表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
241/325

26(241).蘇る刃

鬼盾の話があったの日の夕暮れ時。

東の空は、燃える様に赤く染まる。

工房からは、未だに鉄の音が鳴り響き、月山の活気は衰えない。

夕餉の前に、巨漢の鬼からは笑顔はこぼれる。


「完璧じゃ。」

「親父、出来上がったぞ!」


僕は呼ばれ、工房主と共に声の元へ向かう。

刀の支払いは、済んでいる。

その為か僕の財布は、だいぶ軽い。

工房は活気と共に張り詰める刃の様な空気、僕は自然と背筋が伸びる。


「どうじゃ、親父。」

「おいん最高傑作じゃ!」


「お前だけのじゃない、二人のだ・・・うむ、いい出来だ。」

「おい、ルシア。」

「コイツの銘だが、息子の、驍宗の初作・・月山守驍宗を刻んだ。」

「名を舞姫。」


そこには、少し反り返った刀身が紅く輝く。

そして、刃に浮かぶ波打つ波紋は、時に荒く、時に穏やかな波の様だ。

以前より少し重くなった刃だは、剣全体のバランスは以前よりも良い。

僕は、護拳から反射する光に、ミーシャの笑顔を感じた。



「ありがとうございます。阿傍さん、驍宗。」

「大切に使います・・・絶対にもう壊しません。」


「ハハハッ、そんわろは、おいん傑作。」

「絶対に折れんど。」


僕は涙を拭き、彼らと握手する。

そして、刃を新たに拵えた鞘へと納めた。

腰に収まった新たな刃は、工房の炎の光を反射し優しく輝く。


「良かったな、ルシア。」

「お前の笑顔が見れて、私も嬉しい。」


「アリシア、心配かけたね。」

「僕は、もう大丈夫。」

「もう誰にも、キミを傷つけさせたりはしないよ。」


「ルシア・・・」


僕は、アリシアの手を握り、彼女と視線を合わせる。

柄にもなく、僕達は空気を読まなかった。

それは、周りからは異世界だろう。

ため息とヤジで、僕達は異世界から引き戻された。

そして、夕餉が始まった。



翌日、僕達は、雨の月山聖岳へと足を踏み入れた。

そこには、大きく口を開ける洞窟。

どこか懐かしさを感じる空気に、僕は視線をアリシアに送る。


「ああ、コイツは魔窟だ。」

「だいぶ、深いんじゃないか?」

「どうする、ルシア・・・いったん戻るか?」


僕は、背嚢の中身を思い返す。

そこには、昨日の回想が纏わりついて来た。


「ルシアくん、お出かけするのね。」

「フフフッ、私のとっておき、持ってきなさい♪」

「ほら、これも美味しいわよ。」


「福さん、花見じゃないんですよ?」


「あら、花見も洞窟も一緒よ。」

「お土産、期待してるわね。」

「・・・ほら、これも入れてっと♪」


僕は、色々なモノを詰め込まれたことは思い出す。

しかし、肝心の内容が怪しい。


「・・・お土産が無いと戻りずらいよね。」


「・・・確かにな。」

「まあ、数日は大丈夫だろう。」

「行くか、ルシア。」


僕は、アリシアに笑顔で返し、大穴へと足を踏み入れた。

足元を流れる雨の川は、足場を悪くさせる。

中は自然洞窟らしく、ヒンヤリと肌寒い。

しかし、左右の壁面を点々と魔灯篭が奥へと導く。

後ろを歩くアリシアは、僕に声を掛ける。


「ルシア、索敵は私に任せろ。」

「お前は、前衛に集中するんだ。」


そして、同じようにラスティにも声を掛ける。


「ラスティはルシアの元でアイツの目になってくれ。」

「お前は目がいいからな。」

「戦闘が始まったら私の元へ来い。 いいな。」


「うん、わかった。」


小猫は、アリシアのフードから飛び降りる。

そして、音も無く僕のフードへと潜り込み、重みでその存在を伝えた。


「ラスティ、よろしくね。」


「うん、アイボー!」


久しぶりの魔窟に緊張が走る上、嫌な空気だけが辺りを包むだけ。

何処か禍々しい空気は、低級の魔物を寄せ付けないのだろう。

気が付くと3階層目に到達していた。

既に雨の川など存在せず、辺りも入口より暖かい。

僕は、最低限の注意を払い奥へと進む。

少し経ち、後方からはアリシアの指示が飛ぶ。


「来るぞ、正面から2だ。」


「ルシア、奥から猿のキマイラがくるよ。」


僕は、二人の言葉を頭に入れ、ラスティに指示を出す。

そして、盾を構え、新たな剣を抜く。


「ラスティ、アリシアの所へ」


彼女は、返事なく僕の背を駆ける。

僕は、重さの変化を確認し、正面の魔力へ向かう。

その瞬間、後方では魔力が高まり、僕の側面を青白い氷刃が駆け抜けた。

それは、一頭の鵺から視界を奪う。

そして鵺の顔を覆い再氷結。

僕は、残る一頭と距離を詰める。

相手は、警戒することなく飛び掛かって来る。

それは、野生の動きではない上、生の重さなど一切感じられない。

僕は、迫りくる爪ごと押し込む様に盾で鵺をいなす。

そして、背を向けた相手に刃を立てる。

それは、魔灯篭に照らされ美しく輝き、抵抗なく鵺を断つ。

抵抗なく刃は走り、樋鳴りだけがその場に残る。

そして一拍置き、血しぶきが壁面を染めた。


「まだ、魔力も流していないのに・・・」

「すごい、切れ味だ・・・」


僕は、青い血に染まった淡紫に輝く刃に視線を落とす。

そして、剣を振り、血を払う。

今までよりも、高く美しい樋鳴りは、何処か嬉しそうに聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ