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10(261).分裂する国家

黄金色に色付いた穂を収穫する農民たちは、太陽に笑顔を向け汗を拭う。

戦争から14年も経ち、彼らは平和の価値を忘れていた。

ここ数年は、太陽の王と称されるヴァーミルナの手腕も含め、先王時代から国は豊かだ。

刈り入れられていく麦は、民達に笑いを生む。

その姿を見つめるゴリアスの心境は、彼らには計り知れない。


「ゴリアス様、今年は豊作ですよ。」

「国の治水政策ちゅうのが良かったんですかね?」

「日照りんときゃあ、どうなる事かと思いましたよ。」


「ハハハッ、そうか・・・」

「良かったな、儂も嬉しいよ・・・」


彼の姿は、どこか抜け切れていない。

悩みを抱える彼に農民は憂う。


「ゴリアス様、大丈夫ですよ。」

「太陽様が、国を良くしてくださいます。」

「ゴリアス様は、今までの様に国の盾でいてくれたらいいんです。」

「俺たちは、そんな姿が誇らしいんですよ。」


彼らの笑顔がゴリアスの心を強く締め付ける。

それでもゴリアスは、領主然とし、彼らの笑顔に同じように返しかない。


「肌寒くなってきたから、早めに上がれよ。」

「くれぐれも無理はするな・・・お前たちも体が商売道具だからな。」


「はい、ゴリアス様。」


頭を下げ、彼を見送る領民たち。

その姿に空の笑顔で応える領主。

彼の瞳は、沈みゆく太陽を見つめていた。

そこには、先々代の王の背が浮かぶ。

ゴリアスは、領主館迄の道を生気無く歩む。

そして立ち止まり、薄っすらと昇る月に視線を送り1人呟いた。


「すまん、ファラルド殿・・・願わくば、交えたくないモノだ。」


日はすっかり沈み、優しい月光だけが彼の表情を映す。

無気力な表情を浮かべる彼の頬には、一筋の涙が伝う。

力なき背中とは対照的に、握られた拳は、血が滲み振るう相手を失っっていた。



一方王都では、政権を確固たるものとすべく、太陽の王は奮闘する。

先代の政権下では、その言葉により止められていた魔導開発。

しかし、その危険性を訴える者は傍にはいない。

だが、進捗は思い通りにはならなかった。

それは、あの技術は、天才の領域に片足を突っ込んだ2人の魔導士が築いた技術。

彼らを欠いて、彼らの残した問題が解決できるはずがない。

その憂う姿に、彼の義姉となった北の才媛は、一筋の歪んだ光をもたらした。

二人の魔導士が残した問題は、真の天才により解決するも、その技術を理解できる者はいない。

日々進む魔導研究は、王に歪んだ笑顔を与え、実姉の事など過去へと追いやる。

城内には、彼を讃える貴族と部下。

義姉から齎される金と研究成果は、彼を増長させていく。


「カーミラさんよぉ、ソラス先生は(すげ)ぇな。」

「ククッ、この力がありゃあ、この世界は俺の物だぜ・・・クックック、ハッハッハ!」

「黒エルフ以来の大王だ・・・」

「俺様が初代大王だ・・・最高だな。」


義姉は、その姿に表情を変えない。

それは、そこに真実がない為だろう。

彼女は、ヴァーミルナにそっけなく答える。


「そうね、最高。」

「・・・そろそろ行くわ。 妹によろしく。」


ヴァーミルナは、彼女に視線を向けることなく書類を見つめる。

そして、研究の進捗に歪んだ笑みを浮かべるだけだった。



秋風は、次第に乾きを強め、肌を刺す様に変わっていく。

北の国では、既に山の一部を白い雪化粧で隠し始めている。

この頃には、ヴァーミルナの研究は形となり、赤い男は姿を消した。

それでも、王の表情が変わることは無い。

完成した成果を、彼は実姉と向ける。

それは、新たな戦争の狼煙となった。

その瞬間、ラトゥールの人々は、互いの関係性を崩した。

同じ師の元、剣を学んだ王子と領主の子。

歪んだ王子は、これを機にその本性をさらけ出す。


「師匠、俺に一軍くれないか?」

「アイツの・・・イオリアの悲痛に歪む顔が見たいんだよ。」


「あぁ? お前、馬鹿か?」

「私情で軍が欲しいだぁ・・・ガキがほざくな。」

「・・・いや、待てよ。」

「前代王であり父の死を憂う王子か・・・」

「好きにしろ・・・だが、状況を違えるなよ。」


「はい、師匠・・・いえ、ヴァーミルナ様」

「父の無念は、この私が。」


「だから馬鹿だと言ってんだよ。」

「ガキならガキらしい感情を作れ、お前無能か?」


「・・・」


そんな世界で変わらぬモノもある。

先代の忘れ形見の片割れは、父親から贈られた出会いを大切にしていた。

父が他界し、母と共に離宮へと移される王女。

交流が薄れ断絶する東の領地。

それでも彼女は、想いを綴り、想い人の無事を願う。

風に靡くカーテンに声を掛けるクローディア。


「お願いします。」


「はい、クローディア様。」


一つの影は、複数に別れ闇へと溶け込んでいく。

向かう先では、無力な自分を掻き消す様に剣を振る一人の青年。

彼もまた彼女の身を案じ、2つの想いは互いの想いを強く育んだ。


しかし、様々な想いな太陽の王は気に留めない。

全てを踏みにじる様にヴァーミルナ王は動きだす。

王は、実姉を保護するハーデンベルクへ、彼女の出頭命令を出す。

しかしファラルドは、それを拒否。

王は警告の後、軍を東へと進軍させた。

1つになった国は、また2つに別れ、同じ血を持つ者同士が殺し合う。

アレキサンドラは、ファラルドを推し先王派閥を吸収。

その結果、先の戦争で功績を上げた者が、彼女らの傘下に収まる。

しかし、結果はヴァーミルナの予想通りとなった。

それは、一部の領主を寝返らせ、彼女達の背後にも敵を作る。

その結果、戦線はザルツガルド渓谷まで下がり、アレキサンドラ達に焦燥感を与える。

彼女達の想いとは対照的に、季節は芽吹きの時期を迎えていた。


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