14(229).封印と阻止する力
満足そうな彼女の表情は、僕の心を癒す。
少し重くなった空気は、同じように家主の妻により軽くなった。
それは、話題が変わったわけではない。
「阿傍さん、お客様にしっかり話せましたか?」
「あぁ、神の顕現については伝わっただろう。」
「あとは、対策だけだ。」
「そぅ、それは良かったわ。」
雰囲気とは裏腹に、つかみどころが全くない福という奥方。
それは蓬莱の女帝とは違う、何か別の圧を感じる。
アリシアたちが席につくと、阿傍は咳払いし話を続けた。
「んんっ、では続きを話すとしよう。」
「不安など、対策さえあれば多少和らぐモノだ。」
「神の顕現など、まず起こらん・・・」
「阿傍さん・・・」
「んん、しかし、起こってしまったら止めるしかない。」
「手段など、たかが知れているのだがな・・・」
「まずは、この世界に現れる前なら術者を討て。」
「そうすれば、繋がりが断たれ、顕現は失敗に終わる。」
僕は、阿傍の歯切れの良い言葉に疑問を投げる。
それは、不安からだろう。
「討てば、それで終わりなんですか?」
「そうだな、絶たれれば呼び水など止まろう。」
「神とて呼び水が無ければ、こちらへ干渉はできん・・・」
「だが、依り代に神が入ってしまうと厄介だ。」
「お主らも知っていよう・・世界樹だな。」
僕は眉を顰め、阿傍の顔を見つめる。
その反応は、彼の中では予想外の様だった。
横からは、その内容を補足する様に呀慶が話を引き継いだ。
「ルシアよ、世界樹は、聖女が自らの体に強制的に神を降ろし封じた結果だ。」
「そして、この世から引きはがす為に、聖女の命を絶つ・・・」
「聖女の中には、肉体を抜け世界樹となり、神の作った穴を浄化する者もいるがな。」
「・・・ゲニウス。」
僕の口からこぼれた言葉に反応する一同。
それは、彼らの想像には無い様だった。
しかし、呀慶だけは少し違った。
「そうか、二ティカ達にあったのだな・・・」
「ならば、話は早い。」
「顕現の状態によっては、聖女の死が必要。」
「まぁ、短期間に何度も顕現が起こっては対処しようがないがな。」
その言葉にアリシアは、顔を曇らせる。
僕は、そんな彼女の手を握り、彼女に微笑みかけた。
しかし、彼女の不安は変わらない。
それでも、彼女は無理にでも笑顔を作った様に見えた。
「ルシア、ありがとう・・・大丈夫だ。」
「・・・お前、剣の事はいいのか?」
アリシアは、作り笑いのまま、僕に気を掛ける。
そして、その言葉を呀慶が拾う。
「・・・そういえば、お主は他に剣で相談があったな?」
「阿傍様、どうか聞いてやってはもらえまいか?」
阿傍は呀慶の言葉に頷く。
そして、視線を僕へ向け声を掛ける。
「どうした。ムス、御客人。」
「月山公の儂に直せぬ刀など無いぞ・・・ホレだしてみぃ。」
僕は、レイピアを鞘ごと机に置く。
それを手に取る阿傍。
「ほう、これはなかなかの拵えだ・・・」
「・・・中を見ても?」
「お願いします。」
阿傍は、僕の言葉を聞いてから一息吐く。
彼は、布を口にはさみ、柄を見据える様に持つ。
そして、ゆっくりと剣を抜く。
「・・・」
「・・・親父、そん拵え・・・・」
阿傍は、刃を鞘に納め、口から布をとる。
そして、真剣な眼差しで僕へ質問を投げた。
「ルシアといったか、この刀をどこで手に入れた?」
その表情には、威圧感はあれど敵意はない。
ただ、真剣に真実のみを知りたい様に思えた。
「この剣は、僕の大切な人から貰った物なんです。」
「彼女の・・フォンランド家からの物です。」
「フォンランド家・・・猫の家系か・・」
「のう、呀慶。お主は知っているか?」
彼の言葉に、白狼は視線を返す。
そして、僕へ視線を送りつつ答えた。
「はい、フォンランドは、我が家系の従者が西に出た者の一つ。」
「だだ、それは大分昔の話です。」
「今は、西の島国で、1国の分家の様な存在だったはず。」
「では、主らから渡った物ではないのだな・・・」
そこに、驍宗の声が入ってくる。
それは、その剣以上に、その作者への興味だろう。
「親父・・・そいは、師匠の作じゃ・・」
「その様だな・・・・・」
そこには険しい顔の二人。
そして、机にはミーシャのレイピアが輝く。
僕は、その空気を打開する為に、とある刃の破片を机に置く。
「阿傍さん、貴方ならこれが扱えると・・・」
その言葉に、阿傍は眉を顰める。
そして、大きなため息が吐き出された。
「あのうつけ・・・この事か・・・・」
「ルシア、幻魔を切った刀は、お主のこの剣か?」
「はい・・・このレイピアが僕を守ってくれました。」
「そうか・・・この刀は、持ち主に大事にされたのだな。」
阿傍は、再びレイピアを持ち鞘を眺める。
そして、険しい表情を崩した。
その姿を見つめる驍宗もまた、同じような表情だった。
彼は、そっとレイピアを机に置くと、表情を直し僕に問う。
「お主は、どうしたい。」
横たわる鞘に包まれたレイピアは、野外から差し込む光を強く反射させた。




