45.更新データ
更新データ
「ジーザス・システム」の実験は成功し、人類に新たな希望を与えた。後は「ヘリウム3」の貯蔵庫と「太陽炉」の完成そしてオロスからの輸送ラインの確立だけとなった。日高はオロスでの実験データの処理を終え、メモリーカードに保存した。
「アマネ、彼は一体何者なのだ。なぜアカデミアのことを知っている。趙の昔の仲間にもアマネという男はいなかった」
突然現れた彼を日高はまだ信じていなかった。日高は趙の昔の仲間を使い、アマネについて調べていた。
アマネの計画、月面の「ヘリウム3」を地球に移送、太陽炉を建設してそのエネルギー源とする。いわゆる「ジーザス・システム計画」を聞かされた時、橘博士はまだそれに必要な「新耐圧殻」の存在を知らなかった。
「彼は、新しい耐圧殻の分子配列は、アカデミアにすでにあるはずだと、俺に告げた」
博士が言う彼とはもちろん「アマネ・ゼロ」の事だ。
「俺は半信半疑だった。井上教授が研究していた耐圧殻は教授がアカデミアを退官した後、優秀な教え子たちによって実証されている」
「ああ、海底数万メートルの水圧に耐えたというあれか」
「そう、最後にはその耐圧殻のカプセルは、宇宙空間へ消えたことになっている。そして、それを操縦したのはアカデミアへ飛び級で入ったばかりの学生だったんだ」
「しかしそれが事実としても、その耐圧殻が宇宙空間まで持つとは思えないが」
日高はそう率直に言った。
「そうさ、俺もそう思う。宇宙空間では何が起こるかわからない、航行中の修理や改良も必要だろう。それに燃料の問題だってある、無茶にもほどがある。その学生のしたことは自殺行為だ、俺はそう思っていた」
「思っていた、今は違うのか雄馬?」
「彼は証明したんだよ、井上教授の耐圧殻がどれほど優れているか。そしてその問題点をクリアしつつ外宇宙まで航行していた」
「なぜそう思う、連絡でもあったのか?」
「海底探査の際の実証データがアカデミアに保存されている、それはすぐにヒットした」
雄馬は日高に「amato」と表題されたファイルを手渡した。耐圧殻の実証データをプリントアウトしたものだ。それを手に取り日高は読み進めていた。
「なるほど、深海探査艇は定員四名か。深海でこれだけの性能があれば、理論的には宇宙でも十分耐え得る訳だ。おや、これはどういうことだ?」
日高は読み進めて行くうちに高揚した声を上げた。
「気付いたようだな」
「……更新、されている」
「そう、井上教授の耐圧殻は、改良すべき点を指摘されている。そのための新たな分子配列が追加されている。宇宙空間を航行した実証データとともに、ホストコンピュータ内のファイルは更新されているんだ」
「ありえない、宇宙からアカデミアのホストコンピュータにアクセスしたというのか」
「それ以外に説明がつかない。日高、改良した耐圧殻は太陽炉、パラボラに使える最適のものだ。そしてそのデータはつい最近更新されている、つまりそのカプセルはまだ宇宙のどこかを航行しているということになる」
「……」
日高はすぐには信じられなかった。アカデミアのホストコンピュータにアクセスできるのは限られたものだけだ。「地球以外からデータを送り、元のファルデータに追加など出来るものなのか。おや、ここに書かれた名前は?」
彼は閉じかけたファイルをもう一度見直した。雄馬がデータ更新した者の名前を諳んじた。
「地球歴2xxx年xx月xx日。日本アカデミア、マトバ・タイスケ、マンジュ・コナツ。協力者、アマネ・ゼロ……」
それを聞き日高が独り言のようにつぶやく。
「マトバ、マンジュの二人は、井上教授から、すでにDr の称号を贈られた最年少のドクターだ。しかしなぜアマネが協力者になっているんだ。彼が協力者だとしたら、一緒にいたはずの二人は、今どこにいるんだ。そもそも彼と二人はいつ、どこで出会ったんだ。アマネ・ゼロ、彼は一体何者なんだ……」
「その答えは哲生がまた教えてくれるさ、とりあえず実験は成功した。アマネが言った通り代替エネルギーを人類はようやく手にした。彼がこの地球を救ったことに間違いはない」
それを聞き、日高も小さく頷いた。




