32.黒服の正体
黒服の正体
「こいつ、とんでもない馬鹿だ、俺たちに叶うと思っている」
後方に倒れた黒服が体をゆっくりと戻すと、そう言って笑った。後の二人も近づいてくる、ドアが開き黒服のリーダーが車から降りた。
「あまり、目立つことはするなよ。シャーレがこちらの手に戻ればいいんだからな」
「死なない程度に、こらしめてやりますよ。そのあとはいつものようにお願いします。リーダー」
「こいつの受けたダメージは回復しないぞ、いいかお仕置きはほどほどにしておけよ」
「わかってます、まだその時ではない。そうでしょう、リーダー」
リーダーの男は軽く頷いた。そこに白地に青いラインの入ったパトカーが入ってきた。港湾作業員が警察に一報したに違いない、拳銃を構えて黒服に静止するように警官が命じた。
「おい、何をしている、ここは車両進入禁止だ。そのままこっちをゆっくり向け。いいか両手は上に上げたまま、ゆっくりだぞ……」
黒服たちは、警官の方に向き直った。それを見物しようと数人が近づいてくるのも見えた。
「チッ、少し面倒なことになった、仕方ない。お前たちあいつらを先に始末しろ」
「始末していいのですね、リーダー」
「警官もちょうど三人いる、一人ずつ喰っちまおうよ」
「そんな拳銃で俺たちがどうにかなると思っているのか、全く原始人は救えない」
「俺たちの恐ろしさを見た後でなら、こいつらも素直にシャーレを渡すだろうよ」
三人の黒服がサングラスを外した。それを合図に数発の銃声が響き、警官が黒服を射殺した。
「うわわわっ!」
一人の警官が、後ずさりをしながら、仰向けに倒れた黒服に再び銃口を向けさらに数発の銃弾を打ち込んた。
「ふん!」
ゆっくりと立ち上がる黒服の体から、銃弾がバラバラと灰色のコンクリートの上に落ちた。
「ば、化け物……」
「ぎゃっ」
「……」
断末の声をあげることもできない警官さえいた。三人は首をネジ切られあっけなく動かなくなった。その死体にかがみこむ黒服は縦に長い瞳孔を開き、舌を長く伸ばして溢れ出る警官の鮮血をすすっている。やがて警官は制服と拳銃だけを残し、綺麗に黒服たちに「吸収」されてしまった。
「こいつら、なんて化け物たちだ」
ハーモニカの彼がそう言って、ターニャに寄り添い拳を構えた。
「ほう、まだやる気らしい。人間にしては少しは骨があるみたいだ。この姿を見てもまだやる気になれるかな」
黒服たちの体が揺らいだ、そして現れたのは三体の「ヤモリ人間」だった。
「やはり、お前たちは化け物だったのか?」
囚われていた男が、ようやく口を開いた。
「化け物だと、お前たちサル型人間とは違うだけのこと、爬虫類型人間『キョウリュウ』と呼べ」
長い舌を震わせながら、ヤモリ人間が近づいてきた。リーダーの男がたたみ込むようにターニャに言った。
「どうだ、これでも俺たちに逆らうつもりか、おとなしくシャーレを渡したほうがいいぞお嬢ちゃん」
ターニャは胸のバッグをしっかりと抱きかかえた。
「これって、なんだか重要なもの。こいつらは危険すぎる、それでもまだこの人たちは戦おうとしている……」
決心のつかない彼女にハーモニカの彼が力強くこう言った。
「任せとけ、こいつらは自分で弱点を言いやがった。馬鹿なのはやっぱりこいつらの方さ」
「なにっ!」
その時、彼らに声をかけるものが現れた。港湾作業員たちだった、店の常連たちだ。
「ターニャ、それに兄ちゃん、加勢するぜ。港をこれ以上汚してもらうわけにはいかないんでね」
「おじさんたち……」
手にモリやヤスを持ちヤモリ人間を取り囲んだ。その中の数人にハーモニカの彼は何かを耳打ちした。
「……」
「なるほどそうかもしれん。よしやってみよう、おい、いいかすぐにここへ用意しろ」
数人の男が倉庫に向かって駆け出した。それを見てリーダーの男が笑った。
「戦車でも持ってくるつもりか、はははははっ」
「そうかもしれんぞ。今のうちに俺を倒してみろよ、ヤモリ人間」
「愚かな、たかが人間にこの俺が手を下すまでもない」
「そうかな、あいつら苦戦しているのじゃあないかなぁ?」
あご先でヤモリ人間たちを指し示し、彼はリーダーを挑発し続けた。
「こいつら、この長モノを器用に使いやがる。近づくことができん」




