表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/325

32(247).蓬莱山

それは、美しい台形の山だ。

国外からも称賛されるその姿は、国の名が与えられた。

しかし、その美しさとは裏腹に、最も闇深い場所でもある。

それは、最も常世に近い場所であるためだ。

この地に城門がある理由は、侵入者の警戒ではない。

中の魔物を外へ出さない為の城門である。

空を見上げる呀慶は、唇を噛む。

同じように、そのやり場のない力を自然にぶつける驍宗。

俯き呟く呀慶の表情は重い。


「何故こうなった・・・相手はヒューマンだぞ。」


「ゆちょっ場合か、入っど!」


呀慶は、地面を踏みつけ気分を変え、魔力を高める。

それは、巨大な魔獣を呼び寄せた。

頭を擦り付ける騶虞をひと撫でし、二人は飛び乗る。


「騶虞、頼む!」


呀慶の言葉を理解する巨獣は、一声吠え城門を跳躍する。

そして、山頂に向け走りだした。

騶虞は、大地を蹴り風の様に疾走する。

しかし、城門から頂上に伸びる山道には目的の人影はない。

在るのは、人ならざる存在。

呀慶は、驍宗に手綱を渡し、後方へ移り呪言を唱える。

それは、人に対するモノではない。

辺りには、自然発火でもしたかのように燃え上がる魔物たちの姿。

騶虞の進む先にソレがあれば、驍宗の大太刀が切り払い道を作る。

登頂に半日以上かかりそうな山道を二刻程度で踏破する。

彼らの通り過ぎた後には、燃え尽きた魔物の死体だけが残った。

風景は登るにつれ変化する。

辺りに気を配る頃には、彼らは雲海のはるか上に。

そこには、嫌味な程に充満する穢れた巨大な魔力。

眉を顰めた呀慶は、驍宗に声を掛ける。


「これは不味いな・・・」

「本当に、これが人のする事なのか?」


「そげんこっは、どげんでんよか・・・悪即斬じゃ。」


彼らの目の前には、巨大な黒い大蛇が空を悠々と舞う。

驍宗は、騶虞から飛び降り、大太刀を構える。

それと同じように、騶虞に跨り魔力を高める呀慶。

彼は、両足で騶虞をがっちりとはさみ、片手で手綱を握る。

残った手で印を結び、魔力を呪言へと変えていく。


「オン・シュチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ!」


それは、二人と1頭を強化する。

しかし、それは諸刃の剣でもあった。


「驍宗、さっさと片付けるぞ。」

「攻撃は喰らうなよ・・・」


「いつもんアレか・・・どっちが博打馬鹿じゃ。」


その会話に業を煮やした巨大な大蛇は動きの鈍い驍宗を襲う。

それは、空が落ちて来たかの様に重苦しく、彼の視界を埋める。

驍宗は、大太刀を抜かず、半身で構える。

迫りくる圧が最大になった瞬間、彼は動く。

距離を測る様に突き出された利き腕は、担がれた大太刀を抜き放つ。


「チェストーーー!!」


その瞬間、魔力で燃え上がる大太刀と大蛇の鱗は火花を生む。

そこには、血しぶきなど一切ない。

だた、金属のこすれ合う音と、火花だけが薄暗い世界を彩る。


「・・・なんちゅう質量じゃ。」

「じゃけん、触るっとなら切れん訳がなか!」


驍宗は、左手に持つ鞘を手離し、腰ひもにソレを預ける。

そして、両手で大太刀を握り全身全霊をもって押し切った。


「蛇如きが・・・いい気になっなや!!」


その強引なまでの一閃は、大蛇の鱗を数枚吹き飛ばし、彼の者を怯ませる。

その姿に、呀慶は、声を上げた。


「オンバザラヤキシャウン オンバザラヤキシャウン オンバザラヤキシャウン」

「どけ! 驍宗。」

「オンバザラヤキシャウン オンバザラヤキシャウン オンバザラヤキシャウン!」


その瞬間、闇に染まる空に一筋の光が降り注ぐ。

それは、稲妻の如き轟音と共に大地を抉る。

光の柱が消え、残るモノは焼け焦げた鱗をボロボロと落とし怒り狂う大蛇の姿。

それは、二人を驚愕させた。


「何じゃ、神ん眷属とでんゆとな?」


「驍宗、乗れ!」

「いったん距離を置くぞ。」

「アレは、まずい・・・」


駆け寄る騶虞に手を伸ばす驍宗。

それを引き上げる呀慶は、遠巻きに走る様に指示を出す。

騶虞は吠えるも、そこにいつもの威厳はない。

空からは、水滴がぽつぽつと降り始めた。

それに反応する様に、空中で蠢く大蛇は、自らの表面に稲妻を纏う。



一方、恐山の裾野には5人の旅人が到着していた。

僕達は、城門を越え、魔獣の死体を避けながら参道を進む。

頭上の雲は、時折光を発する。

僕は、魔力感知を広げるも、周囲は巨大な魔力に包まれ探知など出来ない程だ。

その違和感に視線を、後方の四人に向ける。


「ルシア、アレは不味いな・・・」

「だが・・・」


「あれは、聖母を連れて行った魔力だよ・・・」

「赤いローブの男・・・」


僕の中で全てが繋がり始めていた。

それは、10年以上前の渓谷からだ。

赤い鎧、赤いローブ、そして赤い吟遊詩人。

全ては、僕の親父の起こした悲劇。

僕の脳裏には、やせ細った母の顔が浮かぶ。

そして僕の口からは、無意識に小さな呟き。


「ゆるさない・・・」


山頂を取り巻く雲を越えると、そこには悪夢が広がっていた。

魔力こそ同じだが、目に映る存在は青い龍。

対峙する2人の男と1匹の巨獣は生き絶え絶えだ。

僕は、鞘から舞姫を抜き魔力を与える。


「ここで全てを終わらせる!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ