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聖王伝  作者: 竜人
第二章 魔物の侵攻
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第53話

魔物のゾンビの中から生まれた骸骨剣士は、その力で騎兵部隊をも退ける

そしてその中心で、黒い骸骨剣士が猛威を振るっていた

ギルバートは将軍と挟み撃ちを狙うが、その力の前に苦戦していた

その黒い骸骨剣士は、咆哮を上げながら剣を振り翳し、ギルバートの頭上から振り下ろした

その一撃はなんとか避けられたが、地面には大きな跡が残る

恐ろしい威力だ

反対から将軍が、大きく振りかぶった一撃を加えるが、それをいとも容易く受け止める

膂力だけでも十分に強力である事が分かる


戦況は思わしく無かった。

骸骨剣士の一撃で、騎兵の一人は容赦なく叩き切られ、馬上から崩れ落ちる。


ザシュッ

「ぐわああ」


攻撃の動作は早くはないが、その一撃は強力で、騎兵は肩から腰まで一刀で断ち切られていた。


「何て威力だ

 これでは迂闊に近づけん」

「しかし、それでは将軍の救援に行けません」

「殿下はもっと強力な敵と対峙しています」


騎兵達は骸骨剣士の牽制に押され、将軍とギルバートが対峙する魔物の元まで行けなかった。


それは城門で見ている兵士達も同じで、相手が骸骨である以上、弓矢も効かなかった。

仮に狙って撃ったとして、骨の身体に当てるのも至難だし、下手に撃てば味方に当たってしまう。

かと言って、歩兵では小剣しか持っていないので、下手に向かっても返り討ちに合うだけであろう。


「くうっ

 ギルバート!

 ギルバート!!」

「ダメです、領主様

 今出ても、味方の邪魔になるだけです」

「しかし、しかし…

 これではあいつがやられるのを、黙って見ている事しか出来ん」

「それでもです」


「くそお

 何とかならんのか?」


魔術師達も、後方の天幕から出て、状況を見守っていた。

しかし、現状では大した魔法も使えず、遠くで見守る事しか出来なかった。


「アーネスト

 何か策は無いのか」

「無理ですよ

 魔物の正体も分かりません

 弱点が有るのかも不明です」


「それなら、周りの骸骨剣士はどうじゃ?」

「骸骨剣士?

 待てよ…」


アーネストは本を捲り、該当する魔物を探し始める。


その間にも、黒い骸骨の猛攻は続き、ギルバートは必死になって躱す。

大きな横振りを飛び越して、袈裟懸けを受け流す。


ゴオオオオオ

ブオン!

ギャリイイン!


大きな音を立てて、受け流す刀身が軋む。

折角魔石を使って耐久性を上げていたのに、今の一撃で亀裂が入った。


「くうっ

 何て重い一撃なんだ」


「殿下!

 ぐうっ」

ゴアアアアア

ガキン!


将軍が踏み込むが、その一撃は軽く受け止められ、弾かれてしまった。

その隙にギルバートは踏み込み、腕を狙って振り上げる。


「ぅりゃああ」

バキイン

「へ?」


遂に耐え切れなくなり、ギルバートの剣が砕けた。

一瞬呆けてしまい、それを見た将軍が叫ぶ。


「殿下!

 危ない!!」

ガアアアア

「う!

 うわあ」

ズドン!


慌てて飛び退くが、手の中にある剣には僅かな刀身しか残っていない。

それを放り投げ、骸骨が弾く間に、足元の剣を拾う。


「誰の剣だったか分からないけど、暫く借りるね」


そうは言っても、今までの様な耐久力を高めた剣では無い。

恐らくは一撃でも受けたら、砕け散ってしまうだろう。


何か手は無いのか?


ギルバートは必死になって避け、次の一手を探していた。


将軍も必死に応戦し、何とかギルバートの側に行こうと焦っていた。

しかし、骸骨は将軍を相手にしておらず、攻撃を受け返すだけであった。

どうやら本命はギルバートで、将軍は合流させない為に攻撃している様だ。

それでも、一撃の重さで飛ばされ、ギルバートの元へはなかなか辿り着けない。


「くそっ

 何とかならんのか」


再び振るわれた一撃を、軽々と弾かれる。

将軍は数歩下がり、歯噛みしながら魔物を睨み付ける。


「どうすれば

 どうすればいいんじゃ」

「有った!」


騒ぐ魔術師達の隣で、アーネストは声を上げた。


「なんじゃ?」

「何か有効な手立てが見付かったのか?」

「…」


それに対しては、アーネストは微妙な顔をした。


「どうしたんだ?」

「何か問題でも?」

「ええ

 とても大きな問題です」


アーネストは魔術師を集め、緊急対策を始めた。

問題は骸骨剣士の倒し方だ。


「あの白い方の骸骨剣士は、スケルトン・ウォーリアーです

 魔法に対する耐性は高くありませんが、問題は効果のある魔法が少ない事です」

「なんじゃと?」

「それは何だね?」

「炎の魔法です」


アーネストがそう言うと、数人の魔術師が胸を撫で下ろす。


「なんじゃ、脅かしおって」

「それならワシが行って…」

「違います

 火ではありません

 炎です」

「は?」

「炎の魔法なんです」


アーネストは火の魔法は解明出来た。

だからギルドで発表し、魔術師はそれを覚えた。

しかし、その上位に当たる炎の魔法はまだ解明が不十分で、アーネストも殆ど使えない状態だった。


「どうする」

「ボクの使えるのは2つだけです

 フレイムボルトとフレイムピラー

 炎の矢と炎の柱を出す魔法です」


「炎の矢は…

 当たるのか?」

「当たるのは当たりますが、効果は薄いかと」

「となれば、後は炎の柱か?」

「ええ」


アーネストは呪文を書き出し、魔術師達に手渡す。


「これが呪文ですが、発動するかは賭けですね

 魔力が足りるのかが分かりませんから」

「ううむ

 アーネストなら兎も角、ワシらの魔力では厳しいかのう」

「しかし、やるしか無いんじゃ」

「そうだ

 ワシ等の意地を見せてやる」


魔術師達は杖を手に持ち、各々が思う場所に移動した。

魔物に目に物見せてやろうと、各自で呪文を唱え始める。


そしてアーネストは、黒い骸骨に向けて呪文を唱え始めた。

魔物の正体は判明していないが、予想が出来た魔物が居た。

該当する魔物は、スケルトン・ウォリアーを率いる魔物であるスケルトン・ジェネラル、骸骨の統率個体になる。


統率個体になると、部下である魔物を率いるので、1つランクが上がってEランクの魔物になる。

その魔法抵抗力は上がり、通常個体よりも強くなる。

そして何よりも厄介なのは、弱点属性も変わって、雷属性の魔法しか効かなくなる。

これは高位の魔法になるので、アーネストでも使えるか分からない。

しかし、迷っている暇は無い。

こうしている間にも、ギルバートは追い込まれてピンチに陥っていた。


「殿下!」

「くそっ!」

ゴオオオオ

ズドン!ズドン!


次々と振り下ろされる剣を躱し、ギルバートは必死になって逃げる。

先の一撃を考えると、受け流しても剣はダメになるだろう。

必死になって躱して行く内に、足場は打ち砕かれて、更に状況は悪化していく。


「くうっ」


足元を取られて、バランスを崩してしまう。

そして躱した先に、次の一撃が振り下ろされる。


グガアアアア

「させるかー!」

「うわっ」

ガキーン!


将軍が間に入り、必死になって受け止める。

しかし支え切れずに二人共飛ばされる。


「痛てて…

 将軍!」

「ぐぬう…

 無事…です…か」

「将軍!」


将軍はギルバートを庇い、左肩に大きな傷を負っていた。

そして魔物は、更なる追撃を加えようと、大きく振りかぶった。

ギルバートは将軍を守る為に、咄嗟に長剣を掲げた。

将軍の愛用の剣、ヴォルフ・スレイヤーを掲げる。

ギルバートはここ数日で急激に成長したのか、剣を軽く感じて、技量も素早さも上がっていた。

しかし、いくら調子が良いと言っても、10歳にならない子供が長剣を掲げるのは無理があった。

普通なら、持ち上げれても支えるのが精一杯だろう。

誰もがその姿を見て、絶望に目を覆いたくなった。


グガア…

ドックン!


ギルバートは自身の鼓動を聞き、世界が静寂に包まれた様な気がした。

ゆっくりと、しかし凄い迫力を持って、骸骨の剣が振り下ろされる。

物凄い速さの一撃が振り下ろされた筈なのに、ギルバートはそれを遅く感じていた。

一瞬の時間が引き延ばされた様に感じ、自分の動作も遅くなっていた。

加速する思考の中で、人々を守りたい、将軍を守りたいという気持ちだけに満たされる。


逃げるものか!

必ず守り抜く!


ガアアア

「う、うおお

 うおおおおおお!」

ガッキーン!!


その刹那、世界が止まった様な気がした。

ギルバートは長剣で骸骨剣士の一撃を弾き返し、その剣に亀裂を走らせた。

そして、不意にファンファーレが鳴り響き、不思議な声が聞こえた。

それは誰かが囁いたりした訳ではなく、頭に直接届いた様だった。


パッパラッパラー!


ワールドレコードを更新しました

ギルバートは称号:ブレイブ・マン(勇者)を獲得しました


声は頭の中に直接響き、止まった時の中で続けられる。


新たな称号の獲得者が現れたので、ジョブ及びスキルの開放が認められました

新たなジョブの獲得者には、指定のスキルが進呈されました


止まった時と同じ様に、唐突に世界は動き出した。

不思議な声は、伝えたい事を伝えると、一方的に終了された様子だった。

そして遠くの方で、その様子を眺めていた男は、満足そうに微笑んだ。


「ふふふふ

 遂にこの時が来た

 やはり彼が最初に目覚めたね」


「ベヘモットの奴が悔しがる様が目に浮かぶ

 ふっ、ふははは、はははは」


男は満足気に笑うと、不意に姿を消した。

後には静寂だけが残っていた。


その声が聞こえていたのは、ギルバートだけではなかった。

少なくとも、この戦場に居たすべての者が聞いており、混乱を招いていた。

そしてそのせいで、騎兵隊の数名が攻撃を受け損ね、命を落としてしまった。


「何だ?

 今のは?」

「呆けている場合か

 集中しろ」

「今は目の前の敵に集中しろ」


再び騎兵達は骸骨剣士に向き直り、剣や鎌を構え直した。

しかし、彼等は気付いていなかった。

自分達に新たな力が備わったのを。


「ワールドレコード?

 まさか!

 これが条件だったのか?」


アーネストは詠唱中の呪文が失敗するのも厭わず、先の声に答えを求めた。

しかし返答はなく、自身の仮定が真実かは確かめ様が無かった。


「くそっ

 気になるが、今は目の前の敵だ」


アーネストは再び呪文を詠唱し始めるが、今までとは違った感覚を得ていた。


何だ?これは?

力が…魔力の流れが感じられる


この現象は、他の魔術師にも現れていて、魔力の流れを感じて力を高める事が出来た。


「フレイムボルト」

「フレイムピラー」


魔術師達は呪文の詠唱に成功し、自身のイメージ通りの効果を上げていた。


「これが…炎の矢?」

「素晴らしい

 炎の柱で、魔物が焼き尽くされている」


魔術師達の援護で、騎兵達も次々と骸骨を打ち砕く。


そして、アーネストも雷の呪文を完成させた。

不思議な事に、詠唱を始めると、うろ覚えだった筈の呪文が頭に浮かび、一言一句のミスも犯さずに完成させた。


「喰らえ!

 ライトニング・ウィップ」


アーネストの手から放たれた蒼い雷は、黒い骸骨に絡みついて放電をする。


ゴガアアアア


骸骨は咆哮を上げ、剣を振り回した。


ゴオオオオ

「させるかああ!」

ガキ、バキーン


ギルバートの一撃で、骸骨の剣の片方が砕けた。


グガアアアア

「もういっちょう!」

ガキーン!ピシッ!


骸骨のもう一つの剣にも亀裂が入る。


身長が130cmぐらいのギルバートが、1m近い長剣を振り回す姿は異様で、徐々に骸骨を押していっていた。


「ライニング・ウィップ」


アーネストが再び魔法を放ち、骸骨は痺れたのか動きが止まる。


グ、ガアア…

「そこだああ!」

ズガッ!


「やれる、今だ!」


アーネストが叫ぶ。


「はあああ…」


ギルバートは長剣を引き摺りながら魔物の前へと踏み込む。


「おお!」

「そこです」


アルベルトや兵士達も固唾を飲んで見守る。


「…ああああ」

ダン!


ギルバートは跳躍し、大きく振りかぶった剣を袈裟懸けに振り下ろす。


「スラント!」

ズガガガ!

ザクッ!


振り下ろす剣は右肩から切り裂き、そこから切り返して左脚を切り裂きながら上昇する。

そして左腕を切り飛ばした後に、更に横薙ぎで頭蓋を打ち砕く。


ズガガ!

「だりゃあああ!」

ゴシャッ!


ウゴオオオオ


頭蓋を打ち砕いた際に、蒼黒い亡霊の影が咆哮を上げた。

そしてそのまま叫びながら、やがて姿は薄れて消えていった。


「やった」


アーネストは拳を握りしめて喜んだ。

そして、魔力が尽きたのを感じながら、意識が遠のいていった。


「あ…」

「アーネスト」


近くに居た兵士が駆け寄り、その小さな身体を支える。

同時にギルバートも力を使い果たしたのか、ふらふらと倒れた。


「ギルバート!」

「領主様

 まだ危ないです」

「オレ達が行きますから、お待ちください」


他の骸骨剣士も、黒い骸骨剣士を失ってからは力を失った様子で、動きが鈍ったところを騎兵達が切り倒した。


「これで、ぜえぜえ」

「終わりだ、ふう」

「もう…無理」


騎兵達も精も根も使い果たしたのか、その場で落馬して倒れた。

それを見た兵士達が駆け出し、次々と運び出した。


いつの間にか領民が広場に集まり、歓声を上げて出迎えていた。

その歓声に包まれて、ギルバート達は丁重に、兵士達によって運ばれて行った。


こうして、使徒により画策された魔物の侵攻は、辛くも人間側の勝利で終わった。

聖歴33年の年の瀬を前にした、12月の8日の事であった。

一応、まだ2章は続きます

戦後の片付けと、次の章の始まりが待っています

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