64.報復
報復
太陽光によって月のヘリウム3は「ルノチウム」に精製される。その放射線量は一定になり、月の地下に溜まる。「ルノチウム」を移送するために「月面基地」と「受信基地」が設置された。月面基地は月の表側に設置され、地球側では極に近い場所が選ばれた。気温の変化が少ないことはもちろんのことだが、地軸に近く位置情報の変化の少ないことも「オロス」に決定した理由だ。オロスから、陸路では「シベリア鉄道」に沿って作られた「エア・シューター」を使いヨーロッパへ、海路で北南米、空路では一旦オーストラリアに送られそこから南半球の国々へと送られることになっていた。太平洋上で建設中の「人工太陽」が稼働すれば最終的に「ジーザス・コア計画」は終了し、小型の「人工太陽炉」が各国用に量産される。
オロスで数回に及んだ移送試験も成功を収め「ヘリウム3」はこうして地球を救う代替エネルギーとして期待された。
「この計画の重要な点は、月面基地からの『ルノチウム照射角度』にピンポイントの正確性がなければならないということと、宇宙空間では流星群が頻繁に起こり、地球に届くはずの隕石の多くを月が防いでいるという事実だ。正確な発射装置だからこそ、万が一巨大な隕石の衝突でもあればその照射角度が僅かに狂うのだ。」
実験後にも多少の隕石の衝突があった。それを修正する月面基地の交代要員とともに今回月に向かうのが亜矢の父「橘雄馬」である。
「大気圏外からエネルギー弾が発射されました。迎撃システムを作動します」
研究所に警戒信号がともった。
「さすがにマイトのAIなら当分ここは囮になる。さあ、もう話は終わりだ。コレッタの言う通りに私は地下司令室でキラー衛星を迎え撃つ準備をしよう。リンに会うまで死ぬつもりはない、二人とも安心して亜矢くんと合流したまえ」
日高の娘「リン」はソムテルに来れなかった。彼女は直前にサンパウロのホテルで「テロ事件」に巻き込まれた。幸い命に別状はなかったがひどいショックを受けたらしく、外出許可が下りないとアカデミアから連絡が届いたのだ。
スノー・バギーはソムテル研究所を見下ろす丘に止まっていた。趙とサラが数日前に見た景色はほんの数時間のうちで消え去っていた。二人が研究所から出た後、キラー衛星からの執拗なエネルギー弾に少しづつ迎撃システムは破壊されていった。そしてついに大爆発を起こし地上の設備は全て消失してしまった。
「所長……」
キラー衛星のエネルギー弾は止まった。沈黙したソムテルの地下からは、日高の言ったような迎撃の動きはなかった。
「大丈夫、所長は約束を守る。さあ今度は僕たちの番だ。ほらまたあいつらがやってきたぞ」
黒いドローンが数機、ソムテル上空の煙をかき混ぜながら現れた。
「結構大型のやつだな。やはりバギーにして良かった、林の中までは追って来れないだろう」
ケイジはスノー・バギーに乗るとシートベルトを締めるようにコレッタに促した。
「少し揺れるけど、寝れたら寝てていいぜ」
「そこまでケイジの腕、信じていないからね」
「はははっ、まあ見てなって。およそ動くものはなんだって操作の腕はプロ級さ、コレッタは亜矢と連絡を取り続けてくれ。それにしてもマイトのやつは今どこで何してるんだ、こんな時に……」
「きっと実家で稽古してるんでしょうね」
「揚羽流師範だからな、ご苦労なことだ」
「あんな華奢な体のくせに、相手をポカスカ殴るなんて出来るのかしらね」
「古武術と喧嘩の区別もつかないお前にはわからないよ」
「何よ、お前って気安く呼ばないで」
「悪い悪い、でもAIの改良はできているみたいだな、左を見てみろよコレッタ」
「なあに、あっ!」
スノー・バギーが研究所を見下ろす丘から数分離れたころ、進行方向の左手から数発の「ステルス・ミサイル」が発射された。キラー衛星の正確な位置を計測した、日高の発射したものに間違いない。
「良かった、所長は無事に違いないわ」
キラー衛星はそのミサイルよって破壊されたのだろう、二人はソムテルやミサイル基地に向かって、大気圏外からの報復攻撃がなかったことでそれを確認した。
「キラー衛星消滅しました、これより研究所は閉鎖いたします。今後はモンゴルに全てのデータを移管いたします。バスコードxxxxx、IDはaaxx542……」
キラー衛星の破壊が終えた報告がコンピュータから終わると日高は研究室を出る準備にかかり始めた。モンゴルでのコンピュータへのパスコードとIDを記憶するその途中でこうつぶやいた。
「そうか、Dr.マトバは外宇宙から『耐圧殻』のデータを地球へ送ったのか、アマネがその送信に力を貸したのに違いない。そしてDr.マトバと別れた彼は、月に立ち寄り闇の石に取り込まれたのか……」




