94.イセハヤ
イセハヤ
彼女がこの星に到着し目の当たりにしたのは、シュラに与えたコマンドによる殺戮 の光景だ。先住民を根絶やしにした後「移住可能の星」として虫人たちが目にするのは、シュラが彼らのために用意した「新しい未開の地」である。その時にはシュラが行った殺戮の跡は何ひとつ残ってはいない。彼女は自分の愚かさにようやく気付いた。
「私が間違っていたのね、リカーナ……」
「気になるのはその後の章だ、一つの『生命体』がオムズに現れた。それは『暗黒兵器』によるものだと書かれてある」
「生命体……」
「そうだ、メルサー。その記録はこう続いていた」
【……異星人が去り、我々が目にしたのはこの地に眠る『生命体』がよみがえった姿だった。封印していた暗黒兵器がオムズの大地を貫き、その『生命体』にもう一度生を与えたのだ。空に浮かぶ大地に封印した暗黒兵器……】
以降の部分は削り取られていて、存在していない。アマネはこう想像したと二人に告げた。
「彼らはあのフォボスに暗黒兵器を封印していた、それを地上で暴れる悪魔『シュラ』に向けて発射した。シュラを何度も破壊したのは暗黒兵器の強力な力だろう。しかしシュラはAI(人工知能)と再生装置により何度も再生したのに違いない。カグマでなければシュラの破壊は不可能だ」
「わかりました、艦長。フォボスに降りて、その暗黒兵器について確かめるのですね」
「そうだ、しかしその力がどんなものなのか、実は私には見当がついている……」
「それは石化を解く方法に似ている、そうお考えではないのですか?」
「さすがはメルサー、その通りだ」
レビエルがジガに近づく精神エネルギーを次元レーダーで捉えた。
「マルスからのエネルギー波を感知しました」
「やはり、このままでは済みそうもないな」
「いえ、マルスからの攻撃ではありません、どうやら彼らから送られたメッセージのようです」
「メッセージ……。そうかエネルギー弾で歓迎されるのではなかったな、そのメッセージを聞こうか……」
「はい、言語変換フィルターを作動します」
ジガに向けられたメッセージはマルスをオムズと呼ぶ「先住民」からのものだった。レビエルがメッセージの再生を始めた。
「……再び現れた異星人たち、私はオムズの長、イセハヤ。一言礼を言わせてくれ。おかげでやつらの思い通りにならなかった。このメッセージを開いているということは、あなた達もすでに彼の星、『地球』にあだなすものの存在に気付いているに相違ない。そうならば、我らの歴史をあなた達に知ってもらいたい。そしてあなたたちが偶然連れ出した『姫さま』のことを頼みたい……」
「なんと、あの女性はこの星の姫なのか?」
メッセージによって、石化したまま鎖で拘束されていた女性がこの星の王女であることが明らかになった。なぜ石化した王女がその上、鎖までかけられて拘束されていたのかは『マルスの歴史』を聞かねばアマネにまだ理解はできないだろう。
「長くなりそうか、イセハヤのメッセージは?」
「たぶん、これが彼らの最期のメッセージでしょうから……」
彼は、そう答えたレビエルにジガを『ダイモス』に向けさせるように命じた。
「しばらく「ダイモス」にとどまる。その間にジガの整備を行い、イセハヤのメッセージは艦長室へも転送しておいてくれ」
「承知致しました」
「メルサーはメッセージを聞き、また私に意見してくれ。それから王女の石化を解くのを一時中断する。レビエルは王女の現状を報告してくれ、王女にはまだ不明な点がある、フォボスの暗黒兵器がどんなものなのか、まだわからないがおそらく石化に深く関係するものに違いない……」
地球にもっとも近い、太陽系第四番惑星「火星」は「フォボス」と「ダイモス」の二つの衛星を持っている。そのひとつフォボスにはアマネの予想通りオムズの暗黒兵器が封印されていた。彼らが王女を連れ出したために『サンドラ』の計画は頓挫したのだった。さて、イセハヤの送ったメッセージが語ろうとする『マルスの歴史』はルナ国の女王ルツにも伝わっていた。少し時間を進めることとなるが語り手はルツ、聞き手は『インセクトロイド・カグヤ』に変わる、そしてそれが語られたのはルナの王宮の最深部だった。その洞窟には青白い明かりの揺れる祭壇があった。




