72.奪われたベガ
奪われたベガ
「アマネが生きている。彼ならきっと私と同じようにキャステリアに行ったはず。サクヤ、航跡レーダーのデータファイルはベガにあるといったわね」
「漂流艦を発見した場合、艦の搭乗者を追悼するため、発見艦は必ずそうすることになっています。ベガは規律を遵守する艦です」
「それなら、データには『ジガ』についての記録も残っているわ。一度あなたに解析してもらいましょう」
「承知致しました」
アマトはベガのそばに着陸するため、減速を始めた。数人の人影がそれを待ちきれずに「べガ」のハッチから飛び出してきた。彼らを狙って「レイ・ガン」の光跡が幾筋も見えた。駆け出してきたのはオグマに相違ない。
「オグマ、ベガで何が起こっているの。サクヤ、早くモニターに拡大して見せてっ!」
モニターにはベガから撃ち放つ「レイ・ガン」を避けながら全速力で駆け出してくるオグマたちの必死の形相が映った。しかし彼らの体を容赦なく「レイ・ガン」が貫き、その場に倒れていく。半ば叫ぶようにサリナはサクヤに命じた。
「サクヤ、オグマを援護する。ベガの搭乗ハッチを攻撃しなさい」
しかし、それは不可能だった。
「残念ながらアマトには、敵を攻撃する武器は積まれておりません」
「ならばアマトのハッチを開きなさい、急いで」
空中に停止したアマトは、ハッチを開いた。その間にもオグマの周りの虫人は次々と倒れていった。
「オグマをここから援護する」
サリナはそう言い、小型の煙幕弾をベガとオグマの間に投げ込む。間髪入れずに、次にはベガのハッチに向けて数発のスパーク弾を発射した。彼女の持つ電子サーベルはライフルとしても使えた。大音響とともにハッチは吹き飛び、ベガからの銃声がようやく止まった。その隙にアマトは着陸しハッチを開く、しかし目前に横たわるオグマには数発の銃痕があり、彼女はすでに彼は手遅れだと知った。
「オグマ、オグマしっかりして」
虚ろな目を開けて、自分を呼ぶサリナに気付き彼は笑った。
「艦長、私はもう助かりません。これを……」
それはキャステリアの航跡データを収めたプラグだった。それを受け取るサリナの手を握るとオグマは涙をこぼした。
「不覚にも艦は反乱分子の手に落ち、我らは艦を無くしてしまった。カザト様はベガ家の姫様に戻りなされ。そしてアマネ様にもしも会えたら、爺が二人を祝福していたとお伝え……」
彼女の手を握りしめていたオグマの力は、波が引くようにゆっくりと消えていった。続けてサクヤの声がアマトから響いた。
「艦外には生存者なし、ベガの主砲に動きがあります。危険な状態です。アマトに戻ってください」
「あれは、タキオン粒子砲」
「今回はエネルギー弾ではありません」
「タキオン粒子砲は本来攻撃用の武器。まともにくらったらひとたまりもない、サクヤこのまま振り切れる?」
「そうですね地球まで、無駄なエネルギーは使えません。せっかくですからタキオン粒子砲を利用してこの星を脱出しましょう」
「えっ、どういうこと?」
「アマトの耐圧殻、そしてヒドランジア・マイ様を信じましょう」
閃光とともにベガのタキオン粒子砲が発射された。アマトは強烈な直撃を受け吹き飛ばされ、その場から一瞬で消えてしまった。
「ふん仕留め損ねたか、しかし所詮は女。たった一人で何ができる」
ベガの艦橋に立っていたのは、最後に石化の溶けた虫人「デュラン」と「レガータ」の二人だった。彼らは、「オグマ」と「ザルバ」が不在のうちに目覚めると、元は漂流していた虫人を使って、短時間のうちにベガをを乗っ取り「反乱分子」のリーダーとなったのだ。そこに意外な男が現れた。
「ベガの制圧は全て完了いたしました。現在総勢17名、いつでも出発できます」
そう答えたのは、あの「ザルバ」だったのだ。
「そうか、あと数日で『アキナ流星群』がここを通過する。それが通過後に出発する、あれをまともにくらったらひとたまりもない」
「アキナ流星群ですか……」
「ザルバ、どうも信じられないという顔だな」
「いえ、決っしてそのようなことは」
「まあ良い、『予言の書』が読めれば、わしもこんな星にいるものか。今頃きっと『サンドラ軍』として先頭に立っている」
「では、それはお告げだったのですね」
「その通り、レガータを通じてあのお方からのな。それに大流星群に遭遇してはあのカプセルロケットもさすがに粉々になるだろう」




