61.キラー衛星
キラー衛星
ジグが「あんなもの」といったのは真紅の地色に、黒い「甲虫」の象形を刺繍した「艦旗」だった。それはジガが廃棄されたことを示すものだった。放り出された旗をちらりと見てカグヤはジガの「航跡レーダー」を確認した。当然それは消去されていたが彼女がアクセスコードを解読し、復元プログラムをタイプするのにそれほど時間はかからなかった。
「レーダーによると、アマネたちはこの艦で外宇宙の惑星から出発している。それが「ゴリアンクス」という虫人の星ね。そしてルナに来るまでいろんな惑星や銀河を通過している。その途中何度も寄り道をしているみたいだわ、これは何?」
カグヤは、鍵の壊された机の引き出しの奥から、艦長日誌を見つけてそれを開いた。
「……ハサット星に着陸。漂着艦名『ガテンド』艦内に生存者ゼロ、石化した虫人5体を本艦に収容。×××付近のブラックホール、回避成功。左舷に軽い損傷、航行に影響なし。」
「これがアマネの声、そしてジグ、この写真の中央がアマネなのね?」
裏表紙に映し出された写真は、彼がゴリアンクスを出発する時のものだろう。ジグは小さく頷いた、その写真には若きゴラゾム王子、リカーナ王女、ビートラ王子が写っていた。アマネの右横には、のちにインセクトロイド「シュラ」を作り上げた天才科学者「カグマ・アグル・サクヤ」そして左隣に立つのが眼帯をした女性「カザト・ベガ・サリナ」なのだが、ジグにはアマネ以外に面識はなかった。
「ああ、しかし他は知らない。多分虫人の王家の者たちだろうな、この日誌によれば、彼は不運にも力尽きた仲間たちをこの艦に収容していたようだ。彼もまた過酷な任務だったろうに……」
「アマネ・ジガ・ゼロス」それが彼の本来の名だ。彼の任務は、ゴリアンクスの虫人が移住するための惑星を一刻も早く探査することだった。カグヤが艦長日誌を閉じ、手のひらを表紙に重ねて置き、両目を閉じた。一瞬日誌が光り輝きそしてそこに書かれた過去がモニターに浮かび上がった。彼女はそれを「航跡レーダー」に重ねてジグと確認したのだった。ジグはそれを見て唸った。
「お前、そんなことができるのか」
「私のAIは亜矢譲りだからね、でもまだ完全じゃあないわ。亜矢がアマネと地球人がどこかで接触しているようだって連絡してきたの。アマネの日誌を再現してみましょう、モニターの映像はコスモアカデミアの二人にも送られているから、きっと何か解るはずよ」
「本当にここにラビアンがいるようだ……」
「ふうん、ラビアンてきっと美人でしょうね」
「まあ、もとは耳の長いウサギだがな」
「ウサギ……」
「緑色のロップイヤーさ」
ルナから転送されたアマネの情報はまずコスモアカデミアの「大型ハニカムモニター」に映し出された。そして随時デジタル処理された映像は「パリアカデミア」、オロスの「ソムテル研究所」に転送されていった。そしてそれを浮島「バゴス」で傍受しているものがあった。インセクトロイド「ゼロ」と「アマネ」だった。
「あれを復元しただと、この星にも優秀な奴らがいるという訳か。面白い、知りたければ知るがいい。まあ、知ったところでその頃はこの星はすでに手の施しようもないが。だがあの衛星は少し邪魔だ、仕上げに入る前に片付けておくか……」
ゼロがそう言うと月の軌道上の「キラー衛星」を操作した。わずか30秒で地球への通信用の衛星は砕け散った。「ケイジ、衛星が破壊されたみたい。通信が途絶えたわ」
「カグヤの送ってきたデータはどのくらい受け取った?」
「60%そうね遅れてくるものがあるから、65%くらい」
「コレッタ、届いた分だけで構わない、すぐコピーしてくれ」
「ケイジ、まさかこれ持っていこうって考えてない……」
「正解。奴らはこの通信を傍受しているからな、アナログが一番安全だ」
彼はそれを直接届けるつもりだった。
「カノンが使える、準備できたわ」
コレッタは手早くメモリーを入れたウエストバックを腰に付けた。それを見てケイジは驚いた。
「コレッタ、お前まさか一緒に行くつもりなのか」
「行くに決まってんじゃん。通信が途絶えたのはキラー衛星の仕業よ、ケイジもここが安全だと思っている訳じゃあないでしょう」
「ああ、すぐに他所に避難しないと危険だが……」
「まさかここにか弱い女の子を置き去りにするつもりなの。第一AIを解除したカノンは一人じゃ動かせないわよ」
「……了解、すぐに飛び立とう」
「こういう時だけ頼りになるわね、ケイジって」
「だけはないだろう」
ジェットヘリが離陸した直後、キラー衛星から富士市の一点に向けてレーザー光が射出された。




