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28(243).風物詩

空が白む頃、穣都の商人達は目を覚ます。

街から離れた田畑では、腰を折り作業に励む農民の姿。

僕は宿を出て、街の外で剣舞を楽しむ。

剣閃は紅い軌跡を残し樋鳴りを越える。

僕は、懐かしい白影と共に円を描く。

その戯曲には、盾技も加わった。

一連の流れは、時に激しく、時に緩やかに。

風は、体に浮く汗を優しく払う。


「嬢ちゃん、芭紫姫様のお弟子さんかい?」

「おっちゃん、見とれちまったよ。」


「ありがとうございます・・はずかしいな。」

「芭紫様には習いました、素敵な方ですね。」


僕の戯曲が終わると、街を警備する兵士の一人は興味本位で話を掛ける。

それは、他愛もない良くある話だ。


「夏は暑くなるからな、無理はすんじゃないぞ。」

「おっちゃんなんて、立ちっぱなしだろ・・・」

「一昨年の夏なんて、ぶっ倒れちまった事もあったぞ。」


「はい、気を付けます。」


「直ってのは、それだけで美徳だ。」

「ホレ、塩飴だ。 疲れが取れるぞ。」


優しい衛兵は、笑顔で僕を見送る。

太陽は、徐々に高度をあげ、その存在を強調した。

宿では、長い髪を櫛で梳かすアリシアの姿。


「おかえり、ルシア。」


「うん、ただいま。」

「最近は、街でも早起きだね。」


彼女は、眉を顰め目を細める。

そして、視線を外し淡々と髪を梳かしだす。


「・・・福さんが、うるさくてな。」


「怒られたの?」


彼女は、ため息をつき窓の外を眺めた。

そしてまた、ため息を深く吐く。


「いや・・・あの人は何だろうな。」

「つかみどころのないお人だよ・・・」

「起きると、横で寝ているのだ。」

「おちおち、寝坊など出来んよ・・・」


「なにそれ・・・怖いね。」


アリシアは、僕と同じような表情を戻す。

しかしそれは、笑顔に変わり、件の女性を擁護する様に言葉を返した。


「ハハッ、違うんだ。」

「彼女曰く、寝顔を見ていたら眠くなってしまったらしい。」

「どこまでも、自由なお人だよ・・・遠い記憶の乳母()の様だった。」


僕は、目を細め、空を見つめる彼女に母の質問を投げた。

その答えは、彼女の表情を柔らかくさせ、時に涙ぐませる。

僕は、僕の中にアリシアの想いが増えた事が嬉しかった。

そうこうしていると、彼女は、窓に現れた小猫に声を投げる。


「お帰り、ラスティ。」

「背嚢がパンパンだな。」

「目的は果たせたか?」


「ウチ、買い物上手になった!」


小さな冒険者は、机に背嚢を降ろす。

中からは、焼いた小魚や、一口サイズの赤く熟れた野菜。

そして、この国に来て僕達が魅了されたお結びだ。

彼女は自慢げに僕達に伝える。


「フッフーン♪ 朝餉の準備できたよ!」


僕は、ラスティも飲める麦茶を用意する。

アリシアは、彼女をひとしきり撫でた後、食器を用意した。


「じゃあ、朝餉にしようか。」


「「「いただきます。」」」


僕達は、ゆっくりと話しながら食事をとる。

ラスティは、意外にもハーレの様に街の話題を集めていた。

彼女は、身振り手振りでソレを伝える。


「西でね、戦争が起こりそうなんだって。」

「ラトゥール?のないせん?だって話だったよ。」


「内戦か・・・あの国は懲りないな。」

「おい、ルシア・・・大丈夫か?」


僕は、眉を顰め俯き考えていた。

西が不穏な動きをしていることは、崑崙にいた時からだ。

しかし、それがラトゥールだとは想像しなかった。

それは、現当主やファラルド、アレキサンドラがいるからだ。

彼らが戦争起こすとは思えない。

僕は、天井に視線を向け、ワイズマン家やミランダの事を想い浮かべる。

その姿は、苦しく見えたのだろうか。

アリシアは、僕に心配そうな視線を向ける。


「ルシア、西に戻るか?」


「・・・いや、親父を止める手立てを見つけるまでは戻れないよ。」

「僕は、ファラルドやルーファス達を信じてる。」


アリシアは、僕の表情に笑顔を返す。

そして、自分の皿に残る苦手な料理を僕の皿へ。


「そうだな、しっかり食べで元気をだせ。」


「・・・アリシア、ダメだよ・・苦手なモノ押し付けるの。」


僕は、苦笑いの彼女に笑顔を送り、増えた皿の中身をたいらげる。

3人は食事を終え、この国の礼儀に従う。


「「「御馳走様。」」」


「ラスティ、ありがとね。」

「美味しかったよ。」


僕は、机の上で仰向けで寝そべる彼女の頭を撫で、食器を片付ける。

満足そうな小猫は、淑女らしさなどない。

それを咎める者など、ここにはいない。

そんな自由な彼女の姿は、アリシアの笑顔を誘う。

そして、彼女の手が小猫を襲う。


「可愛いヤツめ・・・他に噂は無かったのか?」


弄りなら、情報を聞き出す彼女は、拷問間のつもりだ。

だが、そこに在るのは嬉々とした笑いだけ。


「くすぐったいよ、アリシア。」

「そういえば、明後日の夜は、花火?大会だって。」

「何かな、花火大会って?」


「ほぉ、花火か・・」

「西でも祝い事があると、空に光の花を打ち上げるだろ?」

「その辺が関係しているのではないか?」


「ウチ、綺麗なの好き!」


彼女達の嬉々とした会話は、僕の戻る頃には終了している。

僕達は、今後の相談の為、呀慶の家に向かうことにした。

道を行きかう人々は、皆涼しそうな姿に、団扇や扇子。

仕立ての良い着物を着る女性は日傘をさしている。

僕は、だいぶ軽くなった財布を眺めつつアリシアへ視線を送る。


「ん? どうしたルシア。」

「食事は、しただろ?」


「そうじゃないよ。 アリシアは、日傘とかあった方が良くない?」


彼女は、顎に手を当て思考する。

そして、僕に視線を返す。


「邪魔ではないか?」

「暑さ対策なら、ほら。」


彼女は、着物の襟を少しずらし肌着を見せる。

それは、他意はないが、僕の視線を困らせた。


「アリシア・・・恥じらい。」


「・・・そうだな、町中だったな。」

「フフッ、今日も暑くなりそうだな、ルシア。」


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