42.代替エネルギー
代替エネルギー
枯渇した石油に変わり、人類は発電するためのエネルギー源を模索した。原子力の安全性に疑問を持つ者は、自然エネルギーの狂信者となる。太陽光、風力、水力。それらはしかし都心に建設などできない。結局のところ「発電はどこか他所でやれ、電気だけよこせ」というエゴイズム以外の何物でもない。それで深夜のネオンがほんの少し減っただけで「集団ヒステリー」を起こすといった具合だ。それは日本以外の先進国でも似たり寄ったりだった。電気に変わるエネルギーは当面考えられなかったのである。希望を持ち新エネルギーを作り出す試みもあったものの、既に残り時間は無くなりつつあった。日本のエネルギー省は海底のシェールガスを求め、公海の海底をくまなく調査し、眠る大陸「アガルタ」を発見した。しかしそこに埋蔵されていたシェールガスはわずかだったため、順次発電所の発電量は統制されることになってしまった。都市機能の分散、都市に集中する人口抑制、個人の電気使用量の制限、24時間営業の規制、そうしたまともな発議は、それらにぶら下がる利権とエゴイズム、加えて怪しげな「市民団体」の名の下に次々と反対された。中には発議さえされず、片隅に追いやられた物さえあった。そう、時はすでに遅かったのである。地球エネルギー機関は緊急会議を繰り返し開催したが、何の手立てもないまま時間だけが過ぎていた。そこにオブザーバーとしてある男が招待された。
「今日は、まず最初に彼を紹介しよう。ミスター・アマネだ」
「はじめまして、みなさん」
会場の中央でそう挨拶したのは黒いスーツの上からでもわかるほど、異様に痩せている男だった。彼は歓迎の拍手が終わるとさっそく本題に入った。
「私がお持ちしたのは代替エネルギーについての提案です。みなさん、結論から言えば、もはやこの星にはない。代替エネルギー、いや新エネルギーを探すとしたら地球以外に目を向けるべきです」
「地球以外に?」
数名の代表者が同時に声をあげた。
「そうです、新しいエネルギーは地球に最も近い月に豊富にあります。それをエネルギー源として人工太陽炉を建設するのです」
「人工太陽を作るというのか、それも月からエネルギーを持ち込んで……」
「その通りです、月の表面には膨大な『ヘリウム3』というガスがあります。それを地球に持ち込み太陽炉で燃焼させる、その人工太陽は今後数万年は十分使うことのできるエネルギーとなるのです」
ざわめきの中、各国の代表が発言した。
「ミスター・アマネ、あなたの言う通り月に『ヘリウム3』が豊富にあるのは事実だが、それをどうやってこの地球に持ち込むのかね。『ヘリウム3』は気体だ、野菜や肉とは違うのだよ」
「まさか、バキュームカーを使って、ガスを吸い込むわけにはいかんだろう」
少しムッとして、一人の男がその得体の知れない男を睨み付けた。しかしアマネは落ちつきはらい、男を見据えてこう言った。
「あなたは日本の方ですか、では遠隔操作用のAIの開発は簡単でしょう。それにアメリカ、ロシア、中国。先進国を名乗る国々の力、宇宙開発の技術力を結集すれば、月面に新たな基地を建設するのは、決して難しいことではない。そうではないですか」
一同はそれぞれ、各国の代表と顔を見合わせた。そしてそれが落ち着いた頃、会場の明かりが消え「立体映像」が浮かんできた。それはすぐにでも建設に掛かれそうなほど緻密に書かれた設計図と、巨大なパラボラのを備えた受信基地のコンピュータ画像だった。それを見て先刻の日本の代表が椅子に深く掛け直した。
「詳しく聞こう、そのシステムについての話を」
アマネはにっこり笑ってその男に答えた。
「ありがとうございます、ミスター・タチバナ」




