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29(205).暴遊する高官

街には多くの高官が訪れていた。

丁度、帝への報告の時期なのだろう。

平民や商人達で賑やかな商店街も今は違う。

高官たちが、帰りの土産を買いあさり、また己の欲を満たす。

いつも以上に腰の低い店主の姿に、満足げな彼ら。

しかし、商人という生物は強かだ。

7日ほど前は、銅貨数枚だったモノが今では十数枚に。

真実を隠し煽てる姿は、あまり気持ちのいいモノではない。

しかし、それは、彼らの小さな抵抗。

中にはそれを理解し、多めに支払う者もいる。

その時は、店主の表情は苦笑いでしかない。

僕らは、そんなやり取りを眺めながら、肉まんに舌鼓。

そんな日常の中、アリシアは僕の腰の獲物に視線を落とす。


「ルシア、もう一本、用意しておいた方が良くはないか?」


「うーん・・・2本は重いかな。」

「大丈夫だよ、折れているとはいえ7割は残っているよ。」

「長さなんて、アリシアのと変わらないし。」


「そうだが・・・無理はするなよ。」

「何かあった時では遅いからな・・・」


「うん、大丈夫。」

「ありがと、アリシア。」


僕は、不安そうな表情のアリシアに笑顔で応える。

それを眺める小猫は、悪戯な笑顔を送った。

そんなゆっくりな日常は、どんな宝石よりも捨てがたい。

しかし、意外なほど脆いのも事実だ。


「めんどくせぇな、報告なんてよぉ」

「どうせ、去年と同じ事を蛇女に話すだけだろ?」


夔牛(きぎゅう)様、大衆の面前ですぞ・・・」


「あぁ、判ってる判ってる。」


片足を義足とし、鎧に身を固めたミノスの武官らしき男。

彼は目抜き通りを気だるそうに進む。

後方には、その従者ととれる者達が続く。


「夔牛様、謁見が終わったら、色街にでも行きましょう。」

「花仙郷って、粒ぞろいの店があるそうですよ。」


「そりゃいい、気晴らしに花摘みも悪くねえな。」


品性の無い笑い声が、街を過ぎていく。

僕には、もう関係がない世界だ。

その考えは、アリシアも同じこと。

既に肉まんを食べ終えた2人の淑女は、あんまんを頬張る。

二人の舌鼓は、フカフカな生地に阻まれ、籠った響きで終わった。



謁見の場にて、眉を顰める白狼と女帝。

目の前では、報告をする歴戦の武官。

その内容は、余りにも稚拙で下品。

皮さえ変えればヒューマン貴族としても違和感などない。

そして、彼の視線もまた下品極まりない。

あまりの姿に帝はため息と共いに声を掛ける。


「はぁ・・もうよい。」

「夔牛、変りなく州の運営は出来ているのだな?」


「はい、女媧様。」


「あい、分った。下がれ。」


女帝は手で煽り、武官を下がらせる。

男は、作り笑いを残し謁見の場から退席した。

残る、者達からは、怒涛のため息。

そして、女帝の愚痴が白狼へと飛ぶ。


「相変わらず嫌な視線じゃ。」

「彼奴の頭には、オスとメスしかないのか?」


「アレは、武才のみはございましたからな。」

「先の戦で功を上げてしまった事が災難です・・・」


そしてまた、ため息が場を包んだ。

それを払う様に女帝は顔を上げ声を張る。


「・・・次の者を呼べ。」




花街の夜は、様々な想いが交錯する。

女帝の体を見定めたミノスの武官は、満足そうに部下に告げる。


「報告などはどうでも良いが、さすがは女帝・・いいものだな。」


「夔牛様、絵に描いた餅ですよ。」

「むしろ、その方がいい・・・あの態度は嫌われております。」


「そこに燃えるのよ!」

「嫌がる相手を服従させる・・・最高ではないか!」


「・・・」


下種な会話で豪快に笑う武官は、部下を引き連れ件の店へ足を運んだ。

店は貸切られ、武官を迎える準備が整っていた。


「いらっしゃいませ、夔牛様。」


好々爺は、山賊の様な表情の武官たちを迎え入れる。

その場で首を垂れる花たちは、花仙の名に恥じない者ばかり。

彼女達は、気持の悪い視線さえも仕事と割り切る。

一刻、一刻と過ぎ、出来上がる武官たちは山賊とは違う。

それは、彼の有する力の違いだ。

好々爺は悩むも、それは付け込まれるだけの隙だった。

大量の金貨を支払われ、拒否できぬまま老人と受付は部屋の外へ。

金額だけを見れば、了承さえすれば女性としても、比ではない程に旨味がある。

しかし相手は、女帝さえも毛嫌いする相手。

その時の好々爺は、ただ不安に落ち込む老人にしか見えなかった。

老人と受付は、庭園の椅子で時間を過ごす。

空は白け、太陽が顔を出す頃、男達の笑いが扉を開けた。


「ジジイ、なかなか面白かったぞ。」

「花とは儚いものよの・・・ガハハハッ。」


武官の去った後には、散らされた園が残った。

そこに残るは、絶望し平伏した好々爺の姿と、それを支える受付の男だけ。

空しく聞こえる、鳥たちの声が彼らの心を一層抉った。

その話は、重要な部分だけ暈され街を駆け抜ける。

それは後に、大量中毒死として国には報告された。


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