44.銀のハーモニカ
銀のハーモニカ
「君の理論には、まったく関心させられたよ」
地球エネルギー機関の「緊急会議」が終わった時には、アマネの提案は満場一致をみた。地球の代替エネルギーとして月から「ヘリウム3」を持ち込む方向に舵は切られた。雄馬もまた「ヘリウム3」を使うことを考えてはいた。しかし彼が質問した通り、実際の地球への移送システムが浮かばなかった。
「君の設計通りで作れば、『ヘリウム3』を光粒子に変換できるに違いない。問題は耐圧穀とパラボラへの誘導システムか……」
「その通りです、博士」
人工太陽の研究は以前から進んでいたが、まさか「月」のように衛星をもう一つ持つ訳にもいかない。そのために地球に建造する「太陽炉」にはとてつもなく丈夫な「耐圧穀」が必要だった。
「そうです、耐圧殻で覆う太陽炉は太平洋上に建設すべきものでしょう。パラボラ受信基地は安全性を考えると……」
「北極か南極だろうな」
「ですね、それに地上のパラボラへ正確に光粒子を誘導しなければなりません。そのシステムには高性能なAIが不可欠となります」
「わかった、アカデミアは総力を挙げてそのAIを開発しよう。期限はひと月、安心してくれミスター・アマネ」
「ソムテル財団の日高は雄馬から、その会議の話を三ヶ月前に聞かされた。それから世界各国はその技術力を結集して月面基地、光粒子変換装置、地上受信施設、ヘリウム3貯蔵庫などの開発、建設を開始し、完成を見た。そして本格的な実験を成功させたのである。もちろんそれにはアカデミアの誇る二人の天才「韮崎甲」「揚羽舞人」なしでは不可能であった。オロスから日本に戻る途中、コオもまた「ジーザス・システム」の成功を確認し、それが地球の枯渇するエネルギー問題を解決する唯一の方法であることを信じてやまなかった。
「ジーザスは成功した、この星のエネルギーはこれで無事に月から送られる。長官は次に俺に何を作れというのだろう」
コオは手の中の銀のハーモニカを見つめた。そのハーモニカ、元はターニャのものだった。
「あいつはそんなこと、もうすっかり忘れていたな」
もし覚えているなら、ハーモニカを見てきっと何か言うだろうとコオは彼女の反応をうかがったが、幼稚園の頃日本にいたことさえ話には出なかった。ましてやほんのひと月遊んだコオのことなど。
「それにしても、あいつらは何を企んでいるんだ。それにあの人魚は一体?」
彼が言うあいつらとは、ゼロ率いる「ジクロス」そして「エヴァ」と名乗った人魚もまた「シャーレ」を狙っていた。やはりあれは彼女に預けておくべきではなかったのだろうかと彼は後悔した。
「ミスター・コオ、そろそろ東京が見えてきました。見てください、フジヤマには新しく雪が積もりましたよ」
「本当だ、上空から見ると格別だね。外国人がまた日本に来たくなる気持ちがわかるよ」
彼はそういうとそのハーモニカに追加した機能、「ブレード」を出して手入れをした。コオは何でも改造してしまう、機械を分解し、大抵のものは五分の一程度の重量にしてしまう。長官は彼がその自在に飛び出すブレードを作ったところに目をつけたのだ。
「そういえばあいつらにもこの成功を教えてやろう。確か東北に行っているはずだ、えーとこれか……」
コオはウエストバッグに入れたメモを開いた、彼の友人たちのスケジュールが記入してあった。
「秘密保護のために、アナログだな。ここばかりは」
そういうと、ハーモニカもバッグにしまおうと彼は手に取った。
「あれっ、なんかいつもより輝いてるような……」
彼の大切にしているハーモニカはよく見るともう一皮むけたようにさらに輝いていた。
彼女はとっくに気付いていた。港でコオが吹いていた曲は、優しかった日本の少年に向けて彼女が別れ際に吹いた曲だったのだ。




