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33(248).絶望の山

暗雲に覆われた恐山の山頂は、時折激しく光る。

魔力渦巻く黒雲は、魔力の塊にも思えた。

僕は、足場の悪い山道も気にならない程に意識は奪われている。

それでも、後方からの声は心を繋ぎ止めた。


「ルシア、援護は任せろ!」

「お前には、私がいる・・・無理はするなよ。」


僕は、アリシアに壊れた笑顔を送る。

そして、視線を戻し頂上を見据えた。

目的の場所からは、激しい光と金属がぶつかり合う音。

暫くは霧の中を進み、そして開ける視界。

巨大な青い龍と、2人の戦士と1頭の巨獣がぶつかり合う。

それは、英雄譚の一幕の様にも見えた。

一方はボロボロだが、何処か余裕がある。

また一方は、被害の無いようにも思えるが、悲壮感しかない。

僕は、走り戦線へと加わる。


「驍宗、状況は?」


「ルシアか、見た目ほど良うはなか。」

「・・・来っど!」


青龍は、稲妻を風に孕ませ、その巨体と共に迫る。

剥き出された牙は、不自然に鋭い。

驍宗は、大太刀を構え、そして衝撃を殺す。

僕の目の前には、既に青龍の巨大な顔はない。

目の前を、大木の様な巨体が暴風を孕み過ぎていく。

僕は、紅く揺らめく刃を鱗の奔流に突き立てる。

それは、数枚の鱗を吹き飛ばすが、同じように僕も跳ね飛ばされた。

後方から僕を包む魔力は温かい。


「ルシア、無理をするなと言っただろ!」

「私が止める・・・」


アリシアは、魔力による加護を僕に施すと、さらに魔力を高めた。

そして彼女は目を瞑り念じる。

それは空間に美しい術式を完成させた。

そこから放たれる力は、地面を動かし、巨大な蔦を生み出す。

それは、空を舞う青龍を捕らえる。

しかし、巨体全てを押さえる事など到底できない。

そこに轟音と共に光りの柱が立ち、彼の者の肌を焼く。

呪術者は、眉を顰め、唇を噛む。


「まだ落ちぬか・・・」

「驍宗、 騶虞と共に肉を断て!」

「私は、次撃を準備する。」


呀慶は騶虞から飛び降り、アリシアと対面する位置に。

巨獣は、巨顎から飛び降りる驍宗を拾う。

そして、一つの刃となる。


「頼んぞ騶虞・・・そいでは行っか!」


場は、禍々しい巨大な魔力が包む。

そこに、紅く揺らめく2つの魔力。

機動力を得た1つの刃と、拘束された巨肉を切り刻む刃。

巨大な大蛇が纏う稲妻は、二人に牙を剥き続けた。

空を翔るそれは、鎧を傷つけ、肌を裂く。

青龍の意識は、目の前を駆け回る巨獣にあるが、尾は別の生き物の様に動く。

僕は、鱗が剥がれた腹部を切りつけ、血しぶきを舞い上がらせる。

正面の壁は、その巨体をひるがえし、間合いを作った。

そして青龍は、強引に蔦を引きちぎり空へ。

その動作は、無意識に風圧を生み僕を襲う。

その風は場違いなそよ風を装い、頬を掠める。

次の瞬間、壁が僕に迫る。

僕は、無謀にも上体を浮かせ盾で流れに乗る。

火花と共に、盾の表面が白熱。

しかし、そこに予期せぬ幸運もあった。

青龍の纏う嵐は、魔力を失い弱まる。

後方からは、アリシアの声。


「ルシア、のけ!」

「呀慶、準備しておけよ!」


彼女から放たれた、空間を歪めるほどの赤黒い熱線。

それは、青龍に纏わりつく。

そして、爆動索の様に熱線に沿って爆発を繰り返す。

さらに、爆発は空間を収束させ岩漿へと変化。

全身をマグマで拘束された青龍は、大地へと墜落。

その巨体をゆっくりと立てるも、動きは弱々しい。

青龍は、その巨大な瞳に映る僕達を睨み、唇を振るわせる。

そこに呀慶の叫ぶような声。


「全員、下がれ!」


地響きの様な呀慶の叫びは、間髪置かずに光の柱を呼ぶ。

僕は、アリシアの正面に戻り盾を構える。

光は、大地を抉るも、その中心からは、怒りに満ちた咆哮。

青緑の鱗は、爛れ赤黒く変化し、彼の者の涼やかな瞳は紅く染まる。


「来っど!」


驍宗の声は、その映像に置いて行かれた。

一瞬、身を固めた様に思えた巨体は、全てを薙ぎ払う。

呀慶は、先ほどの位置から騶虞に回収され助る。

しかし、僕達は宙に舞った。

それでも、衝突時に魔力を流した結果、僕は奇跡的に助かる。


「アリシア!!」


遠心力により加速した尾の先端は、力を失くしてなお音速を越える。

魔力防壁ごと吹き飛ばされた彼女は、意識なく地面に転がった。

僕は、彼女の元に駆け寄る。

そこには、意識なく横たわる彼女。


「アリシア!  アリシア!!・・・」


叫び声は、嵐にかき消され響く事すらない。

そこに、ようやく追いついた3人。


「良うのうござりんすね・・・」

「兎月さん、アリシアさんを運びんすえ。」


藻は、魔力を紙製の人形達に込める。

それは、柔らかい光と共に意志を持ち彼女の声に従う。


「この方を麓まで運んでおくんなんし」

「兎月さん、ラスティさん、お願いしんす。」


彼女は、青龍に視線を向けると、印を結び術式を描く。

そして、術式は成立し、強力な魔力を呼び覚ます。

虚空からは、二つの存在。

一つは、風を纏い、上半身のみの緑の鬼の様な魔人。

もう1つも同じように炎を纏う上半身だけの赤い鬼の魔人だ。

彼女は2つの存在に指示を出す。


「行きなんし、嵐鬼、炎鬼!」


しかし、一方は彼女の声に反応しない。

目を顰める藻は、その一方に指示を繰り返す。


「嵐鬼、どうしたんでありんすか?」


彼女の呼びかけに反応せず、頭を抱える何かの囁きに耳を傾ける式神。

そして次の瞬間、主人に牙を剥く。

僕は、その間へと割って入る。


「危ない、藻!」


風を纏う鬼は、彼女に殴りかかるも、僕の盾に防がれる。

そして盾は、その性質から、魔の者の存在を否定した。

目の前で消滅した嵐鬼。その空間に視線を送る藻は告げる。


「この場は、どこかおかしゅうござりんす。」

「式神は、より上位の存在に従いんす。」

「あちきの制御から離れるという事は・・・」

「あの大蛇は、あちきよりも風の上位者。」


僕は、彼女の言葉に引っかかりを覚えた。

そして、その疑問を投げる。


「藻さん、大蛇ってあの青龍の事だよね?」


「青龍?」

「あちきの前には、悍ましい大蛇があるのみでありんすよ。」


その表情には、嘘偽りは全くない。

だた、言葉の喰い違いに首をかしげているに過ぎないのだ。

場を包む魔力は、そこにいる者全てを嘲笑うかの様にその魔霧を濃くしていった。


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