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9(224).鬼の住まう山

穣の都から北上すると、蓬莱の大山が遠くに姿を現す。

そこは、大陸では蓬莱山と呼ばれるこの国を表す存在だ。

しかし、その国名を関する地名は、この国では呼ばれない。

ここでは、恐山、もしくは月山と呼ばれた。

そこは、魔力に満ち溢れ、魔窟の様な空気を形成する。

土地に近づくにつれ、人々の姿は西では見ない姿に変わっていく。


「アリシア、鬼だね。」


「あぁ、鬼だな。」

「以前に、崑煌であった天淵にも似ている者がいるぞ。」


僕達は、物見遊山の旅人の様に人々と風景を楽しむ。

しかし、肩掛けの姫と兎月は違った。


「ウチ、少し嫌な感じがする。」

「好きじゃないよ・・・ここの空気。」


「アタシも、この圧みたいなのは、ちょっと・・・」


その表情は曇っているが、吐き出すほどではない。

それでも、僕達は呀慶に相談をした。


「ねぇ呀慶、二人が辛そうなんだけど、どうにかならないかな?」


「そうだな・・・外の魔力が干渉しない道具でもあればいいのだが・・」


その言葉にアリシアは、腕を組む。

そして、座り込み、背嚢を漁った。

一刻ほど経つと、満足そうな表情の彼女は、僕に笑顔を投げる。


「フフフッ、できたぞ。」

「だが、放てる魔力も少しだが制限してしまう。」

「ラスティは気にする事はないが、兎月は状況に合わせろよ。」


「「ありがと、アリシア!」」


それは、綺麗な柄の布だ。

彼女は、兎月にソレを渡し、ラスティの首へと優しく結ぶ。


「フフッ、お前には、この色が映えるな。」

「あまり汚すなよ・・・術式に影響するかもしれんからな。」


スカーフの様に巻かれた布を、チョンチョンと触るラスティ。

彼女は、どこか嬉しそうに鼻をツンの上げ、笑みを漏らす。

隣では、同じように兎月も笑顔で腕に布を巻いた。


「どうだ?」

「少しは和らいだか?」


「うん、ウチ、気持ち悪くないよ!」


「アタシも大丈夫、ありがとうアリシア。」


2人は、鼻高々のアリシアに礼を言う。

そこには、呀慶からも敬意の眼差しが向けられていた。

僕は彼女の姿に、羨望の眼差しを向ける。


「やっぱり、アリシアは師匠だね。」

「すごく素敵だよ!」


「そんな表情で言われたら・・・照れるじゃないか。」


彼女に救われ、一行はさらに北上する。

そして、アレだけ小さかった山も、その雄大さを見せつけた。

そこは、林から森にに変わり、木の陰からは、正面の壁を見せつける。

呀慶は、道なき道を臭いを頼りに進み始めた。

そこは、エルフの里の様な古代の森ではない。

足元はゴツゴツと殺意しかない地面。

鳥の声さえしない森は、明るい時間でも、闇深く感じた。

僕は、当てもなく進んでいる様にも感じたが、白狼を信じる。

そして、日は徐々に沈んでいく。

先頭を歩く白狼は、振り返り野営の指示をする。


「今日は、この辺で休むか。」

「夜の山は、危険だからな・・・注意はしておけよ。」


僕は、笑みの無い彼の表情に、その意を理解する。

それは、皆の行動にも現れ、野営の準備は早急に完了した。

終わる頃には、日は沈み闇が辺りを包む。

目の前でパチパチと音を立てる炎だけが心のよりどころだ。

遠くからは、昼間は無かった怪鳥の囀り。

そして、低く重い唸り声と、狼の遠吠え。

それに対し、呀慶はスープを啜りながら話をする。


「蓬莱の生態系は特殊でな。」

「神代から続くモノなのだ・・・」

「お前たちは、神獣は知っているか?」


「うん、地竜とか、耳裂きとかだよね。」

「あとは、アクバラとは遭ったかな。」


その言葉に、呀慶は口元を緩める。

そして、優しい視線を僕に向けた。


「それは僥倖だ。」

「だた、この蓬莱では遭わない方がいい。」

「神獣とは、神の眷属だが野生の存在だ。」

「会話ができない分、悪人よりもたちが悪い時がある。」

「まぁ、私達が彼らの生活圏に入らなければいいのだがな。」


呀慶の話に頷きながら聴き入るアリシア。

彼女は、白狼の言葉に賛同する様に声を投げた。


「そうだな、だが、人という奴は傲慢だ。」

「その場所が良いところなら、我が物顔で入って行く。」

「そして、元いたモノを追いやってしまう・・・」


「業・・だよね。」


兎月は、会話に入らないものの、会話を聴きながら炎を見つめた。

その姿から、彼女の考えを察するには情報が少なすぎる。

そんな彼女に寄り添うラスティもまた、何か想うところがあるのだろう。

夜は更け、僕達は順に睡眠をとる。

そして、空がしらける頃、事は起こった。


「すまんが、皆ん血肉になってくれや!!」


聞き覚えのある声は、叫び声と共に巨大な熊を目の前に出現させた。

地面のゴツイ地肌程度では、熊の被毛は傷つかない。

しかし、背中の大きくひらいた斬撃跡から赤い鮮血が滴り落ちる。

その異常な光景にラスティと兎月の悲鳴が森に響き渡った。


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