38(214).光の柱
店内は、紅い血の嵐が吹き荒れる。
そこには、1つの魔人の姿があるだけだ。
僕は、レイピアを鞘から抜き、魔力を込める。
赤紫の焔は、折れた先すらも模った。
「アリシア、支援を!」
「あぁ、任せておけ。」
「ルシア、無茶はするなよ。」
「うん、必ず戻るよ。」
彼女は、その魔力で僕の身体能力を強化する。
その力に打ち出される様に、僕は血の嵐に向け走り出す。
横目に呀慶を抜け、最前線へ。
「小娘か、私の愛を与えよう・・・」
剛腕は、空気を消し去り、そこに吸引力を発生させた。
僕は、すぐさま地面を蹴り回避に移る。
後方からは、それを読んだかの様に、魔力の岩漿が駆け抜けた。
それを振り払う様に魔人は腕を振る。
「かかったな!」
アリシアは、そこから魔力を高め、追撃する。
それは、一瞬だった。
腕に張り付いた高熱源体は、さらに過熱され、魔人に螺旋の如く纏わりつく。
そして、虚空から現れて冷気が触れる。
それは、周りの事など考えていないかに思える程の爆発を発生させた。
僕は盾に身を隠し時を待つ。
目を開けると、影が僕を覆う。
地面からは、大きな壁が生えていた。
「ルシア、大丈夫だな。」
「おい、化け犬、生きてるか?」
僕には優しいアリシアの声が店内に響くも、それを覆う様に高笑い笑いが響く。
天井は消え去り、湿った雪が降り注ぐ。
その空には、何故か太陽までも姿を現していた。
「ハハハッ、面白いではないか、炎と水。」
「まさに裸でまぐわる様に美しく・・・なんと甘美。」
「女・・・そうか・・・ソラス様がお喜びになられる。」
魔人は言葉を残すと、半分ほど失った骨の腕を引きちぎり地面へと突き刺す。
そして、不敵な笑みと共に衝撃波を残し飛び立つ。
「余興はここまでだ。」
「愛の無い世界であがいてみろ・・・」
「そして、また相まみえよう。」
空の彼方へと消える魔人。
そして残された骨は、肥大化し、己が形を見つけ出す。
そこには、魔人と同じ大きさのスケルトンの姿。
しかし、口からは青黒い煙を吐く。
僕は、その正面に立ち、盾を構えた。
後方から聞こえるアリシアの声に僕は頷く。
「魔力の形がおかしいぞ!」
「ルシア、ただのスケルトンと思うな。」
僕は、レイピアを構え、相手の動きを待つ。
巨大な骸骨は、おもむろに自らの腕を引きちぎる。
そして、その骨は青い炎を纏った。
既にこの場には、僕達3人と呀慶、そして蚩尤の5人のみ。
はるか遠くには、警備の兵の姿がある。
スケルトンは、咆哮を上げる様に口を開け天に吠えた。
呀慶は、唇を噛み牙を剥く。
「ルシア、時間を稼いでくれ、並みの魔力も効くまいよ・・・」
「コイツは私が必ず落す。」
僕は、その真剣な眼差しに頷き、正面のスケルトンを見据える。
白狼は、印を結び同じ呪言を繰り返し、魔力を高め始めた。
アリシアは呆然と立ち尽くす蚩尤に肩掛けを託す。
「蚩尤、ラスティを頼む。」
「・・あぁ、無理はするなよ。」
アリシアは、駆け出し、呀慶と対極に位置する僕の後ろへと陣を移す。
そして、魔力を高め、高圧の水に微粒の石を混ぜて髑髏の中心を打ち抜く。
僕は、それに合わせ、足元に滑り込む
そして、体重の乗ったスケルトンの足を切り飛ばした。
「アリシア、お願い!」
「ああ、やっている!」
彼女は、言葉と同時に屈強な蔦でスケルトンを拘束する。
そして、遠くから聞こる呪言は、より強く響く。
「オンバザラヤキシャウン!」
その瞬間、天から迸る1筋の柱は、スケルトン捉え包む。
そして、光の粒が降り注いだ瞬間だった。
大気は揺れ、天の雲は穴をあける。
けたたましい轟音と共に地上には大穴が開く。
そこに在った異常なほど膨大な魔力は、光の中に消えた。
その光景に、アリシアは、呆然と立ち尽くす。
「おい、化け犬、アレはなんだ・・・」
「フン、神の力だ・・・呪言とはそういうもの。」
そこには何も残ってはいない。
あの巨大な骸骨の残骸も、元あった建物の残骸さえも。
僕は、深く息を吐き、その場に腰を下ろす。
「終わったね。」
「お前達、良くやってくれた、感謝する。」
呀慶は、僕達に笑顔を向け、集まる兵たちに労いを掛ける。
そして街は、またいつもの様に動き出した。
三人の姿を呆然と見つめる花街の守護神。
その視線を向けられたラスティは、少し誇らしげに胸を張る。
「フフッ、ウチの家族だよ。」
「・・・すごいな。」
夔牛は震える足を抑える事で精一杯な自分を見つめ俯く。
そこに、ラスティは声を掛ける。
「ルシアは、いつも一生懸命だよ。」
「夔牛だって一生懸命じゃん。」
「ここにいるだけでもカッコイイよ。」
男は小さな淑女に、心からの感謝を向けた。
彼の背に降り積もる雪は、穴の開いた空から洩れる光に暖められる。
そこには、足早に近づく春の陽気が感じられた。




