2(217).蓬莱の玄関口
海鳥は沿岸にしか存在しない。
海岸では、先の見えない海に竿を振る釣り人達。
もちろん海に釣り船など1隻も浮いていない。
しかし、港は人々で賑わう。
僕達は甲板から桟橋へと向かった。
「よし、4名か・・この先はタダの島ではない気を付けて行けよ。」
「ありがとう・・・」
僕は少し違和感を感じたが、呀慶を含めれば4人。
しかし、今、彼は一緒ではない。
桟橋で彼を待ち時間を潰す。
打ち上げる波に手を出すラスティを、慌てて取り押さえるアリシア。
「ラスティ、ここは危ないぞ。」
「ほら、肩掛けに入っていろ。」
彼女は屈み、ラスティを肩掛けへと誘う。
どこか満足そうなラスティは、ひょこり肩掛けの淵から顔を出す。
そこに、業務を終えた呀慶が現れた。
「おぉ、待たせたな。」
「ここは、蓬莱の玄関口で堺という港町。」
「様々な国の技術が集まる場所だ。」
「私は、この後、この国の帝を訪ねる予定だ。」
「お主らも来い、欲しい情報は手に入るだろう。」
「・・しかし、お前たちは派手だな・・・」
「ほれ、これで買って来い。」
彼は、硬貨の入った袋を投げる。
それは僕の手へと渡った。
重さは、それなりにずっしりとある。
「呀慶、こんな・・・」
「気にするな、蚩尤からの餞別だ。」
「奴から頼まれていてな。」
「私は、あそこに見える宿で待つ。」
彼はそう言い残し、街へと消えた。
僕達は、彼に言われるがままに服屋を探す。
そして、美しい着物が飾られる店へ。
「おいでやす、何探しとんの?」
「あ、あぁ、着物が欲しくてな。」
「何か見せてもらってもいいか?」
「かしこまりました、数点お持ちしますわ。」
美しい絵柄の衣装に身を包む店の女将は、笑顔で部屋の奥柄と消える。
そして、戻って来た女将と従業員らしき女性達。
女将は、笑顔で声を掛ける。
「お客はん、ここ来んのは、初めてなん?」
「ああ・・・」
そそくさと色合わせする女性達。
その魔の手は、ラスティへ。
そして、僕へと伸びる。
「いや、僕は男だから、それはいいよ。」
「はい?」
僕は、アリシアに財布を渡し、店の外で待つ。
数刻が経ち、疲れ果てたアリシアは、その肌に映え活発に見える服装。
それは崑崙の服装に比べ落ち着いてはいる。
上着の構造は、そう変わらないが、下は袴と呼ばれる物。
腰には大きめのリボンの様な帯が可愛く結ばれる。
「どうだろ・・・少し恥ずかしいな。」
「いいじゃん。似合ってるよ。」
「うん。かわいいね。」
「そ、そうか・・」
「そうだ、ラスティも着替えたんだ。」
「どうだ、可愛いだろ!」
そこには、構造に派手さは無いが、綺麗な絵柄の布の服。
それは和服と呼ばれ、アリシアの上着にも構造は似ている。
しかし、彼女と違い、上下一体の服。
同じ様に可愛い帯でソレをとめる。
そして、上に被布半纏と呼ばれるチョッキの様な物。
「フフッ、可愛いね。」
「アリシアとは違うみたいだね?」
「ん? あぁ、違いはないぞ。」
「私のは袴をはいているだけだ。」
「まぁ、着物の丈は短いのだがな。」
僕は、まじまじと二人を見比べる。
そして、彼女に声を掛けた。
「明日からは、早く起きないとね。」
「・・・そうだな、面倒な服だよ。」
「・・そういえば、お前の服も買わねばな。」
「お前も苦労を味わうことになるぞ・・フフフッ。」
しかし、彼女の想いは空しく終わる。
僕は、構造こそ違いの無い和服だが、華やかさの欠片も無い帯は適当。
それは、西の服より通気性がいいが、その分不安も残った。
「・・・なんでそんなに簡素なのだ。」
「これでは、私達だけ面倒ではないか・・・」
「可愛いからいいんじゃないかな?」
「綺麗だよ、アリシア。」
「・・・」
僕は、少しだけ不貞腐れるアリシアをつれ、宿へと向かった。
そこで待つ呀慶は、笑顔で頷く。
「よいではないか。」
「女袴とは時代だな、ように合っておるぞ。」
「して、ルシアはいいのか?」
僕は、呀慶を睨みつけるも二人からは笑いが起こる。
その声に呀慶は不思議そうだ。
「アレは僕の趣味じゃないよ・・・」
「呀慶、適当な盾は無いかな?」
僕は、最近遊ばせている右手に視線を落とす。
その姿に呀慶は腕を組む。
「そうだな・・・武具なら月山だ。」
「瀬織は覚えているな?」
「鬼の女性だよね。」
「あの人の本気は、相当だろうね・・・」
「僕じゃ、かなわないな。」
僕は視線を落とし、声のトーンを下げる。
それは、日々の鍛錬でも到達できないその先を見たからだ。
しかし、呀慶は笑顔で視線を向ける。
「瀬織は、驍宗の実の妹だ。」
「アイツらの歳を考えれば、気に病む事などあるまいよ。」
「アレだけできれば、大したものだ。」
「のぉ、アリシアよ。こいつは良い師に巡り合った。」
「・・・剣技は、私だけではないがな。」
彼女は少し残念そうに僕のレイピアを眺める。
そして、何かを思い出したかの様に僕に視線を向けた。
「ルシア、月山と言えば糞董巌も言っていたな。」
「これで、ミーシャ嬢のレイピアも直る。」
「・・そうだね。この折れた刃の破片も使えるかな。」
僕は、布に包まれた赤い宝石の様な刃を取り出す。
それを見る呀慶は唖然とした。
「お主、それは、折れたものを貰ったのか?」
「うん、僕のレイピアとぶつかり合って折れたんだよ。」
「・・・僕をミーシャが守ってくれたんだ。」
「そうか・・・」
「しかし、その紅い刃は幻魔石・・・普通は、魔鉱石の合金程度で折れる物ではない。」
「その上、その幻魔の刃は董巌の刀・・・時代が動くか・・」
僕には、彼の言葉尻が聞こえなかった。
その呟きは、彼自身自分に言い聞かせる様な最後の言葉だった。
彼は、それを確かめる為に僕達に同行したのだろうか。
様々な想いを堺の夜は闇に包んでいく。




