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約束の地  作者: 黒瀬新吉
71/328

71.発射履歴

発射履歴


キャステリアに向かうサリナはアマトの中でこう尋ねた。

「サクヤ、コンピュータの更新履歴はどこにあるの?」

「航跡レーダーのデータファイルに含まれています。それはすでにベガに移されているでしょう。それよりもあのルノチウムはタキオン粒子砲から発射されたのですから、粒子砲制御パネルにあるプラグを解析すればわかるはずです」

「わかった、サクヤ。すぐに取ってくる、そして急いでベガに戻りましょう」


AIサクヤと話しているうちに、彼女はゴリアンクスの頃に戻ったようだった。そしてゴラゾム、ビートラ、アマネ、リカーナ、サクヤと過ごした頃を思い出した。

「もし、私たち虫人の生命力が衰えなかったとしたら、あのまま平和に暮らしていただろうか?」

それはわからない、彼女が知っていることといえばゴラゾムはリカーナとビートラに虫人たちを預け、この星でついに力尽きたこと、天才科学者の幼馴染「カグマ・アグル・サクヤ」はインセクト・ロイドになったこと、そしてルノクスが地球人の二人により、再び虫人たちが住める星になったことだった。


「ルノクスの恩人を無事地球に送り届けるために、王女がアマトにサクヤを乗せていたおかげだわ……」

アマトはAIサクヤの操縦により、ここまで戻ってこれたのだった。

「二人が何故石化したのかの答えが、きっとここにあるのね」

彼女はキャステリアの外部ハッチをくぐり、迷うことなく進んだ。後部にあったコックピットのドアは開け放しのままだった。サリナは部屋の中に入るとすぐ艦長席に腰を下ろした。

「粒子砲の制御パネル、これだ」

小さなピンプラグを抜き取ると、サリナは椅子を立とうとした。しかし次元モニターに映像が自動的に浮かび上がった。それを見て彼女は思わず声をあげた。


「ゴラゾム王子……」


その姿は一瞬で再びモニターに消え、二度と浮かぶことはなかった。しかしサリナはそのゴラゾムの静かな微笑みが安堵のものだと確信したのだった。

「ラスト・ミッションはゴラゾムが準備してくれていたのね、インセクト・ロイドの回収に行ったサクヤのために……」

彼女はピンプラグを握りしめるとキャステリアを後にし、アマトに戻り解析を始めるようにサクヤにつないだ。それはほんの数秒だが、サリナは胸の鼓動が高鳴るのを覚えた。やがて彼女はサクヤから結果を聞かされた。


「ピンプラグの解析を終了しました。ラスト・ミッションはゴラゾム王子によってプログラミングされていました。アマトに向けて粒子砲が発射されたのはルノチウムの補給のためです。私が近づくのに呼応してキャステリアのシステムが稼働するようになっていたようです」

「やはり、ゴラゾムはサクヤのことを気にかけていたのね」

ゴラゾムは、インセクトロイド・シュラを回収するために、単身で外宇宙に飛び出していったサクヤの帰還を待っていた。しかし刻一刻と星の危機は迫り、星の虫人をキャステリアとレムリアに乗せ、ついには新しい移住先を探す旅に出ることになった。彼は外宇宙へと向かう途中、各方面に出発したまま消息を絶った「先発隊」の艦に会えることを最後まで願っていたのだ。


「他に漂流船はいなかったのかしら?」

念のため、サリナはサクヤに粒子砲の発射履歴を確認させた。

「キャステリアのタキオン粒子砲は、アマトの前に一度発射されています。そのためにプログラミングされていた艦名は『ジガ』艦長は『アマネ・ゼロ』となっています」

「おお、なんてこと。ゴラゾムはアマネにもルノチウムを……」

そう聞いてサリナは更にサクヤに確認した。

「サクヤ、それはいつのことだかわかる?」

「はい、地球時間でいうと2年、ゴリアンクス時間で10年ほど前のことになります」

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