144. ムーンストーン編(11) 地球儀
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
その日のベトーラ伯爵邸は、朝からいつになく賑やかだった。
大きく開かれた玄関の前には次々と馬車が止まり、着飾った客たちが降りてくる。
邸内には婚礼の花が飾られていた。
今日は、ペルラとディアバスの、ムーンストーンでの結婚式だった。
ベトーラ家の玄関ホールの中央には、オーニチェから婚礼祝いに贈られた、精緻に透かし彫りされた、一際大きなエメラルドグリーン色の宝石の球体があった。
腰の高さほどはある、大きな地球儀だ。
内側には、同じく透かし彫りされた様々な青色の宝石球が入れ子状に収められ、ゆるやかに回転していた。
通り抜けた光の青と形は、絶えず移り変わり、白い壁と床に南国バサルクの海面の一瞬を映し出していた。
エメラルドグリーン色の宝石の海に、ムーンストーン王国、バサルク王国、アルマンディン領、そして、その他の国々と陸地が、色とりどりの宝石のモザイクで描かれていた。
それらの陸地を細い銀線でレースのように縁取るのは、巡航都市プリズマの航路だ。
地球儀には、バサルク王家の紋章も名前もなかった。
ただ、ムーンストーン王都、バサルク王宮、バサルクの海の離宮、それからアルマンディンの一点――バサルク王家の故郷に、小さな水晶が埋め込まれていた。
風が吹いて、ペルラのベールが大きくはためいた。
「あっ、前が見えない」
客の出迎えが終わり、玄関から室内に戻ろうとして、ペルラが立ち止まった。
「こっちに」
ディアバスがペルラの体を引き寄せる。
「ありがとう」
「兄上の地球儀につまずくなよ」
「あれは見えているから大丈夫よ」
ペルラは微笑んだ。
「だって、あんなに輝いているんですもの」
【完】
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