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31(207).絶望の淵で

悠安の街では不穏な噂が流れた。

ある店で大量に人が死んだという。

しかし、その噂の出所は分からない。

それは、食中毒だったり、火事で逃げ遅れただったりと。

しかし、そんな事実はない。

噂が流れて10日ほど経ち、東では見ない出で立ちの女性が街を歩く。

彼女は、その噂に興味を持ち件の店を探した。


「アンタ、余りその噂に首は突っ込まん方、いいと思うアルヨ。」


「貴方、商人のわりに片言ね。」

「どこ出身かしら、変った商品はお持ち?」


「ワタシ、沙岸よりもっと南東の村、来たアルネ。」

「この甘味、村の特産アルヨ。」


「あまり、価値は無さそうね・・・」

「・・・他には?」


「ないアルヨ。」


「どっちよ・・」


彼女は、行商から適当に甘味を買う。

そして、別の行商へと足を延ばした。

噂など、人を渡り歩き、尾びれや背びれが付く。


「それな、なんていったかな。」

「帝の隠し子が料理屋を燃やしたって噂だろ?」

「あの女媧様に隠し子ってのが嘘癖えよな。 ハハハッ。」


「何よそれ・・・で、どの辺の店かわかるかしら?」


「アンタも物好きだね、確か・・・」


それでも、その中から使える情報だけをまとめ答えを導く。

彼女は、街を歩き、情報の集まる店を梯子する。


「お姉さん・・・僕、お姉さんに惚れちゃったよ。」

「こっちの果物の盛り合わせ頼んでいいかな?」


「いらないわ。それより情報よ。」

「惚れたなら、応えられるわよね・・・」


「・・お姉さん、何しにここへ?」


周りの女性の様に、彼らの術中にハマらない彼女。

それを見つめる、可愛げのあるハヌマーンの美青年。

量のわりに値段の張る酒に口をつけ微笑む彼女。


「フフッ、この値段くらいの情報は欲しいわね。」


美青年は、女の言葉に従い、知る限りを離す。

そして、彼は給仕の男性へ声を掛ける。


「オーナーを頼む。」

「お客様のご要望だよ。」


街は夜の闇に覆われるも、花街だけは明るい。

欲望蠢くこの土地は、空が白む頃その光を落とした。



光り輝く花街の一角。

そこは、10日程前までは、その明かりの一角を担ていた。

今はでは、ただ闇を湛える建物と化している。

闇を色濃く落すその建物の一つの窓に小さな明かり。

老人は、闇の中で肉人形たちを氷で包む。

現実を忘れようと、美しい女性の像を見つめ、彼は魔力を放つ。

その姿は、余りにも悲しく、見てはいられない。

そんな闇に、扉を叩く女性の声がかすかに響く。


「秋泉さん、いるわよね?」

「私なら、貴方の願いを叶えられるわ。」

「・・・聞こえているかしら?」


数回繰り返されるノックは徐々に強くなる。

そして、女性の声に優しさは消える。


「ちょっと、開けなさいよ・・」

「明かり付いてるのは判っているの!」

「・・・あんたは死人と朽ちていくのがお似合いね。」


彼女の言葉が終わる前に扉は静かに音を立てる。

そして、闇の奥からは枯れ木の様な姿の老人。


「キャ・・・いるならさっさと出てきなさいよ。」

「貴方、秋泉さんで違いなくて?」


「・・・そうじゃ。」

「西の女か・・・なつかしいのぉ。」


「・・・貴方、死者の復活に興味はなっくて?」


老人は、眉を顰め、窪む眼を鋭くし、その言葉を繰り返す。

その姿は、若干震えて見えるが、喜びとも怒りとも思えない。


「死者の復活じゃと・・・」


彼女は、目を細め、口元を緩める。

そして、若干背を反らせ老人に告げた。


「そうよ、私なら貴方の望みを叶えられるわ。」


老人は、周囲を確認すると、女性を建物へ誘う。

二人は、闇の中へと消えていく。

部屋には、氷に包まれた十数体の女性。

どれも、美しく寝ている様にも見える。

しかし、継ぎ目が薄っすら浮かぶ。


「へぇ、貴方器用に直したのね・・・すごいわ。」


「そんなことは、どうでも良い・・・」

「本当に蘇らせる事が出来るのじゃな?」


老人は、睨むみ、彼女に言葉をぶつける。

そこには、人への配慮などは全くない。

女性は、その圧に押されるも、辛うじてとどまる。


「・・・えぇ、私ならできるわ。」

「でも、高くつくわよ。」


「金などくれてやる・・・」

「ワシの園さえ戻るなら、金などどうでも良い。」


「・・・破産する者の考えね。」

「まぁ、良いわ。」

「商談成立ってところかしら。」

「私は、カーミラ・ヴァンジョンズ。」

「西の国ヴァンタヴェイロの1領主で商人よ。」


そして、二人の間では商談が始まる。

老人は、何処か浮世じみた話を流されるままに信じた。

その中に登場する、女神の存在もまた、彼の知る名の神ではない。

小一時間し、老人は女商人の話を了承。

商談は闇に浮かぶ朧火の中でまとまる。

そして夜が明ける頃、老人の涙は止まった。


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