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35(250).忌還祭

普段は穏やかで優美な景観を見せる蓬莱を代表する山。

それは、月山の中で唯一の独立峰。

頂上から美しく山麓まで広かる線は、見る物を虜にする程だ。

その為、蓬莱山と呼ばれるほどに国民から愛される。

しかし、その本来の名前は、この土地の持つ特性から来る物がある。

それは、他の場所に比べ、圧倒的に世界の境界が薄い事だ。

この地では、死者の魂を呼ぶ事すらできるとまで言われる程だった。

しかし、それを容易にさせない存在がいた。

それは、神獣の一角である龍だ。

彼の者が住む山である事が、この地に人を進出させている。

僕達は、その守獣の眷属を倒してしまった。

目の前では、その姿がブレ始め、存在を2つに分けるかの様に見せる男の姿。

男は、古代語の詠唱を止めることは無い。

それは、呀慶の呪言の比にならない程に不快な音の連なりだ。

それを守る様に立ちふさがる魔人は笑う。


「おぉ、始まったぞ!」

「ソラス様が完全に復活なさる。」


僕は、心の内から溢れる不安に動かされ、魔人に立ち向かう。

その姿に続く様に、呀慶達も魔力を高めた。


「アンタの言ってる事がわかんないよ・・・」

「でも、親父のやろうとしている事は、やっちゃいけない事だ。」


「無知では、何が正しいかなど分かるまい。」

「人などという下等な存在では、尚の事だ!」


僕は魔人に対し、舞姫で切り払う。

それは、感触があるものの、ダメージがある様には思えない。

魔人は、腕を斧の様に変化させ、それに応戦する。

力と力は激突するが、所詮魔術師の力。

その上、感情に囚われた剣技など、その精度がある筈もない。

斬り合うも、容易に止まる剣閃は、膂力により押し返される。

しかし、僕は辛うじて助かった。


「魔物がほざっな!!」


驍宗は、魔人の側面から切りつける。

それは、大上段から加速。

音を残し、淡く浮かぶ紅い揺らぎの中の刃を白熱させる。

爆発音は、斬撃後に衝撃波へと変化した。

僕は、彼の声に反応し、後方へ飛びのく。

今までいた場所には、実体の後を追った衝撃波がぶつかる。

魔人の斧は根元から切られ空中に。

しかし、それ自体は、魔人の残る手に収まる。

そして、さも当然の様に振り抜かれる斧は、驍宗を襲う。

そこには、一方的な虐殺は起こらない。

驍宗は眉を顰めるも、冷静に鞘でそれを受け止める。

その姿に、仰々しい表情でつぶやく魔人。


「人の身でそこまでとは・・・」

「生まれの差とは、なんと悲劇だ!」


投げられた声と共に、体重を乗せた前下蹴りで驍宗は吹き飛ぶ。

地面を転がる彼は、運が良いのか悪いのか、既に魔法の加護下ではない。

僕達の後方では、呀慶は未だに呪言を続ける。

それを意識させない様に、藻は騶虞に跨り、式神を飛ばす。

ばら撒かれた式神は、その依り代を燃え上がらせ火の鳥へと変化。


「火の鳥たちよ。」

「彼の者を燃やし尽くしてくんなまし。」


燃える鳥は、社にいる男を襲う。

しかし、社には結界が張られている為か全てを拒絶していた。

その光景に唇を噛む藻は、その場を2つの式神に任せ、呀慶の詠唱に斉唱する。

藻から放たれた式神は僕達に加勢。

魔人は、前蹴りのままの脚を踏み込み、その立ち位置を変える。

それは、主を守護する必要がないと理解した為だろう。

彼は失った腕に魔力を集中させる。

それは、難なく失った腕を再生させた。

社では、ブレから2人に完全に分かれた男の姿。

しかし、何処か背景が透けて見えるようにも思えた。

未だに続く抑揚のない古代語の呪言。

少しずつだが、男の声は大きくなる。

その声に共鳴する様に、大地が揺れ、足元に亀裂が走った。


「素晴らしい・・・素晴らしいぞ。」

「さすがは、ソラス様だ!」

「復活なさるぞ。」


山に走る大地の裂け目は大きくなる。

その時、2つに別れた男は、1つに戻った様にも思えた。

しかし、声は複数ある。


「アレは、なんでありんすか・・・地獄の亡者?」


亀裂の底からは、何かの蠢きの中心に声の主。

それは、親父ではない。

姿は、アリシアの様に黒エルフのそれだ。

ただ、魔力は尋常ではない。

悪寒にも似た不安が、僕の心を締め付ける。

その瞬間、社の男は白目をむいたまま叫ぶ。


「黄泉道は開いた!」


男は、空中で亡者と共に帰還した男と重なり一つに。

それは父親の形を失い、黒エルフへと変化。

その瞬間、空からは光が降り注ぎ亀裂を塞ぐ。

衝撃波と共に轟音が響く恐山。


「亡者など、この世には不要!」

「道など閉じよ!!」


呀慶の怒声は、光の柱へと投げられる。

その後方では、片膝を着き魔力を使い切った藻。

それは、怒声を張る呀慶も同じ事。

一方、その光景を目の当たりにする魔人は、何処か笑っている。


「その程度の魔力で、我が主人がおちるかよ。」


光は徐々に消え、景色に1つの影を残した。

それは、宙に浮く無表情の男の姿。


「不便な体よ・・・」

「糞女神よ、聞いているか!」

「転生させるなら、朽ちぬ体を用意しろ!」


それは、僕の理解できる範疇を越えた言葉だ。

視線を戻す男は、帰らぬ返答を待つことなく笑みを浮かべる。


「3度目とは言え、2度目の続き・・・」

「今一度、貴様を呼びつけてやるから待っていろ糞女神。」


彼の足元に空いた裂けめに亡者の姿は既にない。

それは、光の柱が確実に発動したことを意味している。

しかし、その対象は無傷。

その上、攻撃を受けた事すら気に留めていない。

空に浮く男は、僕達に向け薙ぎ払う様に腕を振る。

それは、詠唱も無く衝撃波を生む。

僕は、盾でソレを防ぐも、かなりの距離を押し込まれた。

そして男は、魔人に向け声を投げる。


「おい、ダッシュウッド・・・」


魔人は、男の前に跪く。

それは、王に対する騎士の様な振舞い。

空を覆う暗雲から、差し込む光が彼らを照らす。


「案内しろ・・・糞女を顕現させる。」

「バベルだ・・・」


「お心のままに。」


魔人は、その背中から巨大な蝙蝠の様な羽を生やし、その姿を巨大な六肢の龍へと変える。

そして差し出された手の平に男が乗ると、辺りに暴風だけ残し、悪夢は西の空へと消えていった。


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