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聖王伝  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第107話

フランドールが順調に狩をしている頃、ギルバートも魔物を狩っていた

最初はオークの集団に遭遇し、倒している間に追加のオークが現れた

総数で27匹のオークを狩り、一息を着く頃には、魔術師達は魔力切れ間近だった

ポーションを飲みながら、ワイルド・ボアの干し肉を食べていた

干し肉が旨いので、ポーションの薬草の苦みが余計に不味く感じる

マジックポーションも基本は薬草を煮詰めて濾して作る

魔力を回復する事を促す薬草を煮詰めて、そこへ魔力の元になる薬草を加える

これは特殊な環境で育った薬草で、後味にえぐみが残ってしまう

ただせさえ不味いポーションが、この薬草のせいで余計に不味くなるのだ

だから魔術師達は、極力魔力切れを起こさない様に気を付けている


「うう…

 不味い」

「この飲んだ後に残る苦みが…」

「だから干し肉があるだろ?

 先に食べるからだ」


機転が利く者は、干し肉を後で食べていた。

その方が口直しになって、ポーションの苦みを押さえれるからだ。


「それにしても多かったな

 あれでさらに増援が来てたら、魔力枯渇で倒れていたぞ」

「そうなったらもう、暫くは頭痛で魔法も使えないからな」

「いや

 昏倒してそれどころじゃないだろ」


無理して魔法を使っていたら、魔力切れの頭痛から意識を失ってしまう。

そうすれば酷い頭痛に苛まれて、魔力が回復しても呪文が唱えれなくなる。

それに、魔力枯渇になったら、ポーションを飲んでも回復が遅くなる。

意識を失って昏倒する危険もあるが、戦場での魔力切れは危険な事だった。


「オークの遺骸は回収させますか?」

「そうだね

 休む時間も必要だし、その間に回収してもらいましょう」

「はい

 それでは応援を呼んでまいります」

「ええ

 お願いします」


兵士が街に応援を呼びに行く間に、ギルバート達は休憩をしていた。

その間にも、比較的元気な魔術師はオークの死体を検分していた。

昨日の事もあったが、オークの生態も依然不明であった。

ここで暮らしていた様子もあったので、どんな生活をしていたのかも調べられていた。


「こいつ等は何を食ってるんだ?」

「オーガは他の魔物を食ってただろ?

 こいつ等もそうじゃね?」

「そうか?

 ここに木の実や猪の骨があるぞ」

「…」

「早く言えよ」


ワイルド・ボアの様に大きく無く、普通の大きさの猪の骨が散らばっている。

恐らくそのまま食べたのだろう。

火も使った形跡はあるが、骨には焦げた跡は無かった。


「そのまま…

 焼かずに食ったのかな?」

「こっちのは焦げている

 そこは好みなんじゃないか?

 生で食べる奴の方が多いみたいだけれど」

「そうだな

 塩や香辛料も無い

 オレ達とは食生活が違うんだろう」

「旨い不味いじゃない

 ただ腹を満たす為だけに、食っている感じか」

「だろうな」


魔物達は食事に関しては、旨い不味いでは無いらしい。

そこは人間とは違って、食べる事に楽しみがあるのかも知れない。

しかし、旨い食べ物を食べる習慣が無い事は、少し寂しい気がした。


「旨い食べ物を食うのが幸せだろうに

 魔物って可哀想だな…」

「そうじゃあないだろう

 オレは母ちゃんの方が…」

「おい!」


「それよりも

 魔物の味覚がオレ達と同じとは限らないだろう

 ひょっとして…」

「そうだよなあ

 オレ達人間の方が、旨そうに見えているかも」


魔術師だけでなく、兵士までそれを想像して、思わず身震いをする。


「どうだろう?

 こんなおっさんじゃなくて、可愛い娘の方が…」

「違うだろ!」


その魔術師は、肉の柔らかさ等も考えて言っていたが、勘違いされて叱られた。


「決してそんな意味じゃ無いのに…ぶつぶつ」


「何にしても、興味深いな

 オークは雑食なんだな」

「オーガは肉食か」

「コボルトやゴブリンは雑食だな

 ワイルド・ボアを家畜として狩っているし」


「あれは肉だけじゃなさそうだな

 雌の乳も採れるし、乗り物にもしているぞ」

「そういえば、乗っているのを見たぞ」


魔物の生態の話をしている間に、街に向かった兵士が帰って来た。

応援の兵士も多数着いて来て、荷車も用意されていた。


「只今戻りました」

「ご苦労

 荷台も用意したのか」

「はい

 数が多いですから」


オーガの様に大きな魔物なら、荷車で運べないから担いで行く事になる。

しかしオークは人間と大差ない。

荷車を使えば、一度に多くの遺骸を運べる。

問題は狭い場所が通れない事だが、ここ数日オーガが暴れた為、開けた場所が多くなっていた。


1台につき6、7体の遺骸を載せて、兵士達はオークの遺骸を運んで行った。


「さて

 これで魔物の死体は片付いた」

「はい」


「もう少し奥に行こうか

 オーガはこの辺に居そうにないからな」

「そうですね」


ギルバート達の目的も、オーガの討伐による訓練だ。

だからオークでは、些か不満が残っていた。

確かに連携の訓練は出来たが、オーガはあんなに簡単に倒れないからだ。


ギルバートは休息を取っている将軍の元へ向かった。

将軍は休息をしながらも、兵士達の斥候した観測結果を聞いていた。

近くには痕跡しか無かったが、確かにオーガは来ている。

既に移動した後だろうが、10匹以上の痕跡があったからだ。


「ふうむ

 こりゃあ他の部隊にぶち当たっているかも知れんな」

「え?」

「だってそうだろう?

 痕跡の古さから、昨日今日の物では無いだろう

 それなら、東か西へ移動している

 じきに他の部隊に当たるだろう」

「それなら、我々の部隊はハズレを引きましたか?」

「かも知れん」


「将軍

 それは本当ですか?」

「殿下…」


将軍の言葉に、ギルバートは落胆していた。

昨日はミリアルドのせいで中止になり、今日は空振りに終わりそうだ。

連携の訓練は出来たが、これではオーガとの戦闘訓練にはならない。


「そうですね

 近くには痕跡しかありません

 魔物は既に、この場から離れているでしょう」

「そうですか」


「どうしますか?」

「そうですね…」


ギルバートは悩んでいた。

魔物がまだ近くに居ると思って、さらに奥へ進もうと思っていた。

しかし肝心のオーガが居ないのでは、これ以上進むのも無駄かも知れないのだ。


「どうします?」

「予定通り、奥へ進みますか?」

「うーん」


「殿下も気が進みませんか」

「将軍?」


「いやなに、オレも気になっているんです

 何か嫌な予感がして…」

「嫌な予感…」


そういえば少し前から、何とも言えない不穏な空気を感じている

これが将軍が言う、嫌な予感なんだろうか?


ギルバートは嫌な空気を振り払う様に、頭を振った。


「どうされましたか?」

「いや…

 確かに…嫌な空気を感じる」

「おや?

 殿下もですか

 そうなると、ますます良くない」

「これは何なんですか?」


「ふうむ」

「殿下

 それは歴戦の戦士が感じる、殺気を孕んだ空気です

 これが感じられるという事は、殿下もその域に達したという事ですね」

「そうだな」

「殺気?」

「そうです

 魔物が待ち伏せている、それの放つ殺気ですよ」


「だが、さっき付近には、魔物の反応が無いと…」

「そうですね

 近くには居ない様です

 ですが強い殺気を感じます」

「将軍

 これはオーガでは無いのかも」

「そうだなあ

 奴等はもう、近くには居ないだろう

 そうするとこの殺気は…」

「他の危険な魔物が、急速に向かって来ているのでは?」

「え?」


「いかん!

 すぐに魔物の襲撃に備えさせろ!」

「はい!」


「おい!

 魔術師のみんなはすぐに立ち上がれ!

 魔物が迫って来ている」

「オレ達も中央に集まるんだ

 魔術師達を守れ!」


「え?

 ええ?」

「何だ、何だあ?」

「魔物?」

「呪文の準備をしなさい

 すぐに攻撃出来る準備を…」

ゴガアアア

ガルルル


魔術師の元に向かう兵士の背後から、大きな影が飛び出す。

影は大きな腕を振り上げて、その兵士に目掛けて振り下ろそうと迫る。


「危ない!」

「くそっ」

「間に合えー!

 マジックアロー!」

シュババッ!

ガキガキガキーン!


その鋭い鉤爪に魔法の矢が当たり、寸でで兵士は身を躱す。


「うひいい」


兵士は転がりながら魔術師達の元へ向かい、何とか難を逃れる。


グルルルル

グガアアア


現れた影は大きな熊と狼で、その姿は禍々しくも美しかった。

黒い艶やかな毛皮に包まれた、2m越えの巨大な熊、ワイルド・ベアが2匹と、灰色の毛並みが美しい猪の様な大きさの狼が5匹現れた。


「ワイルド・ベアに…狼?」

「新種の魔物だ!」

「新手の魔物が現れたぞ」

「フォレスト・ウルフ?

 初めて見たわ」


ミスティは魔物の正体に気付き、魔物の名前を告げた。


フォレスト・ウルフ

大きな狼の魔物で、大きさが大きくなっただけで、特に普通の狼とは違わない。

しかし体格が良くなった分、動きは素早くなっていて、その厄介さは狼を上回っている。

素早い突進からの噛み付きと、鋭い前足の爪が武器になる。

美しい灰色の毛皮は丈夫で、ワイルド・ボアの皮より丈夫だった。


「気を付けて

 毛皮はマジックアローでも貫けるけど、爪はそうもいかないわ

 爪と牙には気を付けて」

「はい」

「くそっ

 素早いから躱されるな」


さっきのマジックアローも、爪で弾かれて防がれている。

下手に撃てば味方にも当たってしまう。

魔術師では正確な射撃が出来ないのだ。


「怯むな

 魔術師はワイルド・ベアの足止めをしろ

 兵士は狼の相手をするんだ」

「フォレスト・ウルフよ」

「そう、フォレスト・ウルフだ

 素早い動きに…」

ガウ


1匹のフォレスト・ウルフが跳躍して、将軍に向かって飛び掛かる。

将軍の動きなら、躱せずに当たると判断したのだろう。

しかし将軍の隣にはギルバートが居た。

腰のショートソードを素早く抜刀して、狼の牙を受け止める。


「ふん」

ガキーン!


グルルル…


フォレスト・ウルフは自慢の牙を防がれ、着地すると唸り声を上げる。

そのままじりじりと前を移動し、ギルバートと将軍の隙を伺う。

その間にも、残りの4匹の狼は兵士を囲み、隙を見逃さない様に周囲をゆっくりと回る。


ガルルル

グルルル


ワイルド・ベアはその後ろに立ち上がり、魔術師達の様子を見ていた。

狼よりは知恵が回るらしく、魔法で狙われるのを警戒している様子だ。


「ううむ

 これはマズいな」

「ええ

 私達と魔術師達が分断された為、下手に動けば危険です」


「しかし、逆に挟み撃ちになっている

 魔物も下手には動けんだろうな」

「そうですね

 先ずはこいつを」


ギルバートはフェイントで狼を誘うが、その動きを見透かしてか、狼は目の前で睨み続ける。


「くそっ

 なかなか隙を見せない」

「殿下、焦らないでください」


目の前の狼を倒せれば、将軍とワイルド・ベアに向かえる。

そうすれば、兵士も狼に集中出来るだろう。

それか魔術師達が、魔法でワイルド・ベアを牽制出来れば良いのだが、それすらも警戒されて見破られている。

下手に撃っても躱されて、その向こうのギルバート達に魔法が向かうだろう。

それを考えてか、魔術師達も下手に魔法を撃てないでいた。


グルルルル…グガア


不意に我慢が出来なかったか、将軍に向かって狼が跳躍した。

一瞬、ギルバートは反応したが、すぐに向こうの狼が見ているのに気が付き、そのまま待機した。

将軍は既に抜刀している。

狼の跳躍にも反応出来るだろう。


「ふううん」

ガキン!

ギャワン


将軍が剣で防ぎ、そのまま顔に剣を振るった。

将軍の思わぬ反撃に、狼は顔に傷を作って、後方に逃げた。

そこに将軍が踏み込み、大きく剣を振りかぶる。


「ぬああああ」


将軍の気迫に負けて、狼は動きが止まった。

背後の狼も、ギルバートに警戒して動けない。

「ふうんぬ」

ズダン!

ギャワン


狼は気迫に動けなくなり、そのまま頭をカチ割られた。

その動きに反応して、片方のワイルド・ベアが振り返る。


ゴガア…


「今だ

 マジックアロー」

「マッド・グラップ」


魔術師が魔法を放ち、片方のワイルド・ベアに目掛けて魔法の矢が飛んだ。

ワイルド・ベアは、慌てて魔法を払おうと腕を上げるが、足元が泥濘んでバランスを崩す。


ゴガア…

ドスドス!


マジックアローが腕から胸に刺さり、浅手ながら傷を負わせる。

しかし、その隙を狼は見逃さなかった。


ガルルル


跳躍した狼は、魔法を放った体制のままの魔術師目掛けて、鋭い爪を振り下ろす。


「危ない!」

「くそっ」


兵士が咄嗟に構えるが、その剣は弾かれて、牙が向かって来る。

もう一人の兵士が飛び付き、魔術師をそのまま押し倒す。

狼の牙は兵士の肩に噛み付き、鋭い牙が皮鎧を突き破った。


「ぐ、がああ」

「くそお

 この野郎!」


兵士の肩は噛み砕かれて、大きな牙の痕が残された。

仲間の兵士が剣を振るうが、狼は素早く避けると、再び跳躍して逃げた。


「ダメだ

 思ったより素早いぞ」

「下手に剣を振り回すな

 味方に当たるぞ」

「くそっ」


ガルルル


もう1匹の狼が、次の獲物を狙って跳躍する。

兵士は混乱して、大きな隙が出来てしまった。


「ぐう…

 っく」

「さあ、このポーションを…

 キャア」


再び魔物が飛び掛かり、その牙は兵士を手当てしていたミスティに向かっていた。


「させるか」

ザクッ!

ギャン


その動きを見張っていた兵士の一人が、何とか狼の首へ剣を突き立てる。

狼の勢いもあったので、剣は深々と突き刺さった。

しかしそれが逆に災いして、狼の断末魔で動かした爪が、兵士の顔や腕を切り裂いた。


「ぐ、がああ」

「大丈夫か?」


すぐに他の魔術師がポーションを取り出し、兵士の傷の手当てをする。

しかし傷は深くて、右目はザックリと切り裂かれて失明していた。

左腕の傷も深く、骨まで見えている。

添え木で固定しなければ包帯も巻けそうに無かった。


まだフォレスト・ウルフ3匹残っているし、ワイルド・ベアも健在だ。

将軍が負傷したワイルド・ベアに切り掛かったが、もう1匹はギルバートと睨み合っていた。

ワイルド・ベアはこの二人が強敵と判断し、魔術師を襲う事を諦めたのだ。

その代わり、魔術師の方はフォレスト・ウルフが睨んでいた。

兵士の技量では、何かの隙が出来なければ、フォレスト・ウルフに切り掛かる事が出来なかった。


両者は睨み合い、互いに隙を狙って身構えていた。

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