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05(256).月の王族

時は少し遡る。

ラトゥール王国に属する旧帝都は、新領主を迎え都市の名を変えた。

そこは、ハーデンべルクと改められ、先の戦争で功績を上げた男の領地となっている。

男は、土地と城、そして新たに名を与えられ領主へと変わった。

それでも、昔と変わらない彼の性格は、民達に希望と親しみを与えている。

しかし、その優しさは、実妹を堕落させている事とは関係はない。


「お兄様、ルシアちゃんは来ないわね。」

「ライザんとこには、顔見せたっていうのにさぁ・・・」


「ファルネーゼ・・・アイツは、お前と違って暇じゃないよ。」

「一応は、近衛兵長として振る舞ってくれな?」

「服装も・・・部屋着で城内は止めてね。」


彼女は、兄の小言は多少あるが、実家よりは居心地がいい。

その為か、優しい兄に甘えている面もある。


「私、実家帰えろっかな~?」


「あぁ帰れ帰れ、そして幸せに結婚でもしてくれ。」


「冷たい・・・レドラムと二人でもいいのね?」


「すまん・・・ここに居ていいから、規律だけは守ってくれ。」

「他に示しがつかなくなるからね。」


彼女は、したり顔で兄を見る。

しかし、視線の先の表情は相変わらず冷たい。

彼女は自室に戻り、服装を整え街へと出向く。

そこでは、男女問わす黄色い声援が上がる程だ。

それは、彼女の騎士としての振舞だけではない。

あの戦争の後、彼女は異姉の勧めで1冊の本を出した。

それは、彼女と同じ趣味の者にうけ、娯楽の少ない世界では評判を呼び国中に広がった。

登場する二人の男性の元となった者からすれば大変遺憾だろう。

しかし、彼女は大作家様となった。

以前は、同趣の者の声援だけだったが、外見と人柄は兄同様に好評だ。

その為か、文武両道の才女として評価が高まり今に至っている。

だが、貴族からの評価は低い。

それは妬みでしかないが、人という者は粗があれば喜ぶもの。

この兄弟の血筋には、問題がないわけではない。

彼らの父は前国王で現王の父親だ。

しかし、母親は旅芸人の歌姫。

世間一般的に言われる一目ぼれというモノらしい。

とはいいえ、旅芸人ともなれば、読み書き計算は出来き、下手な貴族よりも聡い。

それは、召し上げられた歌姫にも言える事だ。

王は、見た目や声から好意を寄せた。

といえ、時を重ねる事に、彼女の聡明さを理解し、その気持ちを強くした。

しかし王の想いは、他の妃から反感がないわけではない。

その闇は、次第に膨らみ歌姫を飲み込む。

その結果、歌姫は三人の兄妹を残し、この世を去る。

残された三人の子供達は、王の重臣に預けられ育てられた。

現在、1人は重臣の名を継ぎ、1人は新たな名を与えられた。

そして残る女性は、自由に街を歩く。

彼らは、王の血筋でありながら表舞台には出る事を許されない存在。

それを彼らを慕う者は、その容姿と性格から " 月の王子 "、" 月の姫 "と呼ぶ。



彼女は、見回りと称した散歩を楽しむ。

そこに彼女を呼ぶ少年の声。


「ファルネーゼお姉ちゃん、洗濯物が飛ばされちゃったよ・・」


「あらま・・あれね。」


彼女は、その身体能力から容易く木を越える。

そして、町少年の涙を拭った。


「風の強い日は、ダメよ・・・フフフッ」


そして、いつもの様に少年を優しく抱きしめる。

その光景は、まるで聖女の様にも映った。

彼女は、笑顔で走り去る少年に手を振り見守る。

これは、ここハーデンベルクの昼下がりでは良くある光景だ。

彼女は、城に向かう馬車に視線を送る。


「あっ、ライザんとこの馬車じゃん・・・」

「という事は・・・フフッ、イオリアたんだ。」


彼女の表情は、若干締まりがない。

それは、馬車を迎える一部の女官も同じである。

この街には一定数彼女と同類が存在した。

これは、年を重ねるごとにイオリアの悩みにもなっている。

その悩みを打ち明けられたファラルドは頭が痛い。

しかし、それ以上に彼を悩ませる問題が起こっていた。


「待たせたな、ファラルド。」

「情報は、ミランダからだ。 間違いはない。」

「あの第二王子、諦めちゃいないみてーだな。」


会議室には、先戦争の英雄が二人。

彼らは栄転とされているが、第二王子により旧王国領から遠くに飛ばされた。

それは、彼らが第二王子の進める魔導強化案を全面否定した為だと囁かれている。

実際この二人は、集団術式の脅威を身に沁みて理解ていた。

その為、この技術を封印すべきと主張している。


「ミランダさんって事は、ギリアムか・・・」

「アイツ、立場ヤバそうだな。」

「こっちに引き抜けないかな?」


「それこそ、荒事が起きそうじゃねえか?」


どこか掴み所のない笑顔に困惑するルーファスだが、彼もまんざらではない。

その表情からくる相談は、相談ではなく彼の意に沿った依頼に近いからだ。

ファラルドは、間諜から上がっている情報を整理し、掻い摘んで盟友に伝える。


「ヴァーミルナとダッシュウッドが繋がったよ。」

「あとは、ジュラのヴァンジョンズの氷女。」


「碌な面々じゃねえな・・・」

「そういやあ、ラインハルト様の体調が最近良くねえが・・。」

「って知ってるよな、お前なら。」


ファラルドは、彼に1枚の書類を渡す。

ルーファスは頭を掻き、愛妻から贈られた眼鏡を指で直す。

そして、ファラルドから渡された書類に目を通した。


「長いな・・・」

「・・・おい、時の女神の件って・・・」


「この目で見たよ・・・カーラナイヤ。」

「アレは、もう人じゃない・・・」


「これじゃあ、国はイっちまってるじゃねぇか・・・」

「アレキサンドラ様の意見はどうなんだよ?」


ファラルドは、眉間をもみ、深いため息を吐く。

そして、ルーファスの問いに答えを濁す。


「サンドラ異母姉(ねえ)さんは悩んでたよ。」

「城の空気が変わってきたって嘆いてた・・・」

「とりあえず、ファルネーゼを一時的に付ける提案をしてるよ。」


会議室の灯は、翌朝まで消えなかった。

その一方で、イリアの悲鳴もまた月が昇るまで収まる事は無かったという。


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