73.骸骨(がいこつ)
骸骨
アマトはベガの直撃を受けた。しかし、アマトの耐圧殼はその衝撃を受け止めたのだ。驚異的な外殻、だがその中のサリナは生身だ。
「タキオン粒子砲、着弾。アマト損傷ゼロ」
しかし、AIサクヤの報告に答えるものはない。
「サリナ、サリナ……」
サクヤが何度も呼びかけるが、サリナは衝撃で床や天井に何度も叩きつけられていた。内臓には折れた肋骨が貫いている、このままでは生命にかかわる。しかしAIのサクヤに何ができようか、何度もサリナを呼び続けるしかなかった。そしてサクヤの回路がついにフリーズしてしまった、そして艦内の照明が消えた。
「プゥーツ、ツー」
数秒後、起動音とともに聞き覚えのある声がアマトに響いた。
「やれやれ、また緊急事態が起きたのね。あれっ、この人は確かサクヤの従姉妹のサリナ。大変、急ぎましょう」
サクヤの停止によって「アマト・システム」内の別のフォルダが「自己解凍」し、起動を開始したのだ。新に聞こえた声の主こそ、そのシステムをアマトに組み込んだルノクスの王女だった。彼女が「また」と言った通り、アマトの危機は二度目だった。しかしそれを今語る余裕はない。
「リグル・ポワル」
モニターからは、はるか彼方の虫人の星「ルノクス」の王女、ヒドランジアの声が響いた。休眠カプセルのそばに置いてあった、コオカたちのくれたペンダントが床にコトリと落ちた。
「クッティース・ノア」
ペンダント・トップから外れた虹色テントウが床から舞い上がり、倒れたサリナの頭上を旋回した。そして羽に散りばめられた原石から七色の光が放たれ、彼女の体を包む。スキャニングが終わると、虹色テントウは休眠カプセルの側に移動し、七色の明滅を始めた。
光に呼応して「七色のストゥール」が小箱の隙間から伸び、空中の虹色テントウの羽につながった。
「メタモルフォーゼ・ノア」
ホバリングする虹色テントウが回転すると、七本の螺旋が脊椎となり多種のシナプスを形成し始めた。その「骸骨」の頭部に虹色テントウが埋没していった。それらは遠い過去に「ゴリアンクス」の「ゴラゾム」が突き止めた「ヨミの扉」を開くための古い言葉だった。
「急いでサリナを休眠カプセルに運びなさい!」
ヒドランジアの指示でその「骸骨」はサリナを抱え上げ新しい休眠カプセルの中にゆっくりと収めた。カプセルに横たわる彼女の「あざ」は眼帯とともに艦内の床に吹き飛ばされていた。カプセルが閉じ睡眠と冷凍用のガスがカプセル内に充満した。そして回復役が注入された。それが「骸骨」の「アイ・カメラ」からマイの部屋に送られてきた。
「これで、まずはひと安心」
マイは天空の月を見上げた。なっぴがほとんどのマナを使い果たしてレムリアの虫人のために作ってくれたものだ。
「ゴラゾム様のおかげです。ミーシャ、セイレが待っている地球へアマトは必ず送り届けます」
なっぴから聞かされた「ゴリアンクス」の王子「ゴラゾム」の記憶がアマトを救ったのだった。彼は虫人を助けるために「ヨミの扉」を開いたというのだった。
「リグル・ゴラゾーム・クッティース・レム・キャステリア・ポーキ」
それは〈鍵を持った『ゴラゾム』と言う名の者が、『キャステリア』に乗って来た。ここを開けてくれ〉と言う意味だ。
(なっぴの昆虫王国より)
「なんとか間に合ったみたいね、マイ」
「リンリン、夜中のこんな時間に呼び出して悪いわね」
「ううん、全然平気。マイこそ疲れたでしょう、あれからずっとここにこもりっきりで待機していたから」
「へへっ、王女って暇なの、だけど少し疲れたわ。ふうっ……」
椅子に腰掛けると彼女は額を押さえ深い息をついた。
「姉さんたち、うまくいったのかしら?」
姉のテンテンが「パピリノーラ」と「シルティ」の呼び出しを受けたのだった。
「おそらく今度は、私たちも覚悟しなきゃいけないわね」
「えーっ、懲罰かぁ」
「リンリンはいいじゃない。前科者の王女って、お嫁さんになれると思う?」
「そっかぁ、まあそんとき考えましょう」
パピリノーラとなっぴが約束した、彼らの地球に関する記憶が消去されることを拒んだ「ヒドランジア・マイ」によって、その記憶はAIサクヤの中に保存されていた。そしてなっぴに危険が迫ったとき、つまり「サクヤ」が再起動した際その記憶が彼女たち四人に再び蘇るように王国側のハニカムモニターに保存されていたのだ。




