82.波紋
波紋
デュランのメッセージは、「アマネ」にもちろん届いていた。「ゼロ」の石化を解くために「ルノチウム」を使い尽くした戦艦「ジガ」は、ルナにとどまっていた航行に十分な量を手に入れたところだった。
「ベガが反乱軍の手に落ちて久しい……」
彼がこれから向かうのは地球、それはアマトという名の小型のカプセルロケットに乗っていた「タイスケ」に「あるもの」を届けるように頼まれたからだった。
「彼の故郷『地球』が反乱軍に狙われているという、しかもそれまでにあまり時間はない……」
おそらくこのメッセージは遠く外宇宙から発信されている、彼はそう思った。反乱軍の旗艦がベガならジガと同じ「シリウス型エンジン」だ、十分に光速度以上の「外宇宙航行」ができる。地球時間で数年しか時間は残されていなかった。
「あの星で見つけた『キャステリア』には残念ながら虫人の生存者はいなかった。石化が進み風化した虫人たちには、私たちの力によっても蘇生は出来ない。だがタイスケの言った通りなら、地球にはまだその力が眠っているはずだ……」
ジガの鑑長室で思案していたアマネは早速、副艦長「メルサー」を呼んだ。
「艦長、お呼びですか?」
「メルサー、ゼロはどんな調子だ?」
「はい、さすがはインセクトロイド。恐るべき回復力を見せ、すでに我ら虫人の体と遜色ありません、ただAI(人工知能)の言語装置はまだ学習中のためか起動していませんが……」
「……そうだな、しかしゼロが太古のインセクトロイドなら、言語や感情は持たなかったとされている」
「予言の書ですか?」
「そうだ、あの石板に残されていたのは王家に残る伝説と同じだ」
「艦長まであの男の言ったことを信じているのですか?」
ジガの副艦長「メルサー」は半ば呆れ顔でアマネに尋ねた。あの男とは予言の書を読めたとされる「サンドラ」のことだ。石板の文字は古代の神聖文字、ゴラゾム王が解読した「クッティース」のようなものである。ヨミの文字『創始の神々の文字』と言っていい。長い航海の中、数々の危険をくぐり抜けたジガの虫人たちはそれを何度か目にすることがあった。しかしそれが意味するものは全く理解ができなかったのである。アマネは都度それをレビエルに記録させていた、いつかそれを解読するものが現れるに違いないと信じていたからだった。
「レビエル、入ります」
通信士としてジガに乗り込んだ彼は「カグマ・アグル・サクヤ」の最も信頼していた助手であった。ジガが今日まで無事なのは彼がサクヤに次ぐ科学者だったからに他ならない。
「艦長、ゼロのAIに、新しいシナプスの形成が確認されました」
アマネは幾分高揚した声で言った。
「間違いないか。レビエル」
「はい、この様子では間もなく言語も感情も手に入れるでしょう。我らの仲間がまた一人増えました」
「ではあの虫人たちも、息を吹き返しただけではないのだな」
「はい、石化した虫人たちは完全に蘇りました。間もなくそれぞれの部署に配属されます」
「ルーン、ヘリメウス、ザーラー、カロンそれにビュラ。あの星でキャステリアの中で石化していた虫人の組織から5人を蘇生させるとは、レビエルはすでにサクヤを凌駕する科学者になったな」
「もったいないお言葉です、私には風化したものを蘇らせるまでには至りません」
「レビエル謙遜するな、カグマ様でもそれはできなかったのだ」
「副艦長、私はカグマ様から聞かされています。イブにはそれができたと、それにルノクスの王女にもその片鱗があると……」
「リカーナ様に……」
アマネは二人の会話を聞きながら、深く頷いていた。ルノクスの最後の王女「リカーナ」は、早くから不思議な力をもっていたのである。




