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約束の地  作者: 黒瀬新吉
36/328

36.コオ

 コオ


「……俺は」

コオはターニャの問いに応えようとした。そこにパトカーが一台到着した、あれだけの騒ぎと死人も出ている。このままで済むはずはない、彼はさっき協力してくれた男にターニャを任せた。

「彼女は無関係だ、家に返してやってくれ」

「わかった、なあにあいつらはみんなお前の味方だ。警察なんか怖くない」

「いや、もうこれ以上騒ぎを大きくしてはダメだ。数日取り調べられて終わりさ。死体も犯人も消えてしまったからな」

「それくらいならいいが……」

男は思った、コオの言うように簡単にはすみそうはない。だいたい「ワニ人間」の話なんか持ち出した途端、別の施設に入れられるだろう。


そこにパトカーから降りてきた警官が彼に銃口を向けた。

「連行しろ!」

両腕を抱えられて彼はパトカーに押し込まれた。

「コオ、釈放されたら、家によってね。町の酒場が私の家よ」

そう言い残し、ターニャは男に手を引かれ、集まってきた野次馬の群れの中に消えた。


「おい、警官はどこへ行った。見かけない顔だが名前は何て言う?」

「コオ、日本人だ」

「日本人、こんな田舎の港に何しに来た」

「観光旅行を兼ねてね、オロスのアカデミアに春から入学するもんでね」

「嘘をつくな、お前どう見ても中学生だろう」

「あーあ、日本人は若く見られるけど、れっきとした高校生。それにアカデミアは飛び級なんですけど……」

彼は、アカデミアへの高校からの「飛び級」証明を取調室で提示した。


「どうやらこれは本物だ、お前が港にいた理由はわかった。だがあの警官たちはどこへ行った。三人はどこへ行ったんだ?」

「さあ、俺は暇つぶしに倉庫のフォーク・リフトの調整をしてたもんで、知らないな」

「フォーク・リフトの調整だと、バカ言えあれを使うのは猟期以外はほとんどない。それに燃料さえ入れればすぐ動くようにしてある。そんなものは必要ない」

「あーあ、素人だな。ギアオイルだって定期交換しないとすぐぶっ壊れるぞ。まあパトカーだって外国産だからな、この国は……」

気分を損ねたらしい。

「お前、バカにしてるのか。侮辱罪で拘留してやろうか」


さすがにこれは少し調子に乗ったと彼は思った。

「すみません、でも本当に知らないんです。まるでどこかへ消えてしまったようです。まさかそんなことがあるとも思えませんが」

もう一人の取調官が、別の質問をした。

「あのモリで喧嘩していたらしいが、相手は誰だ」

「さあ、俺は喧嘩は素手でするから、あいつらに聞いてくれ」

「あいつらは、酒に酔っただけだと言っている。全く疑わしい……」


取調室の扉が開き、一人の紳士が入ってきた。

「未来ある学生を二人がかりで尋問する国に、いつからこの国はなったのかね」

「なんだ、お前は。勝手に入ってくるな、取り調べ中だ」

「私が通した、本件は世界政府が関与している」

「署長、わかりました……」

「世界政府……」


紳士の運転で警察署から黒い車が出発した。

「コオ、なかなかどうして君は強いな」

「見ていたんですか、示土(ジド)長官」

「ああ、もしもの時は私が出て行こうとしていたのだが。その必要はなかった」

「データ以上に手強い相手です。奴らが蜂起すれば人間など」

「奴らは蜂起などしない、人間たちの自滅を見越しているからな」

「自滅?」

「そうだ、人間は勝手に滅びの道へと進んでいくということさ。奴らは人間の不安を煽ったあとで、希望を一つずつ潰しさえすればいいのさ」


「ところで、ターニャには話したのか?」

「家に呼ばれましたが、どうしましょう」

「あはははっ、なかなか積極的じゃあないか。天才エンジニアでしかも、アマチュアボクシングのチャンピオンの君らしくもない」

「あの子はアカデミアに入るらしいです、これも長官が?」

「さあ、俺は知らないな。君もそうだがアカデミアにはコネは通用しない。目指すものが違うのだ。君も彼女も実力を認められたということだ。自信を持つがいい」

「俺の場合、こっちの方ですか?」

コオがシャドーの構えをして拳を握った。

「あはははっ、そうかもしれんぞ」


ルームミラーの中で、片方のガラスにスモークの入ったサングラスをかけた紳士が笑った。

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