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Scrambled Egg  作者: 読まれる前提
《たまごの殻》

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エピローグ

裁判所の前の並木道に、桜が咲いていた。


満開には、少し早い。

でも、風が吹くたび、

薄い花びらが静かに舞っている。


人の流れはあるのに、

音だけが、どこか遠い。


僕らは、少しだけ違う世界に立っていた。


紗希と、並んで一緒に待つ。


二人、揃ってないと

莉花はまた戻ってしまう。


そんな気がした。


だから、離れない。


他には何もいらない。


それだけで、十分だった。


扉が開く。


莉花が、出てくる。


透明な一筋の風が吹き、


桜の花びらが、莉花の肩に触れて、落ちた。


少し痩せた感じがする。

でも、歩き方は変わっていない。


一瞬、目が合って、

それから、少しだけ戸惑った顔で、笑った。


「……来たんだ」


「迎えに来るって、言ったでしょ」


紗希の声は、穏やかだった。


それ以上は何も聞かない。


三人で歩き出す。


誰も、急がない。


駅までの道は、少し遠い。


言葉はいらない。


歩いているうちに馴染んでいく。

最初からそれが正解だったように。


ひさかたの

光のどけき

春の日に

しづ心なく

花の散るらむ。


何故かそんな歌が浮かぶ。


僕の心も、

ふたつの花の間で、

しづ心なく揺れていた。



電車は、時間通りに来た。


平日の昼間。

車内は、少し空いている。


三人で、並んで座る。


真ん中が、僕。


自然と、そうなった。


次の瞬間、

左右から、同時に重みが乗る。


肩に、黒と茶色。


「……両手に花で、嬉しい?」


紗希が、からかうように言った。


化粧を落とした二人は瓜二つだった。


「どうかな」


そう答えると、

二人は、同時に少しだけ動いた。


笑っているのが、わかる。


「ねえ」


莉花が、小さく言う。


でも、その先は続かない。


言わなくていいことだと、

三人とも、もう知っている。


窓の外で、街が流れていく。


どこからか、パッヘルベルのカノンが重なっていく。


ふいに、

前にも、こんなことがあった気がした。


でも、同じじゃない。


「……君たちは、やっぱりいい香りがする」


そう言うと、

二人は、一瞬だけ動きを止めて、

それから、少しだけ肩に重みを預けてきた。


同じ香り。

でも、まったく同じではない。


混ざっているのに、

ちゃんと、それぞれだ。


もう、取り合わない。

比べることもしない。


もう、その代償を知っているから。


電車が、次の駅に滑り込む。


ドアが開いて、

また閉まる。


それだけのことが、

なぜか、とても大切に思えた。


「行こうか」


そう言うと、

二人は同時に、頷いた。


その仕草が、

少しだけ似すぎていて、

僕は、思わず笑ってしまった。


卵は、割れてしまった。


元には戻らない。


それでも。


スクランブルエッグみたいに、

混ざったままでも、いい形はある。


ここから、また始めよう。


壊れすぎない距離で。

優しさを、手放さずに。


Scrambled Egg。


――完。

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