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天邪鬼な君に  作者: 森 彗子
9/18

それは恋。きっと恋。 3

ちずがまさか初体験済みとか、ビックリしたわ。

どさくさ紛れにとんでもない話を聞かされたもんだよ、まったく。


女子でも男子より性欲強い人っているんだろうか。

ちずは強そうだ。

サラリと、あんな個人情報ぶちまける神経は私には理解できないよ。


嗚呼、彼女と距離置きたい。

トモダチって、面倒臭い…。



食堂の空いているテーブルに座って、お弁当を広げた。お腹空くのは不快だから、半分でも食べておきたいと思い、箸を持った時だった。


「ここ、良い?」


目の前に、食堂のラーメンをお盆に乗せた三年生男子がニッコリと微笑んで私を見下ろしていた。


他に空いている椅子ならいくらでもあるのに。


私の中で警報のサイレンが鳴る。


私の返事がないのに、彼は堂々と席について食事を始めてしまった。


斜めに身体を向けて、目が合わないようにお弁当を食べていると。視線が煩くて気が散ってしまう。


食べるのをやめてお弁当をしまい始めたら、彼は私の水筒の蓋を手に取った。


「返して下さい」

「やっとこっち見てくれた」


いかにもなイケメンスマイルが私を待ち構えていた。


「メガネしてても、隠せてないよ。君の魅力的な顔立ちと神秘的な瞳の色。近くで見たいってずっと思ってたんだよ。東海林恵鈴さん」


ゾゾゾゾゾゾゾゾゾ



寒気!




私はひったくるように水筒の蓋を奪い取って、猛ダッシュで逃げた。




私を性的な目で見やがって!!




やらしい妄想映像がまた流れ始める。




さっきの三年生と

なぜかちずが見詰め合って告白する場面から始まった。


午後の授業の間に二人は彼の部屋の彼のベッドでおっ始めてしまった。


リアルでディープな絡み合いを止めたくても止まらない。観たくないのに、聞きたくないのに、知りたくないのに、性描写がエスカレートする。



もう、やめて。



もう、とめて。



誰か、助けて。



私の穏やかな時間を返してぇぇぇぇぇ





髪をほどいて顔を隠していると、先生がギョッとして私に聞いてきた。


「どうした?髪型が貞子になってるけど」


「頭が割れそうに痛いんです!」


「そうか、じゃあ帰る?」


「そうさせて貰います!」



私は荷物を適当に鞄にぶちこんで急いで学校から逃げ帰った。



寝てしまおう。

一旦寝てしまえば、きっと悪夢は過ぎ去っているはず。


制服を脱いでハンガーに吊るすと、私は部屋着に着替えてからベッドに潜り込んだ。


身体の奥がジンジンしてる。

下半身にキュンとした感覚が…


まさか。



まさか、私。



うつぶせに寝てぎゅっとお尻と爪先に力が入ったと思ったら、強烈な感覚があの場所にハッキリと。



あんな破廉恥な妄想映像のせいだ!

私は悪くない!



彼の匂いが染み付いた枕に顔を埋めながら、我慢できない声が!!



彼の指先が私の最も感じやすい場所を何度も引っ掻いてきて!!



やだ!やだ!やだ!やだ!やだ!



心はまだ彼を許せないのに、身体は正直に彼の与えてくる甘い刺激に飢えて―――――




飢えて…?



いつの間にか妄想の彼女はちずから私になり、さっきの食堂の三年生が私の身体にめちゃくちゃに触れてくるようで、余りにもリアルな悪夢に悲鳴を上げた。



自分の声に驚いて飛び起きると、かなりの汗をかいていた。


「ハァ、ハァ、ハァ、やったぁ、夢だった!」


安心するにはまだ早い。

夢とはいえ、なぜか私の身体はおかしくなっている。



ベッドから飛び降りて、ドタバタと風呂場に駆け込んで服を脱ぎ捨てシャワーを浴びた。やらしい目がまだどこかから私を見てる気がして、急に裸でいることが怖くなる。しゃがみこんで目を固く閉じて耳を塞いだ。


恥ずかしい。

情けない。


やらしくなんか、なりたくない。


なのに。



どうしちゃったの?




私、なんでこんなことに?





たとえ妄想でも夢でも、私はもう。





もう、お嫁に行けない……





ママみたいに、生涯でたったひとりの運命の人にまだ出会ってないのに。




まさか自分が、発情した猫みたいになるなんて、聞いてないよ!




どうすれば良い?


ママに相談する?


なんて言えば良い?


「うがぁぁぁぁぁ!」


風呂場に怪獣の雄叫びみたいな自分の声が響き渡った。




最近、パパは建築現場に入って大工さんの仕事を手伝いながら腕を磨いている。我が家のお風呂場は昨年パパが一人で改装工事をした。水色とレモンイエローとシルバーのタイルが壁と床に貼られていて、すごく素敵なんだけど。音響効果がさらに増してしまったから、余計にうるさい。


三日前、深夜にパパとママがここで…。



たまたま聴いてしまった。



聴いては行けない夫婦の密事を。



ママの声が、


パパの声が、



いつもと全然違っていて…




ヤバい。


頭の中がやらしいことに占領されている。



ちずのせいだ!

ようまのせいだ!


パパのせいだ!!



TL小説のせいだ!!!



全身ミラーに映る自分の姿は、年々ママに近付いている。

寸胴だったウエストもいつのまにかちゃんとくびれができている。

胸も年々サイズがアップしているのは一目瞭然だ。


私はどうなってしまうんだろう?


怖いよ。



こわい。



変っていく自分が怖い……




ママは怖くなかったのかな?




ママ…助けて……



シャワーから出て髪を拭いている時。

チャイムが鳴ってドアホンを確認すると、ちずが立っていた。


今日はもう帰って欲しいという本音を言うべきかどうか悩んで、ちずの恋路を応援すると約束したことを思い出すと、罪悪感が沸いてきた。燿馬にどこまで届くのかはわからないけど、しない後悔よりいろいろ手を尽くしてからの後悔を選ぶと言っていた言葉に、私は胸を打たれてしまって、協力するって約束したんだから。


ちずの進路の決断は周囲を驚かせたのは間違いないし。


そんなに恋愛感情ってパワフルに人を突き動かすものなの?



どんな顔をしようか迷いながら、顔の体操をしてドアの鍵をおろした。


ちずは私に抱き着いてきて、「ごめんなさい」と小さな声で謝ってくれた。



「私、自分の考えとか言いたいことばっかり言って、恵鈴の話一割ぐらいしか聞いてなかったなって気付いたの…。嫌な思いさせてごめんね」


しおらしいことを言うちずは、小柄な女の子みたいでなんだか可愛らしい気がした。


「…恵鈴にはまだ早かったのかな。TL小説」

「うん、そうだね」

「あの本、私の初体験と被る内容だったから、まるで自分の体験記みたいで特別な思い入れがあったんだよね。恵鈴にもそれをわかってほしくて…。だけど、恵鈴はまだ恋もしたことがないのに…」


あれ?

なんか、ちゃんとわかってるんだな。私のこと。


「でも、私が居た中学ではあれぐらい普通に皆読んでたし、性に興味あるのはもうしょうがないっていうか、普通って言うか…」


「普通なんだぁ」と、私は渇いた声で口を挟んだ。


「性に対する好奇心と、恋愛感情との違いをわかってる人って何パーセントいるの?」


ちずが目を丸くして私の顔をマジマジと見つめた。


「ごめん、何言ってるのか意味がわからないんだけど」

「だ、か、らぁ。エッチしてみたいって思う気持ちと、純粋に恋をした上でそういう関係に転じていく瞬間の気持ちと、ちゃんと違うんだってことをわかってる人ってどれだけの割合いるの?っていう話!!」


肩に力が入ってしまって、ちずが私の剣幕に戸惑っているのに止められなかった。


「そんなこといちいち考えてる人なんていないよ」


ちずの言葉は衝撃だった。


「恵鈴はさ、なんでそんなに区別したがるの?

間違えることが怖いから?」


「……」


「間違えることを怖がっているとしたら、それは恋をしているっていうことじゃない?」



……は?



「誰のことを思って、そんなに慎重になったの?

その人のことを考え過ぎて、迷路にまよいこんだ感じがするよね」


……誰のことを考えたんだっけ?



一番最初に考え始めたとき、誰のことを考えたんだったっけ?


えーっと……えーっと……。



そして私は思い出す。

本当のきっかけになったあの日の出来事を。




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