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02(253).太陽の賢王

5年前ラトゥール王都では、国を挙げて1組の夫婦の成立を祝った。

その輪の中心には第二王子、そしてヴァンタヴェイロの大商人の娘の姿。

これは、傍から見ても、ただの政略結婚でしかなかった。

当の第3婦人となる商家の娘からしても気楽な立ち位置だ。

しかし、ここには、商家の娘の姉の思惑が大きく蠢いている。

そもそも、その姉には、この結婚などに興味はない。

それは、第二王子にしても同じ事。

彼には、第1夫人との間にも子があり、年も第一王子の子と変わらぬ程に成長している。

彼の頭にある事は権力のみ。

当時この結婚には、彼の思惑と商家の娘の姉の思惑が合致した為と噂になる程だった。

とはいえ、国政を民目線で行う第二王子に対し、悪い噂を振りまく者は少ない。

それは、王である兄も同じだ。

しかし、第二王子の全てを王は認めてはいなかった。

それは、ある日の国政会議の事だ。


「ヴァーミルナ、国民への為にと、この政策は良いが・・・」


「国庫を圧迫するということですよね兄上。」


「あぁ、だがその補填に、この案はどうだ?」


現ラトゥール王ラインハルトは、羊皮紙からヴァーミルナに視線を向ける。

そして、目を細め彼の対応を待つ。

第二王子であるヴァーミルナは、口元だけ歪め王へ説明を始めた。


「兄上、奴隷ではありませんよ。」

「これは、流民の斡旋です。」

「難民など国益を食いつぶす害虫。」

「国民に百害あって一利なしです。」

「それが、どうですか・・・ほら、国益に変わりましたよ。」


ラインハルトは、顔を背け紅茶を啜る。

そして、咳払いと共に第二王子へ声を投げた。


「国益か・・・」

「で、どの国に売り飛ばす気だ?」

「わが国、リヒター、ファウダ、そして法王庁の4国間で禁止している筈だが?」

「ヴァンダヴェイロも我が国の友好都市。」

「さぁ、どこで法を破るというのだ?」


ラインハルトは、眉を顰めヴァーミルナに視線を送る。

その圧に贈すことなく、不敵な笑みで応える弟。


「さぁ、どこでしょうかね?」

「なんて・・・兄上、僕は売り飛ばすとは言っておりませんよ。」

「斡旋するのです。」

「彼らは、僕達の財産。」

「わが国の労働力です。」

「売り飛ばすなんて、もったいない・・・」

「つぶれるまで、働いてもらうんですよ。」

「だって、獣ですよ。」


「この件は白紙だ・・・もういい、下がれ。」

「おいギリアム、治水と貿易の面を改善した案で試算を頼む。」


「はい、後ほど、お部屋までお持ち致します。」


会議室から出るヴァーミルナは鼻で笑う。

そして、同じように会議室を出たギリアムに声を掛けた。


「よぉ~ギリアムちゃん。集団術式の件、進んでるか~い?」


「ヴァーミルナ様、あの件は、否決されたじゃないですか。」

「進んでるわけ無いでしょ?」


「そっか~、アレだけ出資したのに、僕は悲しいなぁ~ハハハッ。」

「お前んとこの助手、数年前にいたライザとか言う女みてえに腕吹っ飛んだけど・・・」

「知識がねぇ奴じゃ、腕何本あってもしょうがねぇよなぁ。」

「次は誰かな~?」


ギリアムは俯き眉を顰める。

しかし、相手は腐っても民がほめたたえる第二王子。

俯く彼は、可能な限り協力を拒むことしかできない自分に苛立つようにも見える。


「なぁ、ギリアム。」

「笑って言ってるうちに話は聞けよ・・・ハハッ。」


「失礼します、ヴァーミルナ様。」


ギリアムは、視線を合わすことなく、第二王子の元を離れる。

そして、彼の研究室へと帰っていった。

残された第二王子は、表情を変えることなく、その影を見つめる。


「ど~すっかな~研究者。」

「金回りも良か~ねぇしな。」


第二王子は、外行きの笑顔を作り街を歩く。

そこに集まる住民は、心から彼に信頼をおく。


「ヴァーミルナ様、我々の為にいつもありがとうございます。」

「良かったら、ウチの店で食べてってください。」


「・・・お気持ちだけ頂きます、皆の憩いの場に私など、邪魔なだけです。」

「私は、皆の笑顔があれば、それでいい・・・そこの場には、私は不要です。」

「では、失礼します。」


「・・・できたお人だ。」


第二王子は、笑顔で手を振りその場を後にする。

そして、いつもの路地へと足を運んだ。


「いらっしゃい・・・」


人気のない酒場の扉は重く入るモノを選別する。

ここは、彼が本性を晒す数少ない公共の場だ。


「ブハハハ、何だよ王子、その取ってつけたような気持ち悪い笑顔は。」


「うるせぇよ、オヤジ。」

「おもしれぇ情報はねぇか?」


親父は、王子に酒を出し、腕を組む。

そして光を反射するほど美しい頭皮を撫でる。


「そうだな・・・」

「最近じゃ、民は、恵みを与える太陽になぞり、」

「あんたの事を太陽の王子なんて讃えてる話があるな。」

「ハハハッ、言ってて腹いてえわ・・・あんたが太陽だとよ。」


「ハハハッ、違いねぇな・・・」

「いや、そうだな・・・それはいい傾向だ。」

「これで票は取れる・・・後は金だ。」

「なぁオヤジ、さっきの話は無し。」

「儲け話はないか・・・・他国でも構わねぇ。」


オヤジは、口元を歪め、王子に情報を流す。

それは、北の都ヴァンダベイロンの変わった女商人の話。

それを聞く王子もまた、不自然に表情が歪む。

王子は、オヤジに礼を言い酒代と情報料を置き店を後にした。

親父は、その後ろ姿を見つめながら呟く。


「よく言ったもんだっぜ・・・」

「太陽に人が集まりゃ、必ず影ができるってよぉ。」


ラトゥールの様な大国であれば、必ず闇が生まれる。

それは、王家にも例外はない。

この世代のラトゥールには傑物が多い。

しかし、王の直系男児には、現王も含めそれには含まれなかった。

姉や、異母弟は、生まれに恵まれ突出した才を持つ。

しかし、彼らは欲を持い。

それが、闇をさらに濃した。

ヴァーミルナ・フュルスト・ラトゥールをより深い闇へと。


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