番は俺の部隊が貰うよ。」
「野郎ども、今夜の酒も盛大にいこうぜ!!」
「「「ウォーーー!!」」」
統一感の無い服装の部隊は、一筋の矢の様に敵陣を切り裂く。
分断される国王派の陣は、先頭で士気を保つ白エルフに乱される。
その機動力と精霊魔法は、国王軍の魔法部隊の防衛を崩す。
「レマリオの旦那、この後はどうします?」
「このまま居座るにしても、孤立ですぜ・・・」
「大丈夫だよ・・・だって、ファルちゃん来てるし。」
「ほら、あの砂煙・・・彼女の魔力感じるよ。」
レマリオの視線の先には、一つの砂塵。
そこには、ハーデンベルクの旗。
先頭の騎馬をファラルドにしては小さい将が駆る。
笑顔のレマリオは、その砂塵から視線をはずし、さらに指をさす。
「ほれ、あっちも来てるね。」
「リーアの若様だ。」
「女王派は、ここが落ちるときついからな・・・必死にならざる得ないさ。」
「さぁ、俺達も踏ん張るよ。」
「へい。」
「野郎ども、踏ん張るぞ!!」
「「「ウォーーーー!!」」」
集団術式が止んだ戦場は、旧来の戦闘が繰り広げられた。
騎馬兵は、歩兵たちを蹂躙し戦線を押し上げる。
初陣のイオリアは、制御の利かない心臓を無理に抑え込む。
血しぶきと砂塵が舞い、矢が飛び交う戦場。
彼の視線の先には、小高い丘に主張するほど下品な天幕。
響き渡る第一王子の声は、彼をイラだたせた。




