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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第106話

フランドール達がその場に着いた時には、その場は開けた場所になったいた

先の痕跡が在った場所と同様に、オーガが暴れて木が倒されていたのだ

広大で豊かなノルドの森でも、オーガにとっては小さな木々の庭程度なのだろう

その巨体と馬鹿力で、木々を薙ぎ倒して暴れ回っていた

オークはその場で逃げ回り、殴り殺されて死体となっていた

10数匹のオークが轢死体となり、暴れ回るオーガに踏み潰されていた

それは食べる為に狩るというよりは、むしゃくしゃした子供が暴れ回っている様だった

大きなオーガが腰ぐらいの小さなオークを追い、掴んで引き千切ったり、殴り殺していた

残るオークは6匹ほどで、オーガに囲まれていた

怯えて震えるオークを見て、弑逆心が高まっているのか、オーガは残虐な笑みを浮かべていた


グガアアア

プギイイ

グシャリ!


また1匹のオークが殴られて、木に叩き付けられて倒れる。

その頭は潰れて形が変わり、胸や腹からは骨が突き出していた。


「う…」

「おえっ…」


気分が悪くなった魔術師が数人、その場で吐き出す。

無理もない。

人間に似た魔物が殴り殺されて、無残な死体となって行くのだから。


「あ!

 フランドール様」

「よくぞ無事で」

「ああ

 上手く見付からずに来れたからな」


隠れて見張っていた兵士が、フランドール達の側に集まる。


「君達も無事で良かった

 見つからなかったんだな」

「はい

 奴等はオークを狩る事に夢中で

 オークも逃げるのに必死で気付いていません」

「そうか」


気分が悪くなった魔術師を介抱しながら、フランドール達は相談を始めた。

残るオークは4匹になり、こうしている間にも、殺されて居なくなるだろう。

問題はその後だ。

オーガに見付かれば、オークを狩った興奮のままに、こちらも襲って来るだろう。


「どうします?」

「そうだな

 早急に陣を張って迎え撃つ必要がある」

「え?

 アレを…ですか?」

「ああ

 間もなくオークは全滅するだろう

 そうすれば、こちらに気付く筈だ」

「う…」


「そうしたら、戦いは避けられないだろう」

「そうですね」

「まだ興奮していますから」


実際にあれだけ興奮しているのだ、血に酔って更なる獲物を求めるだろう。

そうなれば、フランドール達に気が付くのも時間の問題だ。


「しかし、相手は8匹も居ますよ

 先の様には…」

「そうですよ

 拘束するにも、2匹は出来ますが3匹は厳しいです

 それ以上は…」

「泥濘や足元を引っ掛けても、残りが来てしまいます」


「うーん

 そうだなあ」


魔術師達の言い分も、最もだった。

相手にするには、些か数が多い。


「手前の2匹は拘束出来るな?」

「はい」

「そうすれば、その間に兵士で倒せる」

「そうですね

 しかし残りは?」


まだ6匹は自由だ。


「奥の3匹は置いておいて、先に中央の3匹に狙いを絞ろう」

「右手前を拘束

 中央の3匹は魔術師で攻撃ですか」

「ああ

 そいつ等の足元を押さえて転倒させながら、マジックアローで止めを刺す

 出来るな?」

「は、はあ

 恐らくは」


「恐らくでは困る

 必ず仕留めてくれ

 接近されては危険だ」

「はい」


フランドールの厳しい顔を見て、魔術師達は覚悟を決めた。

やらないと殺される。

それならば精一杯やってみて、必ず成功させるしかない。


「それで?

 残りの3匹は?」

「うん

 素材が勿体ないが、ミリアルドに頑張ってもらう」

「え?

 オレですか?」

「そうだ」


ここでミリアルドが指名されて、困惑した顔をする。


「奥のオーガが来ない様に、火球を投げ付けるんだ」

「オレの…魔法…」

「ちょっとキツイだろうが、連発は出来るか?」

「え?

 は、はあ…

 そんなに早くは撃てませんが、なんとか…」


そうこう言っている間にも、最後のオークが捕まり、身体を左右に引っ張られていた。

オークの身体が不自然に引っ張られて、ミシミシと音を立て始める。


プ、プギャア…

グガガガ

ゴハハハ

ミチミチ…ブチッ!


オークの身体が引き千切れて、オーガが不気味な笑い声を上げる。

引き千切ったオークの身体を、旨そうにオーガが食らいつく。

そのあまりな光景に、みなが視線を逸らした。


「時間が無い

 すぐに行動に移すぞ」

「はい」

「兵士は魔術師の移動に合わせて動いてくれ

 私はミリアルドを守る為に一緒に行く」

「え?

 フランドール様…」

「大丈夫だ、任せておけ

 これでもオーガぐらいは倒せるんだ」

「は、はい」


フランドールはそう言ったが、今までのオーガはそこまで手強くは無かった。

油断しているところを突いたり、乱戦で狙われていない時が多かった。

しかし今回は、魔物は戦闘の興奮で眼も血走っている。

この状態のオーガが、どれほど危険かは未知数であった。


「それでは行くぞ

 みんな…死ぬなよ」

「はい」

「無事に帰って、母ちゃんに自慢するんだ」

「そうだ

 オレもネアちゃんに自慢するぞ」


魔術師達はそう言いながら、遅い脚で魔物に魔法が届く範囲まで走って向かった。

あまり近寄ったら、気配で気付かれてしまう。

ギリギリまで近寄って、一気に攻めようと前へ出た。

ミリアルドも見晴らしが利く場所へ移動して、魔物にバレるリスクを冒してでも、しっかりと狙える様に場所を見極める。


「ここなら大丈夫でさあ」

「良いのか?

 これでは魔物に狙われるぞ」

「でも…

 フランドール様が守ってくださるんでしょ?」

「ああ」

「それなら…

 怖えけど頑張ります」


そう言って、ミリアルドは呪文を唱えて、火球を2つ用意する。


「よし

 準備は良いな?」

「はい」

「やるぞ!

 掛かれー!」


フランドールの掛け声に、魔術師が拘束の魔法を発動する。

それに合わせて、先頭の兵士が鬨の声を上げる。


「ソーン・バインド」

「今だ、行けー!」

「うおおおお」

グガア?


兵士が拘束された2匹の魔物に向かい、それに気が付いた魔物が一斉にそちらへ向かう。


グガアアア

ゴガアアア


「今だ、マッド・グラップ」

「スネア―」

ゴ…グガ

ギ…

ズズーン!


兵士達に向かおうとした中央の3匹が、足元を取られて転倒する。

派手に転んで、大きな地響きが起きる。

そこへ向けて、マジックアローが次々と撃ち込まれる。

数は多く無いが、魔物の頭を狙って撃つので、あっという間に魔物の頭が針鼠の様になる。


「撃てー!

 マジックアロー」

「マジックアロー」

ズパパパ!

シュババッ!

ドスドスドス!

グガア…

ゴガ…


魔物は一気に頭を撃たれて、その痛みと衝撃でショック死していた。

フランドールはああ言っていたが、これは少々、過剰な攻撃であった。

その間にも手前の魔物はなます切りにされており、奥の魔物がそちらに向かって来る。


「喰らえ、ファイヤーボール」

ゴーッ!

ズガガーン!

ゴガ…

グガアアア


3匹のオーガに向けて、2個の火球が飛んで来る。

魔物は兵士達の方を向いていたので、横からの攻撃は気付いていなかった。

不意討ちになり、火球の爆発で3匹は倒れそうになる。


「もういっちょ、ファイヤーボール」

ズガガーン!

ゴガアアア


跪くオーガに、追撃の火球が叩き付けられる。


「ミリアルド

 もう良いぞ」

「え?」


さらに撃ち込もうと、ミリアルドは呪文を唱えていたが、兵士は2匹を倒していたし、魔術師達も魔物を倒していた。


「そちらでマジックアローを撃ってください」

「はい」

「マジックアロー」


残りの魔物も魔法で打ち取り、オーガの群れは全滅した。

怪我人は、オーガに向かった兵士が蹴られたぐらいで、幸いにも打撲で済んでいた。

彼はポーションを飲みながら、打ち身の薬草を貼られていた。


「痛てて…

 う…不味い」

「はははは

 だから足元は危ないって言っただろ」

「だけど脚をどうにかしないと、お前らが危ないだろ?」

「え?

 ライアン、お前…」


兵士は仲間を思った彼の行動に、思わず感動していた。


「だって、お前に何かあったら…

 お前の姉さんが悲しむだろう?」

「お、お前

 オレの姉さんを!」

「あいつ未亡人好きだからな…」

「はははは」


周囲の警戒はしていたが、魔物の反応は見られなかった。

だから兵士達は、激闘の後でリラックスしていた。


「みんな無事で良かった」

「ええ」

「しかしオーガ以外の死体は…」

「そうですね

 残念ですが、使えそうな物はありませんね」

「オークの骨が多少は取れますが、オーガに比べれば」

「農具や外壁の補修ぐらいにしか使えませんね」


残念ながら、オークは魔石もほとんど駄目になっていた。


「そうすると

 休憩してから、もう少し探しますか?」

「そうですね

 まだワイルド・ボアも見つけていませんし」

「お前、どんだけ食べたいんだ」

「仕方が無いだろ

 魔術師達も楽しみにしているんだから」


「はははは

 そうですね

 もう少し、ワイルド・ボアを探してみましょうか」

「やった!

 これで母ちゃんに叱られない」

「本当に…」


フランドールが兵士達と話していると、ミリアルドが近寄って来た。


「フランドール様

 オレ…

 あれで良かったんでしょうか?」

「ん?」


「あんまり役に立っていない様な…」

「とんでもない!

 君は十分に活躍しましたよ」

「そうだぜ

 オレ達に魔物が向かって来ない様に、頑張ってくれたからな」

「ああ

 お前さんの魔法に、オレ達は助けられたよ」


兵士達にはもう、昨日の蟠りは無かった。

寧ろミリアルドの魔法に助けられて、感謝さえしていた。

今ではもう、仲間意識さえあった。


「君の魔法は素晴らしい

 今日の様な戦闘では、心強い支援になったよ」

「そう…なのか?」

「ああ

 今日は帰ったら、是非奢らせてくれ」

「一緒に酒を酌み交わそうぜ」


兵士達に背を叩かれても、ミリアルドは嬉しさが込み上げてくる。

自分の魔法は、破壊だけしか出来ない。

だから魔物を殺す事が全てだと思っていた。

しかし、使い方次第では人を助ける力になるんだ。

ミリアルドは、改めて今日の話を思い返していた。


「ミスティの…

 姉さんの言ってたのは、この事だったんだな」

「そうだね

 魔法は、使い方次第で無限の可能性があるのだろう」

「はい」

「今日の様な乱戦を想定すれば、十分な牽制になるな

 些か余剰な攻撃だった気もするが」

「そうですね

 マジックアローは撃ち過ぎでしたね」


「しかしだ!」

「え?」


「今後強力な魔物が現れた時

 君の魔法はもっと役に立つかも知れない」


「素材何か気にしてられない、そんな危険な状況の時は…

 迷わず味方を守る為に撃ってくれ

 それが多くの人を救う力になる」

「はい」


フランドールは魔物が日に日に強くなる事を懸念していた。

このまま魔物が強くなれば、火球程度では歯が立たない日が来るだろう。

いや、そんなに先の事では無いのかも知れない。


「ミリアルド」

「はい?」

「良かったら、もっと力を身に着けないか?」

「え?」


「今は…

 火球でも十分な威力だろう」

「はい」

「だが、そのうち太刀打ち出来なくなるかも知れない」

「え?

 まさか?」

「いや、必ずそうなるだろう

 そんな気がするんだ」

「フランドール様…」


フランドールは、まだ見ぬその先があるかの様に、森の向こうを見る。


「この戦いが…

 魔物の侵攻が終わってからで良い

 魔術師達で集まって、強力な魔法の開発を急いで欲しい」


「どうにも…間に合わない気がするんだ」

「はい

 分かりました」


ミリアルドは臣下の礼を執り、跪いて頭を下げた。


「この不肖ミリアルド

 フランドール様の為に魔法開発に携らわせて頂きます」

「ミリアルド…」


「この身はダーナの物でありますが、貴方様の為の魔術師として

 フランドール様の為に誠心誠意働きます」


それはミリアルドの覚悟であり、フランドールに従うという誓いであった。

本来は、フランドールはまだ領主代行でしかない。

それでも、今までの領主であったアルベルトや、その息子であるギルバートに従うのではなく、あくまでフランドールを主として仕えるという誓いだ。

そこまでフランドールを、主として認めたという事だった。


「わたくしフランドール・ザウツブルグは、ミリアルドを臣下と認め、その身を護り、その忠誠に応えると女神様に誓います」


フランドールは誓いの言葉を紡ぎ、剣を抜いて、その刀身をミリアルドの右肩に置いた。

これにて臣従の宣誓は果たされて、ミリアルドはフランドールの臣下となった。

本来は領主の御前か国王の御前で誓う物なのだが、ここは辺境の森の中。

誓いは女神様の前で果たしたとして、略式で済まされた。


「必ず…

 必ず成功させてみます」

「ああ

 頼んだよ」


フランドールは手を差し出してミリアルドを立たせると、他の魔術師達が彼を祝福した。


「やったな」

「素晴らしいぞ」

「お前が最初に仕官するとは、先を越されたな」


辺境とはいえ、仕官するという事は栄誉ある事だ。

仲間が領主になる方に認められて、仕官したのだ。

魔術師達は心から祝福した。


ミリアルドは、本当は姉の様に慕っている、ミスティに報告しようと思った。

本当は大好きなのに、最近はすれ違っていて、口煩いと思っていた。

だが、彼女の言葉の一つ一つが、実は彼を本気で心配していて、心から掛けてくれていたと気が付いたから。

だからこそ、これまでの事を謝罪して、仕官した事を告げよう。


それを聞いた時、ミスティは喜ぶだろうか?

それとも呆れて白い目で見るだろうか?

いや、構わない

大好きな姉に、今日の出来事を話すんだ

そう、帰ったら真っ先に…


ミリアルドはそう思い、目頭が熱くなっていた。

それを見て揶揄う者も居たが、今はそれも心地よかった。

仲間に認められ、爪弾き者では無く、仲の良い仲間としてだからだ。

ミリアルドは初めて、周りに認められたと思っていた。


こんな顛末があっても、フランドールはしっかり仕事を果たした。

休憩後にはワイルド・ボアの群れを見付けて、8匹とはいえ狩って来た。

それを手土産に、夕刻前には城門の前まで来ていた。

そこで何が起こるかも知らないで…。

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