60.「はねっかえり」
「はねっかえり」
「よし、早速彼らの残したゴミ山に行ってみよう」
「ゴミ山……」
「手がかりは、きっとあるさ」
しぶしぶ階段を戻るカグヤに地球から連絡が届いた。カグヤが完全に起動したことが「コスモアカデミア」の二人にも伝わったのだ。
「カグヤ、こちら地球のコレッタ」
「同じく、ケイジ。ハッピーバースディ、どうぞ」
「初めまして、こちらカグヤ。これからアマネ・ゼロについて調査します。私からの報告は常に亜矢にシンクロしています。そちらにはまた詳細がわかり次第連絡します。以上」
それは仲間との短い通信だったが、彼女の孤独な調査を勇気づけるには、十分だった。
「ようし、ゴミでもなんでも調べてみるか!」
「そうそう、その調子よ、カグヤ」
ルツはそう言って軽く笑った。城の裏側にはアマネが廃棄した、巨大戦艦「ジガ」があった。艦内に入って行く二人をルツは一言も言わず見送った。
アマネの過去を調べるため、古い艦内を進むジグは先を行くカグヤに頼もしさまで感じ始めていた。
「カグヤは亜矢よりもあの『はねっかえり』に似ているようだな」
「はねっかえりですって?」
「そう、橘香矢のことさ」
「ジグは香矢のことも知っているのね」
「もちろん、香矢はルツがラビに授けた人間の姿だからな」
「じゃあ香矢もあなたと同じ力を持っているの」
「いや、それ以上さ。ルツが地球の未来までも託したんだからな」
ー「蛹化」のために由樹の体内に浸入した「シノ」は、「選択」をしなければならなかった。「亜矢」の姉「香矢」になる予定の「卵子」は、発生途中で消滅していく。「シノ」は健康な「亜矢の卵子」に寄生し、彼女の寿命を20年縮めるか、消滅しようとする「香矢の卵子」に寄生したまま、ともに滅びるかの選択を迫られていたー
そしてマスター・シード「シノ」は地球を離れることに決めた。
「シノ」は少女に向けて青い光を放つ。その光は少女の身体を包み込んだ。そして「シノ」は別の少女「ルツ」の顔でこう言った。
「私は、あなた。あなたは、私……」
ラビがしばらくして口を開いた。
「私は、どうすればいいのでしょう?」
「マスター・シードとして、この星に残るのです」
「シノ様、それは私にとって永くそしてとても辛い役目です。すぐに私を知る者が誰一人もいなくなる……」
「そう、その代わりにご褒美を一つあなたにあげましょう」
「ご褒美?」
「私がコピーした香矢の遺伝子情報だけでは、彼女を再生することはできない。その代わりにその身体にあなたの情報をコピーしましょう。ほんの短い間ですが、人として生きてみなさい。ただ覚えておくのですよ、人間が未来への『希望』をすっかり無くした時には、すぐにでも私を呼ぶのですよ」
「その時には、シノ様を呼ぶ……」
ラビの言葉にシノは柔らかく澄んだ声で答えた。
「もしそうなれば、最後の『マスター・シード』あの月を目覚めさせましょう」
「……再び、絶滅と復活が繰り返す」
首を振り、ラビはすぐにシノに向かって力強く答えた。
「その日が、永遠に来ないことを。シノ様」
「そうね、私もそう思うわラビリンス……」(満月少女亜矢より)
「あの『はねっかえり』はシノ様の力で、地球の新たな『マスター・シード』となった。その少女が香矢なんだ、亜矢の姉として生まれる事のできなかったはずの少女なんだよ」
地球には、シードに深く関わったものが何人かいるはずだ。彼は「ラビ」についてカグヤに話しながらそれを思い出していた。
「そうだ、地球にはラビの他にもシードに深く関わったのがまだいる。『Z会』という組織のエージェントだった『趙』、その娘『サラ』そして俺が寄生してた『日高』という男……」
「じゃあ、きっとアマネたちにも負けないわね」
「いや、彼らのシードはすでにルツが抜き取っている。ラビリンス以外のシードは存在しないはずだ。もっともサラのシードのように俺の知らないシードがあるかもしれないが……」
「よし、ジガの艦長室はここだ」
「手がかりがあるといいけど」
「そうだな、不思議な事にこの部屋のものはほとんど持ち出していない。ほらあんなものまで残ったままだ、かなり慌てて出発したようだ」
「本当ね、なんでそんなに急いだのかしら」
「さあな、この艦の修理を途中でやめ、探査用のロケットで地球に向かったのが不思議だったが、それについても何かわかるかもしれない。うん、これがメインスイッチだ、起動するといいが……」
「フィーンン……」
「シリウス型エンジン」の振動とともに、ジガの艦長室の「インジケーター・ランプ」が緑色に輝いた。
「早速、コンピュータにアクセスしてみましょう」
カグヤはデスクに座り「ハニカム・モニター」の電源を入れた。




