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15(230).刃の魂

僕の目の前には、何故かあの魔王が大太刀を構える。

その上、嫌な笑いを湛え佇んだ。

ここは、安房の館の枯山水の庭の真逆に位置し、たたら場に隣接する庭。

周りには、阿傍や呀慶、もちろんアリシアたちもいる。

僕は、レイピアの様な剣を貸し与えられ、彼に対峙していた。


「経緯は分かった。」

「だが、腕は信用できん。」

「まずは、力を見せてみぃ。」


僕は、剣を構える他ない。

今、手にある物は、借り物の剣のみ。

それでも、向けられた刃には、それを返すしかなかった。

僕は、いつも通りに構える。

そして、驍宗を中心に円を描く。

その姿に、藻からは声が漏れる。


「やっぱり、美しゅうござりんす。」

「瀬織様みたい・・・」


その声をきっかけに驍宗は動く。

一瞬、砂煙が上がり、彼は消える。

だが、魔力を追うことは容易い。

一瞬消えた風の流れに剣を置く。

刹那、刃が擦れ火花が散る。

だが、彼の刃は強引に圧しかかり、僕を地面へと追いやる。

圧倒的な力に、僕は膝を着く。

それでも僕は、刃を立て、そして刹那、刃を戻し腕を捻る。

驍宗の重さは、僕の払いと共に対象を失う。

しかし、彼は揺るがない。


「悪うは、なかね・・・」

「だが、幻魔を折った力は何処から来っ!」


彼は、引くことなく半身に構えを変える。

僕は構えを戻し、徐々に距離を開けつつ円を描く。

彼からは殺意など一切ない。

ただ、相手を見定めるだけの空気だ。

僕は、彼の間合いから抜け、剣を鞘へ納める。

そして、体勢を沈める。

その姿に、阿傍は眉を顰めた。

そして、その横からは瀬織の声。


「アタシん時よりも、うまくなってるね。」

「・・・だた、兄貴には通らない。」


辺りの空気は、重く張り詰める。

それは、驍宗の構えが変わったからだ。

彼も同じように大太刀を鞘に納め、腰にぶら下げた鞘を手に持ち変える。

そして、体勢を沈めた。


「守っばっかいが、守りん本質じゃなか・・・」

「こん太刀筋、止めてみぃ!」


その瞬間、彼は消えた。

しかし、一瞬、紅く光る何かが映る。

その瞬間、目の前には巨大な魔力。

僕は其処に導かれるように刃を走らせた。

衝撃波の後、爆音が僕を襲う。

僕は、衝撃の瞬間に力を誘導する。

しかし、彼は鞘を離し、空いた手は僕の腕を掴む。

残ったのは、大太刀を持つ腕と、鬼の腹部に添えられた僕の腕。

その場には、砂煙が立ち、観衆の視線を阻害する。

そして、響き渡る鬼の高笑い。


「ハハハハッ、おもしてかねわい。」

「こいなら董巌も喜ぶど。」

「剣は、俺が直してやっ」


僕は、その声に押されるように、地面へと腰を落とす。

そして、天を仰いだ。


「ぅはーーー。なにこれ、やばすぎるよ・・・ハハハッ。」


空には雲一つなく、何処までも青く澄み渡っている。

正面の鬼は、満足そうに僕に手を差し伸べた。


「西ん人間は、似たことをゆど。」


僕には、何を言っているか分からなかった。

それでも彼から来る重い空気は消えている。

僕は、阿傍、そして驍宗と共に工房へ。

そこには、布を頭に巻き、汗だくで作業をする人々の姿。

皆、真剣に炎と向き合い、こちらを気に掛ける者などいない。

阿傍は、たたら場に隣接する鍛冶場へと入る。


「「「お館様、若、お疲れ様です!」」」


「おいは、つかれちょらんど。」

「気楽にいけや・・・ってねぇ。」


茶々を入れる驍宗を、ため息と共に小突く阿傍。

その姿に弟子たちは笑い合う。

作業台に着くと、二人の顔は引き締まる。

僕は、促されるままレイピアと幻魔の欠片を渡す。


「で、お主は、どうしたい。」

「コイツは、だいぶガタが来ている・・・」

「しかし、芯は死んじゃいねぇ。」


僕は、レイピアを眺め、俯き旅を思い返す。

そこに、強い突風が僕を後押しする様に流れた。

僕は、彼女の想いを噛み締める。


「守れる力が欲しい・・・」

「決して折れない刃が欲しいです。」


「言うじゃねえか。」

「・・・」

「親父、溶かして幻魔を皮鉄にすっか。」


驍宗は、折れたレイピアと幻魔を見つめる。

そこに阿傍の声が飛ぶ。


「判って来たじゃねえか。」

「心鉄は、元の魔鉱を使うのが最善だ。」

「てめえは、向槌だ。」

「・・・ルシア、二月(ふたつき)は最低かかる。」

「出来るまでは、その刀をぶら下げておけ。」


僕は、勝手に進む現状に若干の焦りを感じた。

しかし、彼女のレイピアが直るのだ。

嫌な気持ちなどまったくない。

しかし、若干の不安が過る。

そこへ、追い打ちの様な驍宗の声。


「月山公ん打つ刀じゃ。」

「懐は温かっしちょけや。」


彼らの笑顔の傍らに、刃を取り除かれたレイピアの柄。

その姿は、何処か嬉しそうに輝いて見えた。


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