62.インセクトロイド・ゼロ
インセクトロイド・ゼロ
「カノン」は二人乗りのジェットヘリだ、オロスまでは3時間かかる。機内はオートクルーズを解除していたため、副操縦士が必要だった。計器も全てが信用できるとは思えない、動作系統はマニュアルに切り替えたものの「有視界飛行」はケイジにとっても久しぶりだった。
「マニュアル操縦はアガルタへ潜った時以来だな、深海と違い機密性は不要だが上空の気温は低い」
彼は薄着のままカノンに乗ったコレッタに気づき、機内のヒーターを入れた。
「サンキュー、ところで研究所までどのくらいかかるかしら」
「そうだなぁ、3時間かな。吹雪けばもう少し余分にかかるけど」
カノンでは成層圏までの高度が取れない、「アマネ」の情報は天候によっては届けるのに余分に時間がかかる。
「コレッタ、所長と亜矢に僕たちがカノンで向かっていることを知らせておいてくれ」
「了解!」
「亜矢はパリ・アカデミアに今はいないみたいよ」
素早くコンタクトを取りながらコレッタがそう答えた。
「そうか、続けて何度か連絡をしてくれ、そうだコレッタその間それを再生してみてくれないか」
「そうね、途中までしか見てなかったからね」
小型のモニターではあったが、機内のモニターにメモリーのデータがダウンロードされた。アマネは「ジガ」とともに外宇宙から航行する中、虫人の救出と襲いくる流星群の回避を続けていた。立ち寄る星の中には二人にとっても未知の「知的生命体」が存在する惑星もあった。その言動には艦長として一点の曇りもなかったのである。
長い航海のうちにクルーは数人に減ってしまっていた、「艦長日誌」によるとアマネは月に着く前、火星に立ち寄りそこでも探査を行っていた。そして石化した虫人を一体収容する、その虫人はアマネ達とは少し違っていた。それは「リリナ」に似せて作られた人工生命体「インセクトロイド・サクヤ」だった。
「これは、カグマが造った「インセクトロイド」とは違う。実在していたのか、太古のインセクトロイド……」
ジガに収容されたインセクトロイドは、長い間のうちにすでに石化を終えていた。カグマとは「カグマ・アグル・サクヤ」の事である。彼女は天才科学者としてのちに「インセクトロイド・シュラ」を作り上げるもその回収、破壊を「ゴラゾム」に命じられるのである。そのインセクトロイドの原型とも言えるものが「マナ」「ヨミ」に続く創造の神「マルマ」により作られた「人口生命体」だとゴリアンクスには伝わっていた。それは幼き日にサリナとともにカグマから聞かされた古い伝説だったのである。
「艦長、あのインセクトロイドの石化を解くつもりなのですか?」
「そのつもりだが、不可能ではあるまい。メルサー」
副艦長「メルサー」はアマネの真意が理解できなかった。
「しかし、そのためにはもう残り少ないルノチウムを使用します。それにたとえ石化を解いたとしても、インセクトロイドが虫人のように再生を始めるかどうかは私にはわかりません」
「それで?」
「これ以上ルノチウムを無駄に使えば我々が母星に帰還できなくなります……」
「帰還か、ふっ、すでにゴリアンクスは消滅したかもしれないのにな」
彼が危惧した通り、この頃ゴリアンクスは消滅し、帰るべき母星を彼らはすでに無くしてしまっていた。
「我らはもう滅び去る運命なのかも知れない、メルサー。お前も見たであろう、仲間の艦の中には石化が進み、崩れ落ちた土塊のみ残る艦も多くあったではないか。たとえそれが人工生命体であろうと、ジガに収容した以上は我らの仲間に加えてやろう」
「しかし、肝心なルノチウムが足りますかどうか……」
「……そうだな、かといってルノチウムを使い切ってしまい、こんな焼けた赤い大地に留まる訳にもいかぬな」
「艦長、レビエル入ります」
男が駆け込んできた、通信士「レビエル」はこう報告した。
「艦長、第三番惑星の衛星に、大量のルノチウムが確認されました」
「間違いないか。レビエル」
「間違いありません、ルノチウム反応です!」
そう嬉しそうに報告した彼の言葉を聞き、アマネは頷いた。
「その衛星の名はなんという?」
「はっ、ルナという名でございます」
「ルナ?」
「はい、第三番惑星から早くに分離したようです」
「我らの母星とルノクスに似ているな、レビエル」
「はい、その衛星にルノチウム反応がございます」
「ルノクスに似たルナにルノチウムがあるとは……」
メルサーもそう思わずにいられなかった。
「不思議なことでございます」
「よし、ルナまでの正確な距離を調べろレビエル。ルノチウムの残量を調べ、使えるだけあのインセクトロイドに使うのだ。メルサーこれでいいな」
「彼をなんと呼びましょう、艦長」
「そうか、不自由か。よし私の名をやろう、ゼロだ」
「ゼロ……」
「そうだ、今日より名を『インセクトロイド・ゼロ』と呼べ」




