07(258).姫と騎士
城門を抜け馬車は、坂を上り城の前に止まる。
そこで、3人は馬車を下りた。
「領主館で待っていろ。」
「後の事は、領主館の連中にも伝えておいてくれ。」
「急に動くかもしれないから準備は頼むと。」
「旦那様も坊ちゃんも、お気をつけて。」
二人に頭を下げ御者は馬車を領主館に向け走らせた。
王城に入る3人は、すぐに2手に別れる。
一方は、王の待つ謁見の間へ。
そして一方は、異母姉の部屋へと向かう。
謁見の間には、王や数名の文官、そしてどこか控えめな可愛い姫君が控えていた。
ルーファスは、イオリアを伴い、王の前まで進み跪く。
「ご機嫌麗しゅう。ラインハルト王。」
「ゴホゴホ、挨拶は不要だ。」
「リーアの運営は順調か?」
「はい、滞りなく。」
「収穫は、昨年より多くなる見込みです。」
「民達や妻のお陰で、俺なんかでもどうにかなってます。」
「そうか・・・それは良い報告だ。ゴホゴホ。」
ルーファスに向ける王の眼差しは何処か優しい。
それは、彼の運営に国の未来でも見ているかの様だった。
その王を見つめる小さな姫は、父の体調を気に掛ける。
「お父様、御無理は・・・」
「クローディア、今日の体調は良い。」
「今日はな、顔合わせもあるのだ・・・ゴホゴホ」
「こんな体で、お前に宴の一つも開いてやれず、すまんな。」
「いえ・・・お父様。」
ラインハルトは、ルーファスと歳は変らず、剣の腕も立った。
しかし、今では枯れ木の様にやせ衰え、剣から杖に持ち替える始末だ。
王は、おもむろに席を立ち跪くルーファスの元へ。
そして、彼の肩に手を置き声をかける。
「ルーファス、歩かないか?」
「ラインハルト様、お体は・・・」
「捨て置け、どうせ長くはない。」
「お前と息子たちの稽古が見たい・・ゴホゴホ。」
「クローディアも同行させて良いな?」
ラインハルトは、ゆっくりと愛娘に視線を向ける。
それに応えるクローディアは、令嬢然としたお辞儀を二人に返した。
「喜んでお受けします。」
「イオリア、クローディア様をエスコートして差し上げろ。」
ルーファスは立ち上がり、王の手を取り歩みを合わせ修練所へと向かう。
それに続く様にイオリアは、クローディアをエスコートする。
「クローディア様、こちらです。」
「・・・はい、イオリア様。」
「・・・よろしくお願い致します。」
その姿に、優しい微笑みを向ける王。
4人は修練所へゆっくりとした歩みで進んだ。
そこでは、兵士に交じり剣を振る一人の少年の姿。
それは、若き日のラインハルトにも重なる。
「父上、こんな場所に何を・・・」
「たまには良かろう?」
「お前たちの鍛錬を見たくなったのだよ・・ゴホゴホ。」
少年は父を労わり、兵に椅子を用意させる。
そこに腰かける王は、表情を気持ち楽にさせた。
「ではルーファス、始めてくれ。」
「はい、ではいつも通りに。」
剣の稽古は小一時間続く。
そこには、二人の若き騎士の姿。
そして、兄と許嫁に視線を向ける姫君。
組み打ちでは、やはりと言える結果が待つも、王は揺るがない。
その結果に、誰を咎める事すらなかった。
稽古が終わり、二人を労う王と姫。
表情を緩め、王子の成長を褒めるルーファスは昔のままだ。
そこには、イオリアとルシアの関係にも似た姿がある。
姫は初めて見る剣術の稽古。
そこで剣を振るイオリアの姿に憧れを擁いた。
「イオリア様・・・使ってください。」
「汗びっしょりですわ・・・」
「ハァ、ハァ、ハァ、・・・ありがとうございます、クローディア様。」
そこには、初々しい出会いが見え隠れしている。
しかし、闇を隠す男には、苛立ちの対象でしかなかった。
稽古を終え、其々の部屋に戻る。
その日、王は簡素ながら宴を開いた。
宴には、様々な面々が顔をだす。
そこでは、小さいながらも舞踏会も開かれる。
引っ込み思案のクローディアも、彼女の為の宴と知り意を決した。
それは功を奏し、イオリアが彼女をエスコートを引き受ける。
「クローディア様、先ほどはハンカチをありがとうございました。」
「代わりではございますが、俺・・私のハンカチをお返しします。」
「まぁ・・・嬉しいです。」
「あの・・・イオリア様・・」
「わ、私と一緒に踊っていただけませんか?」
「はい、俺・・じゃなくて、私から正式に申し込み致します。」
「クローディア様、御一緒頂けますか?」
「フフッ、はい。」
まだ幼さが残る二人は、会場の中心で曲に乗る。
それは、さすがと言える身のこなし。
イオリアは、周りに気付かれない程に、彼女をうまく導く。
小さな貴族達の晴れ舞台は、大人たちからの大きな拍手に包まれた。
「いや~、クローディア様もお美しくなられた。」
「あんなに華麗に踊られるとは初耳だよ。」
「全くですな。我が国には、素晴らし花が咲きましたな。」
その言葉に、能面の様な笑顔で会話を続ける太陽の王子
それは、彼の弟子の持つ深い嫉妬心を煽るためだ。
「お美しくなられましたね、クローディア様は・・」
「あの若い貴族も、良い動きをする。」
「この国の未来は安泰ですね、皆さま。」
その陰で唇を噛む、アルベルトは、イオリアを遠くから睨む。
そして、イオリアの隣で微笑む実妹のクローディアに視線を送り口元を歪めた。
「先生、実った所を摘む・・・でしたよね?」
「そうですね、アルベルト。」
「それが最良の結果を与えますよ。」
「でも、人前でその顔は頂けませんね。」
「僕まで疑われてしまいます・・・」
裏で暗躍する者の事など、今の王が気に留める程に余裕などない。
そして、この宴がラインハルトが目にした最後の宴となった。




