表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Scrambled Egg  作者: 読まれる前提
《たまごの殻》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/44

36章《The Tempest》

人は、壊れる瞬間を選べない。

ただ、どこで踏み越えたのかだけが、あとから残る。


守るためだったのか。

生き残るためだったのか。

それとも――最初から、そのつもりだったのか。

「千堂さん。一つ、確認していいですか」

「今までに、人を撃ったことは?」


千堂はすぐには答えなかった。

それから、低い声で言った。


「あります」


視線は外さないまま、続ける。


「藤堂社長と南米にいた頃、何度か銃撃戦になりました」


「最初はやらなければやられる」

「社長を守るのに必死でした」


「でも、慣れですかね」

「麻痺してくるんです」


「日本に帰ってからは、何もしてません」


「藤堂社長が、病的になった私を哀れに思ったんでしょう」


私は言った。

「今回の作戦でも、人を殺す可能性がある」

「覚悟はありますか」


「お嬢様、いや莉花さん」


「私を見くびらないでください」


「任された時から、そのつもりで動いています」


そこにはもう、あの穏やかな運転手の面影はなかった。


私は地図を机の上に広げた。


南米コロンビア。


港。


倉庫。


物流ルート。


赤い線がいくつも走っている。


私は言った。


「藤堂高雄は、ルートを頻繁に変える」


千堂が頷く。


「ええ」


低い声だった。


「同じルートだと足がつく」


千堂は地図の一点を指した。


「だから定期的にルートを作る」


「金は数字に変われば、

網目のように流れる」


「でも、物は違う」

「船、港、倉庫」


「物だけは、線で動く」


私は言う。


「だから拠点を壊す」


千堂が頷いた。


「そうですね。それが一番効く」


私は資料を一枚めくる。

そこに記されていた名前を、静かに見た。


日山海外インフラ開発株式会社

南米事業部 部長

神代レオン


私は言った。


「吉野の話、覚えてる?」


千堂はすぐに理解した。


「レオンですか」


「ええ」


私は頷く。


「高雄の右腕」


千堂の表情が、わずかに変わった。


「レオンは、妹と二人でスラムにいました」

「マフィアに飼われていた」


声は低かった。


「藤堂社長が、金で片をつけて引き取ったんです」

「……私の弟子です」


私は黙って続きを待った。


千堂は地図を見たまま言った。


「その後、レオンは自分たちを奴隷にしていたマフィアを壊滅させました」

「厄介な男です」


私は言う。


「吉野は、レオンに追われている」

「本人がそう言っていた」

「おそらく、もう処分命令が出ている」


千堂は腕を組んだ。


「つまり」


「吉野を動かせば、レオンが来る」


短い沈黙。


千堂が言った。


「……餌ですね」


私は頷く。


「吉野を作戦に同行させる」

「そうすれば、必ずレオンは追いかける」

「南米に行けば、拠点も確認しに行くはずよ」


千堂は地図に目を落とした。


「レオンを落とせば、南米ルートは止まる」


指で線をなぞる。


南米。

東南アジア。


途切れていたはずの線が、そこでひとつに繋がった。


「一時的に、両方とも止まります」


私は頷く。


「そういうこと」


部屋は静かだった。


倉橋は何も言わない。


私は倉橋を見る。


「必要経費は全部、日山食品から出して」

「粉飾でいい」


「決裁は、あなた名義で」


倉橋は黙って頷いた。


「帳簿は、あとで私が戻す」


命令の確認だった。


私は千堂を見る。

「現地は任せる」


千堂は短く答える。

「了解」


私は視線を上げる。


「元部下を二人、連れていきます」

「今はSATにいます」


「東と桐谷です」

「腕は保証します」


「信頼できる男たちです」


私は言う。

「現役でしょう」


「ええ」


「南米での作戦です」


千堂は淡々と続けた。


「日本では、訓練までが限界です」

「実弾でさえ、外では使えません」

「あの二人も、実戦経験を欲しがっています」


「さらに高額の報酬があれば、喜んで動きます」


短い沈黙。


私は頷いた。


「必要なだけ出すわ」


千堂は短く答える。


「了解」


私は言った。


「拠点がわかれば、シンディーからアメリカ軍に情報を送る」


千堂が顔を上げた。


「軍を?」


私は頷く。


「ええ」


「今、ワシントンは日山製鉄とUSスチールの件で止まってる」


「担当事務官は、突破口を欲しがっているはず」


倉橋が眉を動かした。


「……そこに食い込むのか」


「そう」


私は資料を閉じた。


「シンディーに日山製鉄側として交渉に入ってもらう」


「見返りは、麻薬ルートの情報」


千堂が小さく笑った。


「軍が動く理由には十分ですね」


私は静かに言った。


「今の大統領なら、飛びつく」


「USスチール主導の合併」


「そして麻薬ルート壊滅」


私は千堂を見る。


「座標はあなたから送って」


千堂は頷いた。


「了解」


私は最後に言う。


「シンディーの交渉資金も早急に用意して」

倉橋を見る。


「大統領が納得のいく金額で」


誰も、もう止めなかった。


作戦は、静かに動き出していた。



すべては、静かに決まった。


声を荒げる者はいない。

誰も迷わない。

ただ、それぞれが自分の役割を受け入れただけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ