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29(244).夏の夕暮れ

海を臨む穣の都、昼は蒸し暑いが夜は涼しい。

都に在る神社の境内には、露店の設営が進む。

街はいつに無く活気づき、人々の笑顔で溢れていた。

僕は朝の鍛錬を終え、優しい兵士と談話する。


「今夜は、夏祭りだな。」

「俺んとこじゃ、娘がさ・・」

「仕事に行くなって駄々こねちまって大変だったよ。」

「俺も、一緒に祭りに行きてえよって、騒いだら。」

「嫁に笑われたよ。」


「おじさんらしいですね。」


「まぁ、金稼いでアイツらの笑顔を守りてえから仕方ねえけどな。」

「とはいえ、嫁がしっかり家を守ってくれてっから働けるんだがね。」

「そう言やあ、嬢ちゃんは、おっちゃんと話してていいのかい?」

「想い人ぐれえは、いるんだろ?」


「ハハッ、まあ・・」


僕は、真っ向から感情を揺さぶる質問に弱い。

ふと浮かぶアリシアの笑顔が顔を温める。

優しい兵士は、その姿に笑みを溢す。


「そりゃ、良い事だぜ。」

「その調子じゃ、接吻とかまだなんだろ?」

「まぁ、そこはそいつの甲斐性が試されるってもんだ。」

「嬢ちゃんは、可愛いから着飾ってきな。」

「着飾った分、男は真剣になるぜ。」

「まぁ、俺はそう思うよ。」


僕は、若干のかみ合わなさに目を瞑り、話を続けた。

そこには、優しい兵士の男性理論が繰り広げられる。

それは、無駄な様で有意義だった。



僕は、宿に戻りアリシア達に質問を投げる。

既に着替えが終わり、髪を梳かす彼女は不思議そうに振り返った。


「服欲しくない?」


「何だ急に、私は満足しているぞ。」

「・・・フフフッほら、肌着も涼しい特別仕様だ。」


「・・・アリシア。」


彼女の表情は悪戯だ。

目を細め、満足そうに笑みを浮かべた彼女。

僕の好きな表情だ。

そこに、ラスティが窓から戻る。


「ただいまぁ!」


「「おかえり、ラスティ。」」


彼女は、僕とアリシアの表情を交互に眺める。

そして、母親(アリシア)と同じ表情で視線を流す。


「もう少し、出てた方が良かったかな?」


「「ラスティ!」」


三人の笑いが、宿の一室を包む。

それは、街の活気に紛れ、良くある光景ではある。

僕は、ラスティを抱きかかえ、アリシアに再び問いかけた。


「アリシアは、ラスティみたいに薄手の服は欲しくない?」


「・・・荷物は、少ない方が楽だからな。」

「その生地では、冬は寒いだろ。」

「・・・そうだな、私は不要だ。」


やはり、彼女は合理的な面が強い。

それは、ミーシャ以上に感じる部分がある。

彼女は、その性格が故か、並みの男よりも凛としていた。

僕は、浴衣の提案を諦め、二人を祭りに誘う。


「浴衣は、大丈夫そうだね・・・ハァ。」

「3人で、今夜のお祭り行こうよ。」

「屋台っていう露店がいっぱい出るんだってさ。」


「食べ歩きか、面白そうだな。」


彼女は、僕の腕にぶら下がるラスティを引き取る。

そして、彼女をひと吸いし、小猫の頭を撫でた。


「ラスティ、祭りだ。」

「今日は、何が食べれんだろうな?」


「ウチ、小さい焼き魚食べたい!」

「花火も見たい!」


小猫の言葉に、僕達は微笑む。

その光景は、やはりどこにでもある幸せななのだろう。



時は過ぎ、空を紅く染めた夕暮れ時。

僕達は、街で呀慶と藻に遭遇。

涼し気な服装の二人は、アリシアに視線を向け目を細める。

そして、藻は口を開いた。


「ダメでありんす。そんな恰好!」

「侘び寂びがありんせん・・・」


藻は、アリシアの手を引き大きな館へ連行。

そこは、藻の家だというが、主人一人に対し仰々しい程に使用人が働く。

僕は、一室で呀慶と雑談してアリシアを待っていた。

襖の向こうからは、アリシアの悲鳴。

そして、それを諭す藻。

想像しがたい光景が広がっているのだろう。

僕はその悲鳴に心を揺らす。

その為か、落ち着きを失っている。

その姿に見かねる呀慶は、優しく諭す。


「ルシアよ、果報は寝て待てと言う。」

「事は、全てが準備で決まる。」

「起こった事は、何をしても結果は変わらんよ。」


麦茶を啜る呀慶。

その姿は、次の瞬間揺らぐ。

館の玄関先からは、聞き覚えのある声。


「藻! 独り占めは許さないんだから~!」


それは、瀬織の声だ。

彼女は、我が家の様に襖を開ける。


「やっぱりじゃん! 呀慶・・・」


視線は冷たいが、彼女は呀慶の横にチョコンと座る。

そして響く独特の言い回し。


「呀慶、いもっじょは、やらんじゃ!」


「驍宗、玄関先で大声など、はしたなくってよ。」


その声は、瀬織の表情を歪める。

いつに無く騒がしくなったであろう館。

その主は、少し嬉しそうだった。

5人で茶を啜るうちに、正面お襖は開く。


「アリシア美人~!」


第一声を奪取する瀬織のいやらしい視線は、僕に向けられる。

そして、頷く2人の女性。

その一人を、めねつける芭紫は、これが本質なのだろうか?

そんななか、僕は瀬織に背を押された。


「ルシア、ど、どうだろうか?」

「私の様な女に、似合うか?」


「・・・うん。」


そこには、赤面し合う2人の男女。

それを、弄りたくてしょうがない瀬織とラスティ。

藻は、和む友人達を眺め、満足そうな声を上げた。


「それでは、お祭りに出かけんしょうか!」


大所帯になった一行は、館を後に神社へと向かう。

僕は、髪をまとめ上げ、頬を染めたアリシアの手を握る。

静かに沈む夕日は、僕達の表情を隠した。


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