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7(222).蓬莱の都:穣

暖かい陽気に追いつかれながら大都市を目指す。

景色は、野山から里山、そして村から町へと変わる。

山々との距離が離れ、景色に人々が溢れ出す。

そこでは服装もどことなく質の良いモノへと変わり、様々な表情も増えた。

無意識に辺りを見回す僕の手を、優しくそして強く掴むアリシアの手。


「ルシア、人が増えたな。」


その姿を見つめる、小さな淑女と兎娘。

アリシアの肩掛けと、そのやや後ろの女性で成り立つ会話は何時ぞやを思い出す。


「・・・見せつけっちゃって・・・羨まし。」


「兎月、口から洩れてるよ。」

「フフッ、二人はイイの・・」

「二人が幸せだと、ウチも嬉しいもん!」


その他愛も無い会話は、僕達の手に汗を浮かせる。

そして、こそばゆい空気は、アリシアの口を開く。


「ラスティ、ハーレ化は良くないぞ。」

「アレは、人生を損する生き方だ・・・」


「うん、わかった!」

「ウチ、アリシアみたいに幸せになりたいもん。」


「・・・お前は・・可愛いヤツだな。」

「この可愛いい口から出た言葉か・・・ウリウリ。」


僕の隣では、笑いが絶えず起こる。

それは、アレだけ臥せっていた兎月の心を少しずつ開いた。

彼女も、僕達と同じ様に旅する事で、何か得たのかもしれない。

笑顔で笑い合う3人の様子に、僕と呀慶の顔はほころぶ。

正面には、首都によくありがちな街を囲む城門は無い。

それは、地域ごとに関所と呼ばれる国境の様な物がある為ではないらしい。

呀慶は、僕に説明する。


「ルシアよ、ここ蓬莱は幽海に囲まれているだろ。」


「うん、アレは恐ろしい海だね。」


「そうだな、あれがあるのは、ここが特殊な土地だからだのだ。」

「幽海とは幽界、そうだな・・・常世と繋がってしまっている海だ。」

「ここは、それだけ神の世界に近い。」

「その為か、封印の知識に長ける地域であり、その封印を守る地域だ。」


僕は、呀慶の話を頷きながら聴き入る。

しかし、そこには主題の回答はない。


「それと城門の繋がりは?」


「おお、話がそれてしまったな。」

「それだけ不安定な土地なのだ。」

「そのせいか、地震と呼ばれる災害が起こる。」

「・・・大地が揺れるのだ。」


「それで建物が劣化するから、あえて作らないんだね。」


僕の言葉に白狼は頷き笑顔を返す。

そこにアリシアの声が白狼へと向けられた。


「それは、土の精霊が希薄な為か?」


「うむ・・・そうではないな。」

「精霊は、他の地域よりも多い。」

「ただ、それ以上に近すぎるのだよ・・・常世に。」


アリシアもまた、納得した様に頷く。

そして、顎に手を当て思考の世界へと潜る。

僕は、彼女を誘導する様に手を引き人波を進む。

街へ入ると、そこに広がる目抜き通りには、旅人の為の施設。

そして、彼女を思考の海から引き上げるだけの食文化が待ち受けていた。

目を引く光景は、正面に鎮座する巨大で美しい白い城。

形状は董巌の居城に通じる部分があるが、こちらは何処か清楚に感じられる。

呀慶は、僕の視線に笑みを漏らし言葉を乗せた。


「あれが、この蓬莱の王城だ。」

「帝は、美しいテイメソスの獣人、狐獣人に似た女性だ。」

「玉藻様という。」


説明する彼の表情は、何処か優しさを感じた。

その話ぶりに3人の女性は、いびつな笑顔を向ける。


「ほぉ、化け狼にそんな一面があるのだな。」


「ふん、私は元々この蓬莱出身なのだ。」

「国の帝に敬意をもって何が悪い。」

「そもそも、私は此方の官職だ。」


「フーン♪ ウチにもわかっちゃったよ。」


ニヤニヤとした視線は白狼を包む。

それは、彼にとって居ずらい空気へと変化させていた。

そこに良いタイミングなどはないが、彼は一行を離れる。


「・・謁見の伺いを立ててくる。」

「お主らは、宿で待て。」


そそくさと、人混みへと消える呀慶。

僕はため息と共に、彼女達へ線を向けた。


「フフッ、朴念仁と思えば、可愛いところもあるではないか。」


「ガホー、おもしろい!」


二人の発言に笑顔を溢す兎月。

僕達は、彼の残した言葉に従い、適当な宿をとった。

宿からの眺めは、悠安の様にギラついてはいない。

しかし、活気がないわけではない。

川沿いの宿から見る風景は、風に遊ばれるしだれ柳の葉が心を惹きつける。

部屋では、ラスティとじゃれ合う2人の女性。

僕は、庭を借り鍛錬に励んだ。

樋鳴りは、紅く沈む太陽に消える。

街人たちは、其々の時間を過ごし、気に留める者などいない。

そこには、何か壁の様な物を感じた。

白い影と共に円を描き、踊りに耽る。

その姿に視線を止める1人の女性。


「お兄さん・・綺麗な動き・・・」

「まるで、月山の方々みたいでありんす。」


僕は、その声に視線を向けるも、そこに在るのは通行人のみ。

気を取り直し、師匠の様に抜刀を行う。

そこに、掛けられる優しくも儚い声。


「フフッ、驍宗様とはまるで違いんす・・・」

「瀬織様に似ていんすわ。」

「フフッ・・貴方にお会いできることを楽しみにしておりんす・・・」


真後ろから囁く声に、僕は振り向く。

しかし、そこに在るのは、風に舞い小さくなる紙人形のみ。

僕は、もやもやする中、稽古を終えた。


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