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3/ダンジョン準備

「……『死活用(リサイクル)』?」


 なんだろう、これ。

 物々しい名前だけれど……。


 表記のところどころが文字化けしていることを問うと、平静とした声で返された。


『元々そういう表示のものみたいです。おそらく草十郎の成長に合わせて、情報が解放されますよ』


「ここに書いてある経験値って、ゲームとかのやつ?」


『そう認識してもらって構いません。草十郎やDPで購入できるモンスターは、戦闘によって経験値を得ることができ、一定量ごとにレベルアップと進化を行うことができます』


「その経験値が、普通より多く貰えるってことなのかな……これって強いの?」


『強いとは思いますよ? 全体的に戦力を底上げしてくれますし。補正値の極大は桁違いの性能を持っています……発動条件が読めないので、活用できないですけど』


 分からない。なんて文字が入るんだろうか。

 そもそも穴の数と文字数は必ずしも一緒じゃないとラズリは言っていた。つまり、考えるだけ無駄ということだ。


『それに、ユニークスキルは成長や変化しますからね。草十郎が強くなれば、自ずと強くなっていきますよ』


「なるほどね……努力あるのみってことか」


『はい、努力あるのみです!』


 努力は得意だ。元が優秀でない分、今までたくさんやってきた。

 頑張れば見えるようになるなら構わないや。


「それで……モンスターって?」


『そちらについては説明するより見せた方が早いですね。窓を操作していただけますか? DPで購入できるユニットのタブに移動してください』


 言われ、『窓』を操作していく。


 ユニットのタブを押すと、色んなものが並んでいた。

 どれもさっき食べたカレーライスより高くて、そして表示が大量に増えている。


『そこに映っているのがDPで購入できるモンスターたちで、横の簡易グラフやタッチで確認できる数値がそのモンスターのステータスになります』


 そこに並んでいたのは、ゲームの中で見たことのある敵キャラクターたちだった。


 背が低く悪そうな顔の小人はゴブリン、人型の骸骨がスケルトン。

 他にもRPGの中で見たようなモンスターがアイコンになって表示されている。


 タッチすると色んな数値が出てきた。

 筋力、耐久、技量、敏捷……。他にも幾つかのステータス画面が表示されている。


『草十郎の言った通り、ゲーム的な世界だと思ってください。そこに表示されているモンスターたちはユニットとして、貴方が召喚・使役することができるものです。そして同時に、それらのモンスターが外敵としてもこのダンジョンに訪れます』


 襲ってくるモンスターをモンスターで撃退する……。

 そういうゲームを、友達が持っていたような気がする。


 と言うよりも、スキルとかステータスとかモンスターとか、まるでゲームみたいなことばかりだ。

 もしかすると、僕は何かのゲームをやらされているのかもしれない。


『それと注意点ですが、購入時点のモンスターのレベルは1固定になります。それに対して、外敵のレベルはおよそ5~10です。つまり、数や戦略で対策しないと負ける確率が高いです』


「なるほど……この1,000,000ptもするドラゴンとかも来るの?」


『流石に来ないですね……。せいぜい来ても100ptのオークぐらいと考えておいてください。しかし、いつ、何匹来るかは分かりません』


「オーク……豚のでかいモンスターだっけ」


『窓を操作して、見た目やサイズも確認できますよ。ただ、そうですね……実際にモンスターを数匹買って、目で見た方が分かりやすいかもしれません。草十郎、ユニットを購入してみましょうか』


「じゃあ……このウルフっていうの買ってみていい?」


『いいですよ』


 大型の狼型モンスター――――ウルフを、20ptで購入する。


 するとラズリの体が輝きだし、光の塊を吐き出した。

 光は徐々に弱くなっていき、気付けば僕の目の前に大きな狼がいた。


 薄い灰色の狼だ。

 その姿は想像通り凛々しいもので、唯一驚くべき点を挙げるならば、僕の胸あたりの位置に頭があることだった。


 かなり大きい。


「お……おぉー……」


『まぁ、大きくなっただけの狼ですね。鋭い牙と爪が特長で動きが早く、群れだと戦闘力にボーナスがあります。低額ユニットとしては優秀で便利だと思いますよ』


 狼はこちらに近付いてくると、靴を舌で舐めだした。


 ちょっと顔が怖いけど、もふもふだ。

 カッコいいし、しかも人に慣れているらしい。僕を見ても追いかけてきたり噛んできたりしない。


 屈んで背中を恐る恐る触ってみると、自分から体を摺り寄せてきた。

 柔らかい……。


『最初の内は低DPのモンスターを揃えていき、後々高DPのモンスターを増やしたり、低DPのモンスターを進化させていったりするのが基本路線となります。また、モンスターもスキルを覚えていったり、食事やDPを消費したりするものもいますので、定期的にステータスを確認したり管理していったりしてくださいね』


「うん……」


『ユニークスキルの効果もありますから、色々と試してみるといいですよ。それでは次に、ダンジョン防衛についての説明を――――草十郎、聞いてます?』


「聞いてない……」


『認めないでください。犬を撫でるのをやめてください』


「犬じゃないよ、狼だよ。知ってる? 日本で狼を飼うことはできないんだ。僕の家は犬もダメだったから、まさか狼を飼えるなんて思ってもみなかった」


『知りませんよそんなこと。今は私が話してるんです。犬っころと戯れるのは後にしてください』


 もう少し撫でていたかったが、せっかく説明してくれているのだ。話に集中するためにウルフから手を離す。


『さっき言ったように、明後日このダンジョンは攻められます。戦いが始まるんです。だから、戦うための準備をしなければならない。それには貴方の力が必要なのです』


 ラズリが、お願いしますと頼んでくる。


 僕はまだ、よく分かっていない。

 ただそれでも、ラズリに頼りにされているのだということは分かった。


 けれど――――。


「無理だよ」


『……え?』


『……僕はこんなのやったことがない。モンスター同士を戦わせるなんて考えたこともないんだ。戦略とかも知らないし、武器の扱い方なんて全然分かんない。ラズリの方が詳しいんだよね? ラズリが、その、やった方がいいと思う……」


『……草十郎』


「僕は足手まといにならないように、手伝うからさ。そっちの方が絶対良いって」


 情けないことを言っている自覚はあるが、本当にそうだ。

 ラズリは明らかに僕よりこういうことに適性がある。知識も僕より豊富そうだ。なら、ラズリにやってもらった方が良いだろう。


 ……僕は人に頼られるのが好きではない。

 頼りにされたこともないし、頼られたいとも思わない。

 能力がないのだ。だから、一番上に立つべき人間ではない。


 そんな僕の言葉に呆れたのか、ラズリがしばらく喋るのをやめる。

 そして、真面目な口調で話し出した。


『草十郎。「ノーから入るな、イエスから入れ」いう言葉を貴方に贈ります』


「……なに、それ?」


『何事も否定から入ってはいけないのです。あらゆる物事に対して、常に首を縦に振ってください』


「無理だよ。出来ないことは出来ないし、やれないことはやれないよ」


『言ったことを聞いていましたか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこが貴方のスタートです、いいですね?』


「えぇ……うん、分かった」


 納得はいかないけれど、ラズリが有無を言わせぬ口調で言うので頷いておく。


 ラズリは声の調子を変え、僕へと言い聞かせていく。


『購入や簡単な管理ならば私ができます。けれど、何を購入するか、どう配置するか、どのように地形を変えるのかは貴方が考えなければなりません』


「なんで、僕なんかが……」


『ゲーム的に言うならば、「貴方は勇者に選ばれた」んです。不条理かもしれませんが、受け入れてください。そうしなければ話が始まりません』


「……」


『ですから草十郎、私を頼ってください。何も知らない貴方を支えるために私がここにいるんです。私は貴方を助けます。けれど、貴方がやるのです。貴方が全ての責任を負って、全ての行動を決め、全ての結果を手にするのです』


「……」


『DPはまだたくさんあります。何も始まってすらいないのです。無理なんて言葉は人事を尽くした者しか使う権利を持ちません』


「……そうだね。頑張ってみるよ」


 ラズリに喝を入れてもらい、少しだけど気合が入った。


 僕がやる以外に選択肢はないみたいだ。

 なら、うだうだ悩むのはナシだろう。道は一つだけで、やれるのは自分だけと来た。僕が諦める理由は全部消えている。


 それに、と。

 ラズリがほほ笑むような声で、最後の一言を付け加える。


『私を守ってください草十郎。男の子でしょう?』


「……分かったよ」



 手持ちのDPは1170ptだった。


 ご飯とウルフと薪やシャワー用の水などで-30pt。

 初日と今日の分で+200ptで、初期DPが1000ptもあった。

 こんなにあったらオークぐらい大丈夫だと言ったら怒られた。僕の想定は甘いらしい。


 取り合えず低DPのモンスターを片っ端から買ってみる。

 30pt以下のモンスターを手当たり次第だ。スライムやフェアリーといった定番は勿論、ゴブリンも買った。

 見た目がかなり悪人だったが、召喚したモンスターは絶対にマスターの味方らしい。怖かったけど握手してくれた。


 その間に、僕はラズリとダンジョンの構造を話し合う。

 入口は必ず一つ出来てしまう。だから、そこからラズリに辿り着くまでの道を防がなければならない。


 DPによってダンジョンは部屋や道、トラップ、そして階層を増やしたりもできるらしい。

 あまり掘り過ぎると肝心の戦えるモンスターが買えなくなる。大きなホワイトボードをDPで購入して、あーでもないこーでもないと案を捻りだす。


 ――――そうこうしている内に夜になった。


『お疲れ様です草十郎。夕飯の時間ですよ』


「あぁ、もうそんな時間か」


 マーカーペンを置いて、腰を下ろす。


 慣れない考え事をしたせいで酷く疲れていた。

 窓を操作し、適当に腹を満たせるものを選んで購入する。


 モンスターたちにも食事が必要だ。

 モンスター用の食事も適当に購入してみると、彼らも腹を空かせていたのかラズリの周りに寄ってきた。どれくらい食べるんだろ、こいつら。


『頑張っていましたね』


「……うん、頑張った」


 慣れないことに集中していたせいで、意識が若干ふらふらしてる。

 疲れてるみたいだ、良くない。最低限の夕飯だけ食べたら、また色々考えないと。


 残っているDPの使い道とか、新しく買うモンスターもまだ決まっていない。

 武器や防具もDPで買えるが、そもそも何が強いのかすら僕は知らない。

 ダンジョンの形だって変えなきゃいけない。入口からすぐの部屋にラズリを置いてしまったら、多分まずいだろう。


 やらなきゃいけないことは沢山ある。

 何もかも初めてなことだけど、期限までには何か一つに決めないといけないな。


 と、考え事をしながらカレーを食べていると、ラズリが提案をしてきた。


『草十郎、流石に椅子か座布団ぐらい購入してはどうです? 剥き出しの地面は人間工学的に疲れますよ』


「いらない。DPをあんまり使いたくないんだ」


『もしかしてベッドも買わないつもりですか?』


「少なくとも、明後日の敵を倒せるまでは我慢する」


 椅子も座布団も1ptだが、1ptあれば簡単なトラップの維持費になる。

 その差で失敗したくはなかった。


『最低限の設備投資ですよ。睡眠の質が落ちれば思考能力が落ちます。快適な暮らしはよりよい発想を生みます。無駄遣いをしろとは言いませんが、普段の生活以下の水準まで落とす必要はないですよ?』


「……ラズリは凄いね。僕の知らない言葉をいっぱい知ってる」


『草十郎、生活は大切なのです。メンタルの部分を軽視しないでください』


 確かに、この節約は非効率的なものかもしれない。

 けど、僕はその1ptが怖くて仕方がなかった。


「僕が贅沢したせいで負けちゃったら、嫌なんだ」


『だから、贅沢ではないですって』


「それでも、怖いんだよ。あらゆる失敗には必ず原因がある。その原因の一つを、僕の意志で作ってしまうのが怖い。僕はあんまり出来が良くないから、他の人が当たり前のように消費するものすら削らないと、普通にすら届かないんだ」


 自分で言って嫌になる。


 いつだってそうだった。勉強も、スポーツも、習い事だって。僕は要領が良くなくて、いつも周りより遅れていた。

 センスや才能がないのだろう。それでも頑張れば色んなことは出来るようになるけれど、他よりよっぽど時間をかけてなきゃ、大抵のことはこなせない。


『……卑屈ですね』


「そうかもね」


 あまり人前でなよなよしたくはないのだが、今は状況が状況だ。出来ないことは出来ないと言うべきだろう。今でもまだ、ラズリが全てを主導した方が良いんじゃないかとすら思っているぐらいなんだから。


『草十郎、「案ずるより産むが易し」ですよ』


「……なんて意味?」


『元は出産の場面で生まれた言葉です。妊婦にとって、出産とは不安なことだらけです。気分がナイーブになることもあります。が、そんなことは産んでしまえば解決するのですよ』


「博打みたいな考え方だね」


『うだうだ事前に悩むから気が滅入るのです。ベストを尽くせば結果は付いてきますよ』


 それにですね、とラズリは続ける。


『草十郎。貴方には成功体験が足りていないだけです。成功が自信になり、自信が勇気を作り、勇気は結果を与え、結果は成功を生みます。大丈夫です。草十郎は成功します。小さな成功を積み重ねることで、その卑屈な性格を変えてしまいましょう』


「……はは、ラズリは明るいね」


『ネガネガする意味ないですからね』


 サッパリとラズリは切り捨てる。

 その通りだろう。うじうじしているのは男らしくもない。

 だが卑屈は性分だ。彼女の言う通り、成功というやつを積んでいけば治るのだろうか。


 分からないけれど、取り合えず頑張るしかないのだと思い至る。


 水を飲みながらぼんやりと思考をする。

 段々と、思考に霞がかかってきた。ラズリがアレコレ言ってきているが何も頭に残らない。


『って――――あら、お休みですか』


「……ダメだ。もうちょっとだけ、やりたいことが」


『お疲れ様です。子供はもう寝る時間ですよ』


 僕は子供じゃないと、口を開くことはかなわなかった。

 そこで、意識が落ちた。

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