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25(201).姉の悩み

ギルド職員は、人を見る目を養う必要がある。

それは、人と人を繋げる仕事だからだ。

ここ悠安のギルドに配属され3年目の受付嬢は、今日もため息をつく。


「また、英雄気取りのボンボンか・・」

「あれじゃ、無理よね。」


彼女の予想は、簡単に的中する。

とある依頼は果たされたが、成果が上がる事は無かった。

その依頼とは、人探しに近いが、正確には対象の確保である。

悠安を取り巻く町や村から失踪届が寄せられているのだ。

そして、その対象者たちは、ある店で発見されている。

依頼人たちは、失踪した女性達の親兄弟、中には夫や彼氏などもいた。


「おい、受付の女。」

「なぜ失敗なんだ?」


彼女は、ため息と共に依頼書の注意書きに指を差す。

そして、数回それを指で叩く。


「注意書きには、対象の確保とかいてありますよ・・・」

「対象はどちらですか?」


「いや、彼女達の意志だ。残ると言っていたぞ。」


男は鼻を高く、依頼完遂を一人味わう。

しかし、受付嬢は、眉を顰め目を細める。


「依頼は失敗ですね。」

「違約金、銀貨50枚。ご愁傷さまです。」


「はぁーー! ふざけるなよ、このアマが!!」


そこに見かねたミノスの支部長が割って入る。

その姿は老人とは思えない程に大きい。


「どうされましたか、冒険者さん?」

「依頼書があなた方と私共、そして依頼者を繋げる全てです。」

「記載内容は、違わぬようにお願いしますよ・・・ね。」


「・・・わ、わかりました。」


男は、しぶしぶ財布袋を出し、銀貨を置いていく。

それは嫌味の様に彼の口から数を数えながらだった。


「・47・48・49・・50。」

「しっかり数えろよ・・・くそが。」


「・・・はい。50枚丁度承りました。」

「次回は、お気を付けくださいね。」


捨て台詞を吐く冒険者の背中は小さくなっていく。

そこに、ため息と共に作り笑顔が投げられていた。

受付嬢は、彼がギルドを出た事を確認すると、さらに大きくため息を吐く。


「・・・どうしてなんだろ。」

「鈴々どうしちゃんたの・・・」


彼女は受付机に視線を落とし俯く。

彼女の暗い空気は、少し寂れたギルドの空気を更に重くした。

日は高くなり、窓から差し込むひざしも対面の建物に邪魔され陰りを見せる。

ギルド職員たちが食事を終えた頃、小猫を連れた姉妹の冒険者が掲示板に立っていた。


「何だこれは・・・」

「とはいえ、ギルドが絡んでいるなら大丈夫だろう。」


「そうだ・・ね。」


彼女は、どこかで見た光景だと確信する。

悪戯姉妹だと思ったが、それは間違いだったあの件だ。

彼女は眉を顰め目を細る。

そして、妹らしき存在を目で追った。



僕は、依頼書を取り受付へ向かう。

この前は、悪戯に間違われ散々な想いをした。

それでも僕は、少し身を強張らせながら声を掛ける。


「お姉さん、これをお願いできるかな?」


「いらっしゃいませ・・・」

「・・・」

「あなた達、大丈夫?」


僕は、彼女の言葉の意味を理解している。

そこには、彼女の優しさを感じたからな。


「違約金だよね・・・一応あるけど、払う気はないよ。」


「ちょっと・・逃げる気?」


「ごめん・・言葉が足りなかったね。」

「皆を連れて来てみせるよ。」


受付嬢の瞳は大きく見開かれている。

僕は、停止している彼女に声を掛けた。


「依頼の詳細は、お姉さんが教えてくれるのかな?」


「あっ、・・・そうよ、私が話します。」

「ちょっと待っててね。」


彼女は、外の掃き掃除を終えたミノスの老職員に手を振り声を投げる。

その姿は、気を悪くする者もいるだろうが、良い仕事関係を気づいていると思えた。


「支部長ー! 受付任せてもいいですかー?」


「はいはい、いいですよ。」

「しっかり、お願いしなさいね。」

「彼らなら大丈夫だから。」


僕は、支部長と呼ばれたミノスの老人に頭を下げる。

そして、アリシアを呼び、応接室へと向かった。

そこでは、明るく振る舞う受付嬢の姿は何処にもない。

あったのは、気丈に振る舞う家族想いの姉の姿だ。


「この依頼は、私だけじゃなくいの・・・」

「沢山の人から出たモノをまとめた内容なの。」

「最初の失踪があったのは、半年くらい前だったかな。」

「その時は、すぐ解決すると思ってたんだけどね・・・」

「気が付いた時には、鈴々まで巻き込まれてたの・・・」


話す彼女は俯き、目を潤ませる。

握られた拳は固く、白い肌を紅くさせていた。

僕達は、現状も含め聞き取りをする。


「おい、受付。なぜここまで金額が上がった?」

「仙人でも裏で糸を引いているのか?」


「いえ、場所までは特定しているんです。」

「ただ、本人たちに戻る気が無いって・・・」

「・・・私には何が起きてるのか判りません。」

「・・あの子が、ちゃんと生活できているのか・・・」


アリシアは、感情的になり始めた受付嬢を優しく宥める。

そして、腕を組み悩む。

僕は受付嬢に、この依頼の終着点について問かけた。


「妹さん達に合って話ができればいいんですよね?」

「彼女達が無事で、意志もはっきりしているのであれば・・」


「はい・・・」

「本人の口から内情が分かれば・・・」

「よろしくお願いします。」



彼女は、僕達に妹がいるであろう場所を教え、頭を深く下げる。

僕は、渡された紙をしまい、2人と共に応接室を後にした。

部屋を出て廊下を歩いていると、アリシアの肩駆けから頭を出した淑女が問いかける。


「なんで帰ってこないのかな?」

「何か帰れない事情があるのかなぁ・・?」


「そうかもしれないな。」


アリシアは、笑顔で小さな頭を撫でる。

そして、僕に声を掛けた。


「ルシア、密閉性の高い布を買って行こう。」

「無駄になるかもしれないが、何かあったときでは遅いからな。」


「うん。宿に帰る前に寄ろう。」


僕達は、笑顔で受付に座るミノスの支店長に挨拶しギルドを後にする。

太陽は、まだ西の空をゆっくりと下っていた。


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