20話
『嫌だ!出て行け!』
『殿下……心配することはありません。私の言う通りにすれば問題はないのです。ほら、この帝王学の教科書にも載っているでしょう?』
これは……昔の夢か?
思えば俺は6歳にしては賢すぎたのか周りから孤立していたように思う。
ついていた20過ぎの侍女が、俺をどうにかして傀儡にしようとしていたのを覚えている。
そう、ここで扉が勢いよく開いて……
『そのものを捕らえよ!皇子を誑かそうとしたものである!裏に誰かいるだろう、吐かせろ!』
『『はっ!』』
そうだ。父上が乗り込んできたんだ。
この時の父上の顔はやつれていた。
この時の宰相は父上を支えるべきなのに、裏切っていたのだ。
その片付けをしている間に、俺は何回も侍女を変えてもらったが、結局は宰相の息がかかった反皇室の勢力のものばかりだった。
とはいえやはり自分が一番なのかお金を狙っていたり側室や正室になろうとしたりする不真面目な反勢力のものばかりだった。
まぁ、そのおかげで俺は死ななかったし洗脳もされなかったんだが……なんともいえない気持ちだ。
父上もこのままだと反勢力が俺を傀儡にするのを諦めて暗殺すると思ったのか信頼できる友人の子供を侍女にすると言い出した。
それがアルベルタ辺境伯爵家の長女。
最難関と呼ばれる、侍女部、皇宮侍女科を飛び級で、しかも全科目首席で卒業した皇国始まって以来の天才と呼ばれる人
そして俺が想いを寄せているたった一人の女性である、シルフィ・アルベルタ、その人だった。
栗色の髪は、サラサラと輝き風に舞う、その青い瞳は、全てを見通す賢者のように澄んだ色をしている。
絶世の美女である。
まぁ出会った時は可愛らしい幼女といった感じであったが。
そんな幼女なのに出会ってすぐに毒入りケーキを見抜き、ある時は暗殺者をいつのまにか捉えており、違う時には扉に仕掛けられた毒針を3秒ほどで解除したりしていた。
どう考えても幼女の能力ではない。
周りから天才だとずっと言われてきた俺は目の前の彼女に負けたということが信じられなかった。
そして彼女に、シルフィにすごいと言ってもらえるように努力を始めた。
だが2年経てば気づいてしまう。
シルフィという本物の天才には敵わないと。
その時の俺はプライドがポッキリと折れてわんわん泣いた記憶がある。
『もうやだ!どうせ俺はダメなんだ!こんなに努力したのに、頑張ったって俺にはお前のような剣は使えないし魔法も勉強だってできないよ!』
今思えばなんてみっともないのか。
それでもシルフィはそんな俺を慰めてくれた。
『それは、そうでしょう。殿下が頑張っている間私だって頑張っているんですから、殿下の頑張り方じゃ先に頑張り始めた私には追いつけませんよ』
あれ?俺の記憶となんか違う?
シルフィはもっと聖母のような優しさで俺を包んでくれたはず。
“頑張ってる殿下を見てると私も頑張れますしそんな殿下が好きです”みたいなかんじだったはず。
『えっ……』
そりゃ戸惑うよな。
その時の俺には慰めてほしいって気持ちもあったのに……全くそんなものはおかまいなしに自論を展開していく……あっ、これシルフィだ。
間違いない。
『でも私は一生懸命頑張ってる殿下とか結構好きでしたよ。私も頑張ろうかなって思えましたし。ちょっと幻滅しちゃったかもしれません。』
そう、そんなかんじで……今思えば全然優しくない言葉だったんだな。
思い出は美化されるって本当だったのか……
『う、上から目線な!無礼だぞ!』
『そうかもしれませんね』
そう言ってムキになってる俺を見てシルフィはちょっと笑った。
『ああっ、また馬鹿にした!絶対俺はお前に追いついてやるからな!』
『はいはいわかりました。絶対無理だと思いますけど』
シルフィはニコニコしていてそれを見た俺はどうもムカついていて
『じゃあ、俺がお前に追いついたらどうするんだよ?絶対無理なんて言って馬鹿にして、詫びとかあるんだよね?』
そんな風に言いがかりをつけた。
シルフィはそれはそれは楽しそうにこんなことを言った。
『んーそうですねー。一つだけなら、なんでもしましょうか?あ、多分追いつかないと思いますけど』
『絶対だぞ!』
『わかりましたよ、殿下』
『絶対だからな!』
『はいはい』
これが俺が全てに本気で頑張り始めたほんのわずかな理由。
あの時はとにかく見返してやろうと思ってたけど今は違う。
約束は今でも有効だろうか。
俺はシルフィにどれだけ近づけたのだろうか……
もう何をしてもらうかは決めている。
あとはシルフィに俺が追いつくだけだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガタン……馬車の揺れで目がさめる。
どうやら寝てしまっていたらしいな。
馬車で横になると危ないのに……どうやらかなり疲れていたらしい。
「すぅ……すぅ……」
上から可愛い寝息が聞こえた。
ゆっくり上を向くと夕日に照らされたシルフィの顔があった。
……もう少し、もう少しだけこのままでいよう。
俺は顔を横に向けもう一度目を瞑った。
馬車の揺れとシルフィの体温が心地よく、俺はまた眠りについた。




