80.聖戦(ジハード)
聖戦
サクヤがアマトから送った通信が途絶えて間も無く、火星近くで大規模な流星群が突如として現れた。宇宙の彼方で起こったそれが「アキナ流星群」だった。石化していた虫人たちにより「ベガ」を奪われた「サリナ」を執拗に狙ったものだった。一方でベガを制圧し、黒色惑星で流星群の通り過ぎるのを待つ「デュラン」と「レガータ」の二人は、反乱軍の結成を全宇宙に呼びかけた。
「全宇宙に飛び立った虫人たちよ、我々の住むべき星がついに見つかった。そこには低能なサル型生命体『ヒト族』が繁殖している。彼らは我らと祖を一にする『ムシ族』を星の隅に追いやったばかりか、彼らと同じ租である『キョウリュウ族』を皆殺しにし、その星「地球」を手に入れたのである。我ら虫人の偉大な科学力は全宇宙に広がる、しかし彼らは未だに銀河一つ越えることができない。我らは『予言の書』を解読した『サンドラ様』とともに地球の『ムシ族』を解放するため立ち上がった。これは「聖戦」である。今まさに『アキナ流星群』が我らの進む方向から打ち出された。迷わずその方向へ進め、目指す星は「太陽系」にある。我々の旗のもとにこそ、虫人の新しい王国がある。『共存』を唱え、時間ばかり費やす無能な艦長らは我々が粛清した。我ら旗艦の名は『ベガ』、速やかに合流しろ、我らの「Z旗」のもとに集まるのだ……」
発信を終えると彼はレガータに聞こえるように言った。
「これでいい、宇宙に散らばった虫人たちにはもうベガと合流する力など残ってはいないだろうが、本来の目的は別にある。これを聞けば必ず動く男がいる、馬鹿な男がまだひとりな……」
その男が、「アマネ・ゼロ」こと「アマネ・ジガ・ゼロス」であることは言うまでもなかった。レガータがデュランに尋ねた。
「彼は、私たちの思い通りになるかしら?」
「ふふっ、その点は抜かりない、そして我々を歓迎するはずだ。新しい王国の君主として。そのためにベガを手にし、『サリナ』を始末したのだから……」
自信たっぷりに彼が答えた時、艦長室の外から声がした。
「ザルバ入ります」
「よしっ」
「フォボスより受信。『ジガ』は火星に立ち寄り、石化した「インセクト・ロイド」を予定通り回収したとのことです。そして『アキナ流星群』もまた正確に『アマト』に向かっているとのことです」
「よし、オグマはどうだ?」
「はっ、治療用カプセルに運び込みましたが、レイ・ガンの傷が深いため助かるかどうかは……」
「助かるかどうかだと?」
「はい、回復液では『脳の損傷』までは回復できません……」
「馬鹿なことを、虫人の体だけ欲しいのだ。戦士として使えればいいだけだ……」
……お前のようにな、と言いかけてデュランはやめた。ザルバを洗脳したのも彼の体だけが欲しかったからだった。ベガの搭乗員は数人減ったが、彼の率いる反乱軍は一度は臨死状態になった後、レガータの持つ「力」により洗脳された虫人たちだった。
「レガータがあの星で手にした力は、まさにヨミの力。ならばレガータこそ我らを導く『メシア』ではないのだろうか……」
彼は背筋が凍りつくほどの経験をしたことをすでに忘れていた。すでに彼女は妻ではなく、「最高の道具」に過ぎなかった。そしてそれに気づいていた彼女自身にも、どうすることもできなかった。
「あの衛星に立ち寄らなければ私は普通の女でいられたかしら。それとも、石化したまま外宇宙のどこかで、私たちはとっくに朽ち果てていたかもしれない」
遠い火星で彼らに起きたことはまだ誰も知らない、全宇宙に向けたデュランのメッセージは「ルノクス」にも届き、ベガを制圧した反乱軍が地球を狙っていることをマイたちも知る。しかしアマトはあまりにも遠く、もはやマイたちにはなすすべもなかった。
「サクヤ、必ず地球を救うのですよ」
パピリノーラはアマトに乗るサクヤにもう一度念波を送った。
「やるっきゃあない!」
アマトの艦内に聞き覚えのある声が響いた、しかしそれを聞き留めたものは誰もいなかった。




